第70話 メイドは凶器
ガルガ、ホルス。そして他の冒険者たちが撤退してフェルとツノらしきものもが生えてた化け物の2人だけになる。
互いに相手のことを探るように睨み合う。
ガルガとホルスはその化け物が誰かわからなかったが、フェルは知っている。
——この化け物は、ハゲテールだと。
「フェル、フェェールウゥゥゥ!! ハッハッハッ!」
ふと、上機嫌に笑い出した。機械音じみた耳障りな嫌な声。何がおかしくて高笑いしているのかわからない。
フェルの表情はいつもの余裕げな笑顔はなく、ただただ真顔。
「気持ち悪いので金輪際私の名前を呼ばないでください」
「いいではないかァ。今のワタシは機嫌がいいのだ。ハッハッ!!」
随分と機嫌良さげなハゲテールは笑う。フェルは依然、真顔。と、思えばため息。
「貴方のことなど興味ありませんから早く終わらせましょうか」
瞬間、間合いを詰めたフェルの拳がめり込む。
「――グがァァっ!」
拳が入った感触を感じると、フェルはすぐさま距離を取った。
地面にゲェゲェと吐き散らかすハゲテール。腹を押さえ苦しそうに顔を顰めている。
「……こんなものですか」
「フェル……フェルゥゥ! もう少し楽しく話をしようじゃないかァ。なぁ?」
「貴方と話しなんてしたくありません。さっさと死んでください」
まるでゴミを見るような瞳で睨む。
ハゲテールはよろよろと立ち上がり、口角を上げ、
「……相変わらず可愛いげのないオンナだなぁ、お前はァ。だーからあんな目に遭ってましまったのだぞォ?」
その言葉にフェルは過去が過ぎる。王家のメイドとして勤めていた自分を。冤罪をかけられ、酷い仕打ちにあった自分を。
珍しく隙を作ってしまったフェルに、ハゲテールはチャンスとばかりに殴りかかった。
フェルはスムーズに強打撃を防ぐ。無表情で見た感じは平気そうあるが、多少のダメージはあったようで、
(これはちょっと時間がかかりそうですね……。クロウ様のところほどではありませんが。ああ、クロウ様……早く戦いを終えて2人っきりのデートを楽しみましょう……♪)
フェルは距離を取り、体勢を整える。すぐさま攻撃。
「————グレイプニル」
4本の鎖を出現させ、ハゲテールの四股を拘束。右腕から鎖できつく締め上げ潰す。
まずは右腕を潰した。ハゲテールからは悲鳴。2本目、今度は右足。くるぶしを締め上げ潰す。悲鳴。
3本目を潰そうとした時だった。フェルの顔が険しくなる。
「……血が止まってる」
潰した右腕と右足。潰せば血が溢れ出る。しかし、今や止まっていた。
反応から見ても攻撃は効いて、通常ならすでに消滅している。しかし、消滅の気配はない。
フェルは勘づいたように呟く。
「……未完成のようですが、半デュラハンといった感じでしょうか」
その言葉に散々悲鳴をあげていたハゲテールの顔が酷く、楽しそうに歪む。
「そうだ、フェルゥゥ。だから貴様に勝ち目などないのだァ。ロイが魔族で、その連れが俺と心臓をぶち抜いて殺しかけてきたが……まぁこの姿も悪くなィィ」
話しているうちにハゲテールの身体は完治していた。そして満足げにに両手を広げて、
「はぁぁぁ! この力……素晴らしいィィ。身体が再生するなんて最高だァ。これで地位に怯える必要などない。気に入らないやつは殺すゥゥ。どんなに強かろうと再生するワタシには勝てないからなァ」
「……」
「しかし、仕事ができる優秀なメイドだったお前がまさか冒険者に成り下がっていたのはなァ?」
「……」
「あー、惨めで可哀想だなァ。冒険者なんぞ汗水垂らして金を稼ぐなんぞ薄汚い存在だ。ワタシのような上の立場が依頼を出さないとずっと魔物を倒して生きていくことになる。あー、可哀想だ。可哀想だなァァ」
人間だった頃では絶対に手に入れることがでがなかった傷の再生と魔族としての力。そして貴族としての地位。この3つが揃った今、自分は無敵だと悦に浸っているのだ。
金だけではなく、力でも支配できる。
——ワタシの時代がきた。
そんなハゲテールをフェルは、鼻笑った。
「……なにを笑っておるゥ?」
「笑うなんて面白いからに決まっているじゃないですか。ふふっ」
「ア?」
ハゲテールは不機嫌なしわを眉間につくる。
「それにしても冒険者が惨めで可哀想ですかぁ……。冒険者、とても楽しいですよ。あと、間違いがあるので言っておくと惨めで可哀想なのは貴方の方かと」
「はぁ?」
とぼけた声を出すハゲテール。
フェルは口に手を当て、さぞかし馬鹿にするように、煽るように語る。
「魔族にあっさりやられたものの、運良く生き残れたことは誇っていいと思いますよ。私が褒めてあげましょうか。凄いですね、凄いですねー。でも、所詮は魔族もどき……残念でした。その力を見せびらかすことはできるのはこの場のみ。貴方は私が殺すので♪」
極めつけはニッコリ満面の笑み。
分かりやすい煽りにまんまとハゲテールは乗り、身体を震わせ、怒りのままに。
「フ、フ、フェルゥゥ! あの頃からムカつくんだよッ。お前のその余裕げな態度がァァ! どっちが上か分からせる必要があるよだなァ。散々痛ぶった後、ワタシの性奴隷にしてやるゥゥゥゥ!」
強大な魔力量を感じる。先ほどよりも皮膚は青紫に染まり、ツノや爪も伸び、どんどん魔族の方へと堕ちていっているようだ。
フェルは鎖を腕に纏い、構える。その際、独り言を呟いた。
「お慕いしておりますクロウ様。貴方と出会えて私、とっても幸せですから」
【御礼】
皆様のおかげでComicWalker漫画賞&コミカライズ進行中です!たくさんの応援ありがとうございました!
(個人的には、バカンス章のクロウの仮面と水着のミスマッチが見てみたいですね。あとはやはり各ギルドの制服とか)
あと、ダークやグロがどこまで再現されるとか……作者も気になります。
良かったら皆さんの気になるポイントも教えてください☺️
引き続きよろしくお願いしますm(__)m
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