第77話 悪魔の凱旋序列1位

「にぃにが死ぬって……どういうこと?」


 ユマルマは声を振るわせながら、アリーシャにもう一度聞く。

 そして『デンワ』越しに何も話さない他のメンバーに向かっても……アリーシャは口を開く。


「……アイツがペラペラと喋っていた弱点」


『……わたしたち最上位魔族3体を消滅させたいなら———3体同時に倒さなければいけませんよ』


『といっても、残りの2体も貴方たちのお仲間が足止めしているようですよ。不死身のイーフリートに、魔力無限のワタシこと、イブリース。攻撃を吸収するジン……ただでさえ、1体で苦労しているような貴方たちにできますかね』


 アリーシャは、目の前で余裕げに見下ろすイブリースの発言を思い出しながら続ける。


「3体同時に倒す。つまり、1体倒しても意味がない。3体同時に倒すことが必須。それなら、『デンワ』を使ってタイミングを合わせて倒した方が確実。……なのに、マスターは『デンワ』を使わなかった」

「……にぃに、なんで『デンワ』使わなかったの……?」

「デンワを使えば、自分の状況が丸わかり。劣勢か優勢かも丸わかり……。もし、マスターが劣勢ならアリーたちの誰かが間違いなく助けに行く。そのことはマスターも分かっているんだと思う。だから、デンワを切った。マスターは自分がどんな状態になろうと、1人で倒し切ることを選んだ」

「……」

「そしてマスターがヤツを倒した時、この戦いは終わる。マスターは、アリーたちを信じてくれる戦っている。だからアリーたちがやることは……」

「やることは……?」

「マスターが倒すまで、アリーたちがアイツを倒し続ければいいだけの話」


 アリーシャは杖を構えて、イブリース強く睨みつける。


「何やら考えが纏まったようですね。しかし……何を考えても無駄ですよ。3体同時など、不可能……。もっとも一番足を引っ張るのは、先ほど自信満々に話していたあの男。不死身のイーフリートに相手に、あの男が生き延びるとは思えません。ふふ」


 上空に浮かぶイブリースは、口角を上げる。

 まだまだ余裕があり、奥の手を見せていない様子。


「アイツが上空にいるの、厄介。魔法が避けられる」

「……」

「ユマ、下がって。まずはアイツの飛行能力をアリーの魔法で潰して———」

「にぃにが死ぬの、嫌だ……」

「っ、ユマっ!?」


 ぞわり、と鳥肌。


 アリーシャがユマルマの異変に気づくのと同時に、地面が震えだした。


『にぃに、返して……っ!!』


 サキュバス国の時とは比べものにならない膨大な魔力量を感じる。

 サキュバス国の時は魔力暴走に近い感じだったのでユマルマを止めていた。


 しかし今は……膨大な魔力で何かしようとしている。


 アリーシャはユマルマを止めることなく、むしろユマルマのフォローに回ろうと頭を切り替える。


「ん、ユマ。自由にやっていいよ。合わせる」

「ありがとう、アリーちゃん」


 ユマルマが前に出る。

 そして、イブリースを見上げる。


「私ね……最初はにぃに危ないからって武器もらえなかったの。でも、みんなとお揃いがいいからって頼んだら、にぃにが作ってくれたの。このケラウノスを」


 ぎゅっ。と強く。持ち手を握るユマルマ。


「にぃには優しくて、かっこよくて、大好き。にぃにとみんなとずっと一緒にこれからもいるの。だからケラウノス……にぃにを死なせないためにユマに力を貸して。ユマのお願い、聞いて」


 ユマルマの膨大な魔力がケラウノスへと流れていく。

 淡く光る大斧を持ち上げ……ユマルマは空を切るように一振り。


 ドゴォンッ。


 ただ斧を振っただけなのに、まるでものすごく重いものが地面に落下してきたような轟音。


 しかし、ユマルマの周りでは何も起こってはいない。


「膨大な魔力だと警戒していましたが……。ふっ、そんなところで斧を振っていてもわたしのところには届———アグぅッ!?」


 余裕そうであったイブリースからは似つかわしくない、情けない声が漏れ出した。


「ぁは? なんッ」

 

 一瞬意識が飛びかけたイブリース。まるで、雷にいきなり打たれたような感覚。


 魔力を込めて反撃しようとしたが……身体が痺れて、うまく魔力を練ることができない。


「ケラウノス偉い子。ユマのお願い聞いてくれる。もっと攻撃して」


 ユマルマが静かに歩き出し……また、斧をひと振り。


「っ、っ!?」


 今度は身体の痺れだけではなく、金縛りにあったようにイブリース動きが固まった。

 飛行能力も停止。

 そのまま地面へ落下していく。


「こ、これはどういう……がぁ、ぐうぅ!?」


 地面についた手さえも容赦なく、大斧で潰された。

 見上げれば、ユマルマがいる。

 容姿は可愛らしい幼女。

 しかし目は、冷たく。殺気に満ち溢れていた。


「にぃにが死ぬのは絶対嫌なの……。でも、あなたが死んだらにぃには生きる。だから……あと何回殺したら……あなたは死んでくれる?」


 膨大な魔力が篭った斧がまた、容赦なく振り下ろされた。




【あとがき】


コミック1巻発売されました!

表紙からめちゃくちゃヤンデレが溢れております。

どうぞよろしくお願いします!

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