ちょっと慣れた
フライドポテトを食べて、ドリンクバーで汲んできたコーヒーを飲んで、居た堪れない雰囲気のテーブルへと戻った。
隣り合って座る少女二人は、ひたすら俯いていた。
一人はバレたくないことを包み明かさずバラされたことにより。
もう一人は、その一人のバレたくないことを包み隠さずバラしてしまったことにより。
それはもう凄惨な殺人現場に居合わせてしまったくらいの、居心地の悪い空間を二人は作っていた。
そんな二人に対して、その二人の情事の被害者とも言える俺。
そんな俺はと言えば……。
正直、ちょっと慣れた。
この数週間、一体どれくらいあの変態(師匠側)に振り回され、挙句物理的にも振り回され、そして何度も吐いたり汗掻いたり泣いたり。
本当、おかげで少し耐性が付きつつあるよ、もう。
そんな耐性持ちの俺にして、いつまでもこんな居心地の悪い空間にいるのはまっぴらごめんだった。
こいつらを立ち直らせるにはどうすれば良いか。
その手段は、実はそこまで難しい話ではなかった。
一人は弟子に悪いことをしたと思って落ち込んで。
……もう一人。
あの、今日出会ったユウキという少女がどうして落ち込んでいるのか。
それは結論、俺に……今この世で最も弱みを見せたくない俺に、弱みを見せたことが原因なのだ。
俺にストーキングしただとか、俺のテニスウェアを嗅ぐことが趣味だとか、俺よりも俺のテニスウェアの方が好きだとか。
そういう、俺に知られることが不都合が情報が俺に知られてしまったから、彼女は落ち込んでいるのだ。
何故か。
それは勿論、俺にそんな情報を知られてしまって……頼りのテニスウェアの供給をストップされることを恐れているから。
……ふと、邪な感情が浮かんだ。
ここで、テニスウェアの代わりにいかがわしいことを要求したら、こいつらは俺の欲求を満たしてくれるのだろうか。
どっかの誰かは俺のテニスウェアがないと恐らくもう生きていけないことくらい容易に想像つくし、もう片方はそいつに教えを乞うた逸材。
……イケそう。
でも、俺は変態でもなければ邪道でもないからそんなことはしないけどね。
……しないけどねっ!
「うおっほん」
わざとらしい咳ばらいをすると、二人の視線が俺に向けられた。
前まで一つだった変態の視線が、二つに増えた……。
ちょっと動転しそうになったが、気を確かに持った。
「……もう、良いよ」
言葉を考えてから発した。
しかし、まもなく今の発言ではあまりにも言葉足らずなことに俺は気付いた。
でも、それ以上を言うのは少し癪。
でもでも、二人の不安げな瞳を見ると……そんな気持ちもどっかへ飛んでいった。
「もういい。テニスウェアはこれからも二人分用意する。だからいつまでも……その、くだらないことで落ち込むの止めろよ」
本当、俺にとってはどこまでもくだらない話なのに。
そんなことでこれ以上この場の空気を濁らせないでくれ……。
「くだらないことじゃない」
「そうです。アキラさん、あなたは自分のテニスウェアの価値を全くわかってない」
めんどくせぇぇぇぇぇぇ!
なんなんだよ。
今後もテニスウェアが供給されることを確約されれば、お前ら的にはオールオッケーだろ?
なんで噛み付くの?
テニスウェア要らないの???
「撤回してよ」
「て、撤回?」
「テニスウェアのこと、くだらないって言ったこと。撤回してよ」
……あれ?
さっきまでは確か……俺、強者の立ち位置にいたはずだよな?
秘密を明るみにされた人と秘密を明るみにした人のせいで、その被害者であるはずの俺が……二人を許す流れだったはずだよな?
なんで俺、謝罪する流れになってるの?
納得いかん。
……ま、いいか。
それで二人の気が済むなら。
これ以上、この場の空気が乱れないなら。
頭も、下げ得か。
だってそれ、使用済みテニスウェア嗅がれていたことに比べれば全然マシだし。
「撤回する。悪かった」
粛々と、俺は頭を下げた。
しばらくの静寂。
「……なんでアキラが謝る流れになってるの?」
それを破ったのは、トラブルメーカーと書いて問題児と書いて結衣だった。
「頭下げた後にそれ言う?」
「だって……悪いのはあんたに黙ってテニスウェア借りてたりストーキングしたあたし達だし」
「確かにそうですね」
「いや、お前達が頭下げさせたんだけどね?」
この天然ぶり、こいつら要らんところまで似てきてない?
大丈夫?
「ごめんね、あんたのテニスウェアのことになると頭バカになっちゃうの」
……本当、大丈夫?
それから二人に謝罪を頂いて、少しの雑談をした後、俺達はファミレスを後にした。
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