第73話 最上位魔族の目的
「ほっ、ほいっ!」
森の中を走りながら器用に魔族を斬っていくアルマリア。駆けていく彼女のスピードは落ちるどころかどんどん上がる。
そして——アルマリアは森を抜けた。
広がったのは、森の中にぽっかりと作られたような休憩所。
そこには……。
「うわっ、魔族が生まれてるのはここかぁ」
苦笑気味のアルマリアの視線の先には、何倍も大きなクリスタルあった。透明ではなく、赤黒く不気味が悪い。そこからぬぅ……と魔族が出てきて、次々と飛び立つ。
「魔族が生み出される根源……こんなデカくて分かりやすくて壊しやすそうだけど〜」
(絶対なにかあるよね……)
そんな疑いを抱きながらもアルマリアは突きの構えをし、
「全てを砕けッ———グングニル!!」
魔力を纏った槍の突きが、クリスタルを直撃。ヒビが入り……たちまち全部にヒビが広がった。
パリンッッッ!! クリスタルは呆気なく割れた。
クリスタルは破片となって散らばった。魔族が新たに生み出されるのも止まった。
が……アルマリアには安堵も笑みもない。
「全然終わった感じも有利になった感じもないねぇー。はぁ、また何か面倒なことがあるよ、これ〜」
アルマリアは残りの魔族を捌きながら、魔道具『デンワ』を起動。全員同時に通話をかけるのであった——。
◆
各場所では未だ魔族との戦いが続いていた。
首を斬られようが体を刻まれようが、すぐに再生するイーフリートVSクロウ。
未だ疲れと実力が見えないイブリースVSアリーシャとユマルマ。
ジェル状に自由に姿を変えることができる大柄の魔族VSラフィア。
その他のメンバーも各々動いていた。
アルマリアが魔道具の『デンワ』で、魔族を生み出していた根源である、クリスタルを破壊したことを報告する前に——魔族側の方がいち早く気づいたようで。
「ほう。クリスタルが破壊されましたか。先に壊しておくのはいい判断です」
魔族の中でも冷静さが目立つ、イブリースが呟く。その声に、焦りどころかまだまだ余裕さを感じられる。
「む、よそ見厳禁。——メテオファイア」
アリーシャが唱えると、杖の先から無数の火の玉が現れ、イブリース目掛けて高速で襲いかかる。
「おっと」
イブリースはそれらを難なく避けた。
「ん、また避けるばかり」
「戦いが終わらない……むぅ……」
アリーシャとユマルマは眉を顰めた。
先ほどからイブリースは攻撃を避けてばかりで全く攻撃をしてこない。
「ん、てかお前らの目的ってなに? 人質とか言っていた客はみんなが避難させたし、これ以上戦う意味が分からない」
「理由がないなら、もう戦うのはやめようっ」
『さて……人質を守りながらの戦い。どこまで貴方たちができるか楽しみですねー』
怪しげにニヤリと笑い、そう言っていたイブリース。
人質を取り、何かをするつもりだったと予想していたが……今回はそうではないと思い始めた、アリーシャとユマルマ。
「目的……そうですね」
イブリースは顎に手を添え、
「漠然していますが、人類の制圧ですかね」
「…………」
「…………」
アリーシャとユマルマの表情が険しくなった。
「そんなに怖い顔をなされないでください。まだ目的にすぎませんから。実現にはまだ……準備が足りません」
「ん、なに? それじゃあ今日は下見みたいなものなの?」
「鋭いですね。さすが実力者。頭も回りますこと。ここでいい事を教えてあげましょう。そこらへんを飛んでいる雑魚は置いといて……わたしたち最上位魔族3体を消滅させたいなら———3体同時に倒さなければいけませんよ」
「ん、3体同時……」
「他にもあと2体いるんだ……」
「といっても、残りの2体も貴方たちのお仲間が足止めしているようですよ。不死身のイーフリートに、魔力無限のワタシこと、イブリース。攻撃を吸収するジン……ただでさえ、1体で苦労しているような貴方たちにできますかね」
『———まあできると思うよ』
「…………。ほう?」
「ん、マスターの声」
「にぃに!」
魔道具である耳飾りのデンワから聞こえるのは、クロウの声。
今の話を聞いていたのは、クロウだけではない。通話で繋がっている
『僕の仲間はみんな強いから、最終的に勝つのは僕らだよ。人類の制圧なんてさせない」
「ほう、そうですか」
顔の見えぬクロウの言葉に、それまで笑みを浮かべていたイブリースの顔が一瞬、真顔になった。
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