第69話 出来損ないでなにが悪い
「キシャキシャ!! やっぱりお前じゃ俺様を倒せねえじゃねーか!!」
「まだ始まったばかりだけどね」
クロウとイーフリートは剣を激しく交錯させていた。
イーフリートの身体を切り裂こうとするものの、その攻撃を紙一重で捌かれている。
2人が衝突するたびに衝撃波が起こる。周りにもはや人はいなかった。邪魔になるといそいそと次なる場所へ移ったのだ。
「——
クロウは剣を振る。数秒後、背後から炎の斬撃が。二段階攻撃だ。
だが、それもガキンッ!と鈍い音を立てて見えない壁に跳ね返された。
「ま、そうだよね」
「キャシャシャ! 俺様を倒すとかふざけたことを言っていた奴の実力じゃねぇなぁ……ヒッヒッ!!」
イーフリートの馬鹿にしたような汚い笑い声が響く。
直接的な攻撃はわざわざ捌くのに、その他の攻撃は見えない壁で弾く。ここから進まないな……。
クロウは体勢を整えるため、一旦距離を置く。
イーフリートは逃がすまいと一瞬で地を蹴り、目にも留まらぬ速さでクロウとの距離を詰めると同時に、太い筋肉の塊のような脚を出した。
強烈な前蹴りを放つようだ。
狙ったのはクロウが剣を持つ右手。まずは利き腕から潰す狙い。
当たれば重症。しかし、その蹴りは擦りさえしなかった。
「チッ、外したか……」
空を切るイーフリートの足先。
瞬間、クロウが空いた左手で掴んだ。すぐさま剣を刺し、切り離す。
ぼとりと地面に足が落ちる。血痕のようなものはない。やはり不死身。
次にイーフリートを見た時には足は再生していた。
「キャシャシャ。残念だったなぁ。お前が初めて付けた傷はもう治っちまったぜぇ……ヒッヒッ」
「次頑張るだけだよ」
「つぎぃ? ヒッヒッ、やっぱり時間稼ぎじゃねぇかよー。誰かがくるまでこうやってチマチマやってるんだろぉ?」
「僕はお前を倒すよ」
「ヒッヒッ。そりゃ無理だなぁ。そろそろお前との遊びも飽きたぁなぁ」
「フェルのところにでも行くつもり?」
「ヒッヒッ、あのピンク色の髪の女はいい女だぁ。ああいう強気な女を屈服させてヤるのが一番燃える。ヒッヒッ……楽しみだなぁ……」
「無理矢理プレイとか悪いけど僕に苦手だからなおさら止めるね」
前世でトラウマなった寝取りゲーを思い出すからやめてほしい。
再びクロウとイーフリートは睨み合う。
見えない壁が魔力を捻じ曲げている。ある程度の実力があれば破れると言っていた。だが、そちらの方に魔力を集中させれば、攻撃を緩めた僕自身がイーフリートに殺さねかねない。
何か裏をかけなければ……
——ガルガ&ホルス地点
「あ゛あ゛ぁぁぁぁっ!」
ある者は切られた腕を押さえて絶叫して悶絶し、あるものは同じく負傷したを押さえて声もなく蹲る。
魔族が本格的攻めてきた。
「ぜぇ、ぜぇ……オラッ!」
「キリがない……っておい後ろっ!」
指摘され、冒険者の1人が後ろを向く頃には魔族が剣を振り下ろしている途中。
身体が動かない——死ぬ。
男は目を瞑った。だが、一向に痛みも死ぬ様子もない。
うっすら目を開けると、その剣は振り下ろされていなかった。何故なら割って入ってきたガルガによって止められたから。
「あっちを守っとけ」
「は、はひ! ありがとうございます!」
直後、ガルガがよって魔族の左肩が後方にねじられ、脱臼した。
魔族といってもその骨格などの基本構造は人間に近しい。
「ァァァァァァ!!」
耳障りな悲鳴が響く。
ガルガはその程度で終わらせるつもりなどなかった。
わめく魔族の後頭部と頸部に強烈な膝蹴りを加え、黙らせたかと思えば、さらに右腕も掴んでねじり上げ、当然のように外した。
ほんの数分にも満たぬ間に、魔族は両腕を破壊され、足蹴にされ、戦闘不能となった。
「す、すげ……」
「なんてスムーズな動き……」
「はぁ……まーじで終わりが見えねぇ」
ガルガが深いため息をつく。
ホルスと喧嘩していたのも束の間、今では慣れた作業に飽き飽きしていた。
ガルガの視線は弓を放つホルスの方へ向けられた。
【フェイノート】
アーサー王伝説などに登場する弓の武器で、狙った場所に必ず当たる「必中の弓」「無駄のない弓」などと言われ、優れた命中力を持つ。
「———フェイルノート4連」
1つ矢が4つに分身し、矢がそれぞれの魔族に的中。血しぶき。また1体、1体……と上空から魔族が落ちてくる。
「キリがないな。元を探さないとどうしようもない……」
そんなガルガとホルスの元にナニカが現れた。
でっぷりとした腹。見た目は人間らしきナニカ。だが、顔は半分は青紫色と血色が悪く、ツノらしきものも生えていた。
「んだ、このオッサン」
「ふむ。人間……だった者だな。何故こんな中途半端な格好なのだ」
「だが、ちょっとは骨のありそうな奴きたんじゃねぇか。俺が先だッ!」
「わたしの方が!」
一斉にガルガとホルスが飛び出す。
しかし、次の瞬間。
「あ?」
「え」
2人の腰に鎖が巻かれた。
人物は瞬時に分かる。
「おいフェル! 何すんだ!」
「一体なんの目標でっ」
振り返ると、真顔のフェルが。切れ長の瞳が細められ、ガルガとホルスを見定めた。
——ゾクリ
気配だけで、察してしまう。
「この人……いえ、コイツは私が相手をするので譲ってください」
「……チッ。あーあーまた数だけの魔族相手かよッ」
「ここは任せたぞ、フェル」
ガルガとホルスは意外にも素直に譲り、他の冒険者を連れてその場を去った。
1人残ったフェルは深呼吸。
「クロウ様ごめんなさい。命令破ってしまって。でもコイツだけはなんとしてでも私の手で……」
『フェル。言うことを聞かないとお前もああなってしまうぞ』
『下級メイドの分際で言い返すとは……』
「過去との因縁を果たしたいと思います」
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