第3話 手袋とぬいぐるみ

俺の妹の体調が悪くなったのは中学2年生の春の事だった。

突然.....肺が苦しいなどと症状を訴えてから.....悪化。

それで病院に行ったら.....ステージ2の肺癌だったのだ。

俺は.....その事にこの世が終わった感覚を受けたが。

夕日はそんな俺にこう言ってくれた。


「.....お父さんが見守っているから」


と、だ。

俺はその事に徐々にショックから立ち直り。

そのまま.....今はただ一生懸命に頑張ろう、とそう決めたのだ。

昔、自殺した.....親父の身代わりじゃないと言って救ってくれた夕日に全て恩返ししようと、だ。


2回も俺は夕日に救われた。

恩を返すのは今なのだ。

だから頑張っている。


「美味しいね。お兄ちゃん」


「.....だな。確かにな」


さっき大谷さんがパイ包みを作り過ぎたから、と持ってきてくれた。

その料理も合わせて.....野菜スープとパイ包み。

俺達はこれでも幸せだった。

ちゃぶ台に置いてある暖かな食事を見ながら。

明日も頑張ろうと、そう決めて.....動き出す。


「.....あ。そうだ。夕日」


「.....ん?何お兄ちゃん」


「.....お前にこれやろうと思ってな。.....こんなんで申し訳無いけど」


「.....え?.....え?」


目を丸くする夕日。

それから俺が手渡した包みを見つめる。

梱包された青色の包みを、だ。


そしてそれを渡した。

何でこんな事をするのか。

それは.....闘病から丁度1年目だから、だ。


「.....闘病.....1年って。お兄ちゃん。お金が.....」


「.....貯めていたんだ。.....今日限りさ」


「.....そう.....なんだ。.....じゃあ私も」


嬉しそうに言いながら棚から何かを取り出す夕日。

それから俺に手渡してくる。

それは何か.....編み物だった.....。

丁度、手袋の様な。


「お兄ちゃんは軍手ばっかりだから。.....作ったよ手袋。.....いつか記念の日に渡そうと思ったんだけど.....まあ今日なら良いかなって」


「.....お前本当に最高の妹だな。.....有難うな」


「.....それを言うならこっちの台詞だよ。.....お兄ちゃん。有難う」


そして互いに交換し合ってから。

そのまま俺は手袋を嵌めてみる.....。

少し小さいが十分だな。


オレンジ色の手袋。

滅茶苦茶に暖かい.....。

すると夕日が声を上げた。


「.....わー.....パンダのぬいぐるみ」


「.....嫌か?」


「お兄ちゃん。私は小学生じゃないよ?もー」


「.....そ、そうか」


「.....でもとっても嬉しいよ。.....有難うお兄ちゃん。.....もふもふ」


ぬいぐるみをまるで.....赤子が親に抱き付く様にする夕日。

それから顔を押し付けてから涙を浮かべた。

俺は、!?、と思いながら、どうした?、と聞く。

すると夕日は、お兄ちゃん。私頑張ったよね、と言ってくる。

それから涙を流した。


「.....怖い」


「.....そうか。.....だよな。.....当たり前だよ。怖いのは。.....俺だったら相当に怖いよ。お前は.....よく頑張ってる。.....本当にな」


「.....お兄ちゃん.....」


「.....正直。.....俺はお前の事を尊敬している。.....強いなって」


「.....そんな事無いけどね。アハハ。.....私はお兄ちゃんみたく頑丈じゃ無いしね」


「.....」


夕日は遠慮しながらそう話す。

俺はその姿に、そうか、とだけ話して笑みを浮かべる。

それから俺は窓から外を見た。

また雪が降り出した様だ。


「.....見ろ。夕日。また雪が降り出してきたぞ」


「あ。本当だ。.....お兄ちゃんのお陰だね」


「.....そんな訳無いだろ。.....フフフ」


「アハハ」


そんな会話をしながら。

俺達は外を見つめる。

そうしていると、そういえばお兄ちゃん何だか今日は嬉しそうだね、と笑顔を浮かべる夕日。


俺はハッとしてから、そうだな、と口角を上げる。

もしかしたら佐藤さんと話したから.....こうやって嬉しいのかもな。

何もかもが、だ。

思いながら夕日を見る。


「夕日。今日はお客さんと友達になったんだよ」


「.....そうなの?.....それは嬉しいね。.....私も燕ちゃんに会いたいな」


「.....そうだな。また呼んであげたら良いじゃないか。燕ちゃん」


「だね。明日でも呼ぼうかな」


燕ちゃんというのは夕日の友人だ。

凪巣燕(なぎすつばめ)。

同級生で.....友人。

俺も、思い出すな.....、と思う。

それは.....仲良かったクロックの存在を、だ。


そして.....大切な人の存在を。


そんな事をふと思っていると。

俺を真剣な眼差しで夕日が見てきた。

それから夕日は俺を柔和な目で見てくる。


「.....お兄ちゃん。また会えると良いね。お兄ちゃんの大事な親友に」


「.....そうだな」


名前も知らない友人。

1週間だけだった友人だけど.....大切だ。

クロックと同じ様に、だ。


思いながら俺は野菜スープを見る。

でも居なくなった今は仕方が無いから。

過去を思い出しても仕方が無い。

今は目の前だけを見ないといけないから.....。

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