第68話 総力戦〜どちらが本当の悪魔かを③
イブリースと見つめ合うこと数秒。
「——ファイヤ」
瞬間──アリーシャの掲げた魔法の杖の先端からいくつもの炎の矢が放たれ、上空の魔物の肉体を撃ち抜いた。
「ギャァァァァァァァァァァ!」
「ァァァアアアア!!」
上空から耳障りな声が。
「ん、まずは邪魔者を排除しないと」
炎の矢に貫かれた何十匹もの魔物たちは次々と倒れ、残っていた数匹の魔物は逃げていった。
「ほう、やりますね。やはり雑魚どもでは足止めさえもできませんか」
イブリースは未だ穏やかな笑みを浮かべる。
余裕そうだ。まだ何か恐ろしいものを隠しているに違いない。
アリーシャとユマルマは油断しない。武器を構え、イブリースの次なる攻撃に備える。
一方でアリーシャの見事な魔法を見た、応戦している冒険たちが感嘆の声を上げる。
「おおっ、あれだけの数の魔物をあっという間に!」
「なんて魔法使いだ! 一瞬の詠唱で、あれだけの炎の矢を放つなんて……」
「……ん、アリー。ギルドのみんな以外に褒められるの全然嬉しくない」
「アリーちゃんが頑張ってるんだから、ユマも頑張る!」
そう意気込んだユマルマは、イブリースとの距離を一気に詰めた。
「速度も十分に速い……これは一つくらい部位を失っていただかないと」
イブリースの手のひらに膨大な魔力が集まる。そして身体一つ分ほどに迫ってきたユマルマに放った。
「っ! ふん!!」
ユマルマはサイドステップを踏んで体勢を整えた上で、斧を一振り。直後、一閃により、イブリースの攻撃は跡形もなく消し飛んだ。
「はは、素晴らしい! 素晴らしいすぎます! わたしはこれほどの実力者と戦えて嬉しいです」
やはりイブリースは穏やかな笑みで余裕を見せる。よほど上機嫌なのか手を叩き、喜んでいる様子。
「ん、アリーこの人やりにくい。なんかムカつく」
「ユマもこの人、ちょっと嫌いかも……」
「おやおや。お2人に嫌われてしまいましたか。まぁ魔族という時点で嫌われているかと思いますが……。このままではお遊びで日が暮れてしまいます故、少しちゃんとやりましょうか」
「ん、日は暮れない。アリーたちが10分でボコボコにする」
「ユマたち、ちゃんと倒してにぃにに誉めてもらうもん」
「それはいい事ですね。ですが……誰もが貴方たちみたいに軽々と魔族を相手しているわけではありません。人質はこのリゾートの人間、全員ですよ」
イブリースがニヤリと怪しげに笑う。
言葉を聞いて、アリーシャとユマルマは武器を強く握り締める。
「さて……人質を守りながらの戦い。どこまで貴方たちができるか楽しみですねー」
キンッキンッキンッキンッ!!
目にも止まらぬ速さで、フェルの鎖とイーフリートの剣がぶつかり合う。
これだけ高速連打しているのにも関わらず、互いに重心はブレず、一瞬の隙ができてしまえば勝負が決まると言っていいだろう。
助っ人にきた冒険者たちはもはや見ること、聞くことで精一杯で甲高い金属音が響き渡る中で呆然と立つだけ。
「ヒッヒッ……俺様の剣捌きについてこれるとは……」
「当たり前です。こんなのじゃれあい程度……いえ、貴方とのじゃれあいなど気持ち悪いですね。準備運動未満といったところです」
「ヒッヒッ、そりゃ酷い言い草だなぁ〜」
真顔のフェルに対して、イーフリートは楽しそうに顔を歪ませる。
「——
クロウは、フェルの攻撃の合間に攻撃を繰り出す。だが、その全てがイーフリートの僅か手前で、綺麗に逸れていく。まるで、見えない壁に斬撃をずらされているように。
「ヒッヒッ、それに比べてお前は弱いなぁ……仮面……」
「いや、そのガードずるいでしょ」
見えない壁がどういう原理で発動しているかは今は分からないが……ずるい。
「ヒッヒッ、この壁はなぁ、一定の実力があれば簡単に破れるんだよ。ということはお前は強くない。そこら辺で突っ立っている雑魚と同じくらい弱いんだよぉ……ヒッヒッ——」
クロウはイーフリートが話している途中、一気に距離を縮め、顔面に剣を振り下ろしたものの、イーフリートのすぐ再生する手によって食い止められてしまった。
「おっと? ヒッヒッ、言葉に乗せられてやけになったかぁ?」
「……」
……うーん、分からない。なんでフェルの攻撃はわざわざ捌くのに僕の遠距離の攻撃は壁で塞ぐのか……。
イーフリートの煽る言葉など耳に入ることなく、クロウは頭を悩ませていた。
「きゃぁぁぁ!」
「いやぁぁ! 助けてぇぇ!!」
クロウたちがこうして足止めや魔族を捌いている間も各場所では客が騒ぎ、怪我負いと、オルフェンリゾートはパニック状態。孤立した場所にあり、存分にリラックスできる癒しの地は、逃げ場のない地獄と化していた。
「ヒッヒッ……ああ、弱い人間の悲鳴が聞こえてくるぞぉ。お前らがこうして俺様を倒せない間にどれだけの人間が死んだか……ヒッヒッ、数えるのが楽しみだなぁ〜」
「随分と性格が悪い魔族ですね……って、クロウ様?」
突如、クロウが先ほどまで前線で戦っていたフェルの前に立つ。
クロウは剣を振り下ろし、フェルに背を向けて言う。
「フェルは他の場所に行って、数だけの魔族を倒してきて」
「クロウ様……」
フェルのように広範囲に攻撃が効くもののが他の場所に行った方が効率的に物事が片付く。クロウはそう考えた。
そしてクロウがイーフリートと戦うのは時間稼ぎでもなく、足止めでもなく——
「僕がこいつを倒す。だから他は頼んだ」
「お前がぁ、俺の相手だとぉ? ヒッヒッ、俺様にまともに攻撃が届かなかったお前がぁ? よほど死にたいようだなぁ……ヒッヒッ」
「確かに僕は弱いし、最強なのは僕以外の誰かだ。だけど……お前を倒すのは僕なんだよ」
誇るに誇れない台詞を口にする。
だが、その瞳は紛れもなく本気。
「見下していた相手に倒されるなんて屈辱以外のなにものでもないと思うけど……まさか怖気付いて逃げるとかないよね?」
「あん? なんだと……? いいぜ。お前……殺してやるよぉ。ズタズタになぁ……ヒッヒッ」
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