第75話 覚悟は、覚醒の時②

「………」

「? どうしたァ? さっきまでの威勢のいい口はどうしたァ? キシャシャシャ!!」


 動かない僕に、イーフリートはゴキゴキ、首を鳴らしながら馬鹿にするように手招き。


「……」 

「さァさァさァ! 早くこいよッ。俺様を倒すんだろッ! 無能でノロマなお前がッッ!! キシャシャシャシャ!!」

「はぁ……」


 僕は息を吐き、息を大きく吸って……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」 

「あン?」


 腹の底から大きな声を出して、僕はイーフリートとの距離を詰めにいった。


「キシャ……キシャシャシャァァ!! 随分と元気になったなァ! これが死に物狂いってやつかァ? いや、もう死ぬ覚悟をしたのかァ? なら、コロしてやるよォ! キシャシャシャシャ!!」


 これでもかとニヤけた姿が瞳に映る。

 イーフリートがまた僕を煽っているが、いちいち構ってもいられない。

 

 こっちはで精一杯。大声を出さないと足がすくんで止まってしまいそうなんだから。


 剣に魔力を込めて、攻撃体勢に入る。


「キシャシャ!! だからお前の攻撃は通らないんだよッ」

 

 斬撃を飛ばすも、見えない壁で弾かれる。

 たとえ隙をみて攻撃が通ったとしてもすぐに再生する不死身の厄介さ。


 どういう仕組みなのか?

 発動条件はなにか?

 僕にはわからない。

 頭が足りない。実力も足りない。

 そんな僕が解決法なんて考えていても、時間だけが経つだけ。

 現状は変わらないまま。

 それか体力が尽きて死ぬのが先か。

 

 でも、確かな情報はある。


『鋭いですね。さすが実力者。頭も回りますこと。ここでいい事を教えてあげましょう。そこらへんを飛んでいる雑魚は置いといて……わたしたち最上位魔族3体をさせたいなら———3いけませんよ』


 デンワ越しに聞いた仲間らしき奴のあの言葉。慢心からか、はたまたハンデというわけか。こぼれ出た情報。


 これが僕が唯一、勝てる方法。

 なら、僕がやるべき事ただ一つ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「キシャシャ!! 元気だけはいい奴だナァ!!」


 斬撃を再び飛ばすも、見えない壁に弾かれる。

 だが、僕自身は弾かれない。

 距離感が詰まり、イーフリートとはあと身体一つ分。


 —————ここだッ。


「はぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 僕は剣を大きく。大きく振りかぶり———


「っ、ガハッ……」


 自分の口から血が出たのが分かった。

 それもかなり大量の血が。


 僕の胸を——イーフリートの拳が貫いのだ。


 口以外からも血が溢れ出す。

 ポタポタ、と優しいものではない。

 

 ……ビシャ、ビチャビチャ。

 

 ゆっくりと下を見る。

 まるでホースで水をかけられたかのように服が赤黒く染まり、地面には赤い水溜まりができていた。


「ッ、ハァ……かぁ、ぁ……っ」


 息をするのが苦しい。

 でもしないと死ぬ。

 吐き出す血を吸ってむせて溺れそうになる。

 ひたすら痛みが……痛い痛い痛い痛痛い痛い……ッ。


「クックック……キシャシャキシャシャ!! 終わったナァ!! お前の負けダァァ!!」


 笑い声が一層響き渡る。

 勝ち勝った顔をしているのだろう。

 もう僕は用済みだと思っているのだろう。


 そんなヤツに僕は告げる。


「……これを待っていたんだよッ」

「あん? ッ!?」

 

 イーフリートの身体から剣が貫通した。

 僕が剣を突き刺したのだ。

 剣が刺された状態なので、傷は回復していない。いや、できない。


 初めて、まともな攻撃が通った。

 

 血だらけの歯を噛み締め……僕はニヤリと笑う。


「ッ、さぁ……反撃だッ」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る