02.美しいお嬢様と未解決事件

「お断り申し上げます」


「テオ、そんな風に意地悪を言わないでくれ。それにエレナは難しいけど、私が本気を出せばいつでも君を私だけのものにすることは簡単なんだよ」


 真っ黒い笑みとはこういう顔ですというような見本みたいな顔で言われて流石に背筋が寒くなる。


「こわっ。あ、いえ失礼いたしました。お気持ちはありがたいですが、公爵様に僕を皇太子様付きの従者にしたいと脅すような交渉はお控え頂きたく。僕はお嬢様に仕えることに誇りを持っております。もしそのように無理やり従者にされようとするなら、自害する構えでございますので……」


「ダメだ、テオエル、あっいや、テオ。君が傷つくことは絶対にダメだ」


 急に青ざめた皇太子に少し良い気味だと思ったがあまり過ぎたことをしたら僕にヤバイ感情を抱えているとはいえ

 不敬に問われないとは言い切れない。


 そのやりとりを花のような笑顔で見つめている僕の大天使であるお嬢様。お嬢様はまるで絹糸のような美しい銀髪の髪と、美しいアイスブルーの瞳をされている。顔立ちがあまりに美しくて完璧だからと「氷の公女様」などと呼ぶ人がいるが、そんな人達はお嬢様の天使のような内面を知らない愚かでかわいそうな人たちでしかない。


 本当に僕のお嬢様は今日も尊いのである。


「ところでアレクサンドル様、例の事件はどうなりましたの?」


「本題だね。どうやら思っていた以上にこの事件は闇が深いようだよ」


 皇太子はそういうと目を閉じた。物憂げなその顔を見た婦女子が叫びだしそうな美しい所作だが、僕には当然響かない。


 それは置いておいて、実は皇太子とお嬢様が仲が良いのは趣味が近いためであったりする。その趣味というのが帝国内の未解決の事件について論じるというもので、本来皇族や公爵家の人が嗜む趣味ではないが、昔からこのふたりはそれを好んでいる。


 僕は別に推理や考察は趣味ではない。けれどお嬢様の従者であるから、この趣味にも当然ある程度の範囲で付き合っている。


「帝国病院内での連続乳児失踪事件。今から17年前に帝国病院で相次いで子供が誘拐、失踪した事件。有名なところで我が国の騎士団長であるアルミナ伯爵の長男も失踪している。


 事件概要は帝国病院内の産科にて、5人の乳幼児が失踪した事件。失踪した赤ん坊は大体同じくらいに生まれた子供で、かつ身体的な特徴が一致していた。全員が金髪で青い目をした子供ばかりだった。未だに失踪した子供の行方はようとして知れず、アルミナ伯爵は今も自身の息子を探している」


「そういえば、アルミナ伯爵はご子息に祝福はされたのかしら」


「ああ。しているそうだよ。だから見つけられればすぐにわかるそうだ」


 祝福とはこの国ではポピュラーなものであるが諸外国からは珍しいものとされる一種の儀式である。


 自分の血縁者のみに行うことが可能で、大半はその子の親が子供に行うものである。方法はその対象に口づけをする、ただそれだけ。


 祝福を行うと「祝福印」という唯一の証がその瞳に刻まれて、普段は見えないが祝福を行った者がのぞき込むと光るそうである。


 祝福印は各家門で異なるが基本的はある程度身分の高い貴族のみが行える儀式でもある。


 元々不貞行為が疑われる子供が生まれた場合にその身の潔白を示すために施されるようになったのがはじまりと言われている。


 そのため、血縁者(父母、祖父祖母、兄弟、姉妹まで)でなければその証を刻むことはできない仕様となっているが今は単に家族の証に刻むことも多い。


 アルミナ伯爵もその類で、彼は類まれなる程の愛妻家であり疑いがあるから祝福をおこなったのではない。

 愛する家族ゆえに刻んだのだ。だからこそ最愛の息子の生存を信じて今も任務の傍らで時間さえ許せば捜索を行っているという。


「しかし、なぜ子供をさらったのかしら……17年前といえば、テオあなたとピョートル殿下と同じ年ね」


「そうですね。時期的にも僕やピョートル殿下がお生まれになった時と重なりますね。しかし赤子ばかりというのが気になります。後、外見も……」


「確かに、金髪に青い目の子供なんてまるでテオやピョートルみたいだね」


 そう言って僕に微笑む王太子を無視した。本来なら不敬罪だけど僕が死ぬのをおそれる王太子がが訴えたりしないのは分かっていた。

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