第76話 覚悟は、覚醒の時③

 イーフリートの身体を貫通した僕の剣。もちろん、抜くつもりはない。


 だが……僕の身体を貫通しているイーフリートの拳も、簡単には抜いてくれないだろう。


 今どっちが優勢とか、どうでもいい。

 今が……反撃のチャンスだ……ッ。


「反撃だと……? キシャ……キシャシャキシャシャシャ!!!!! 刃が貫通したからなんダ! お前はッ! オマエのカラダはッ! 俺様の腕が貫通している! そんなオマエに! 反撃なんてできるわけがないダローーー!!!」


 尖った歯を剥き出しにして嘲笑うイーフリート。


 ほんと、人を馬鹿にする笑みが得意だよね……。


「……ふ」


 でも僕はイラつかない。 

 

 大量出血だからか、頭がおかしくなっているのか……逆につられて笑ってしまう。


「ッハ! キシャシャシャ!! 強がるなよ! 瀕死状態じゃねーかッ! やっぱりオマエは、弱いッ。無能だッ! キシャシャシャ!!」

「……そんな、余裕ぶって喋っていると……やられるけど?」

「キシャ……そうカァ? オマエに反撃などできるのカァ? 無理に決まってるだろうガ………今すぐ俺様がオマエをコロスのによおォォォォォ!!!!!」


 耳障りな高笑いと共に、僕の胸を貫通しているイーフリートの腕がミチィ、と少し動くのを感じる。


 どうやら、僕の身体から腕を引き抜いて、トドメを刺すようだ。


 むごいことをするよね……。

 

「キャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!! シャシャシャシャ………ァ? ……アアン?」


 ニヤついた笑みで腕を抜こうとするイーフリートだったが……未だに腕は抜けてない。


 僕に、イーフリートのゴツくて太い腕を止めるだけの力はない。


 ……僕のは、違うけど。


「……はは、僕はギルドじゃ最弱だけど……僕の作る武器や道具は結構強いんだよ……?」


 まあ、今発動しているのは僕が作った道具じゃないけど。


 人差し指につけている指輪が淡く光っている。

 この指輪は女神様から貰った魔道具だ。

 怪我をしたら自動回復してくれるという優れもの……。


 自動回復……。


「ッ……俺様の腕が貫通した状態で傷が回復していっているだと……?」


 さすがのイーフリートも驚いているようだ。

 

 イーフリートの拳でぽっかりと空いた部分が……指輪の回復効果でどんどん治されて、穴も塞がっていく。


 ただ、イーフリートの腕だけはまだ貫通した状態なので、そこだけは治せない。


 しかし、指輪の自動回復。


 無理矢理にでも治そうとしているのか……イーフリートの腕をギチギチと締め付けている。


 だから、イーフリートの腕は抜けない。

 回復しまくっている僕の身体のせいで。


 指輪の効果で、貫通したイーフリートの腕が抜けなくなるのは、最初から予想していた。

 予想というより、ぶっちゃけ賭けた部分が大きい。

 そのために僕は、わざと身体を無防備にして狙わした。


「つまりは……僕とお前は同じ条件……」

「……アン?」

「……どんなに切られようがズタズタにされようが……回復する……不死身の身体……」

「オマエ……イカれてんのか? オマエはただ、小道具に生かされているだけじゃねーかぁ。イキルナよ、無能ガッ!」

「その無能に負けるのがお前だよ……。さぁ、我慢比べといこうか……ぁ。僕とお前、どっちが先に死ぬか……」

「ッ、クソガキガァァァァァァァ!!!」


 イーフリートは今すごく機嫌が悪いだろう。


 屈辱的だろう。


 空いた手に魔力が篭るのが分かる。

 また、破壊力抜群のビームとか強烈な魔法とか使ってくるのかなぁ……。

 

 でもそんなの……魔力の発動箇所を切断してしまえば、攻撃は一旦は止まる。


 再生しようが、また切ればいい。

 それを繰り返せばいい。


「じゃあやろう……ふふ……」


 これから、残っている魔力全部使い切るつもりで……僕は【創作】を発動した。



◆◆


 ——アリーシャ&ユマルマ地点


「……にぃに、通話切っちゃった……」


 ユマルマは悲しげに耳飾り式魔道具である『デンワ』に触れる。


「……」


 そんなユマルマとは対照的に……アリーシャは何かに気づき、唇を指に添えて考え込む。


「っ……」


 そして、その重々しい口を開いた。


「……たぶんマスターは……自分の身を犠牲にして戦うと思う」

「え?」

「つまりは……マスターが死ぬ可能性だってある……」


 ゆっくりながらも、アリーシャはハッキリと述べる。


 ————そして『デンワ』は、まだ他のメンバーと繋がっている。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る