第73話 最上位魔族の目的

「ほっ、ほいっ!」


 森の中を走りながら器用に魔族を斬っていくアルマリア。駆けていく彼女のスピードは落ちるどころかどんどん上がる。


 そして——アルマリアは森を抜けた。


 広がったのは、森の中にぽっかりと作られたような休憩所。


 そこには……。


「うわっ、魔族が生まれてるのはここかぁ」


 苦笑気味のアルマリアの視線の先には、何倍も大きなクリスタルあった。透明ではなく、赤黒く不気味が悪い。そこからぬぅ……と魔族が出てきて、次々と飛び立つ。


「魔族が生み出される根源……こんなデカくて分かりやすくて壊しやすそうだけど〜」


(絶対なにかあるよね……)


 そんな疑いを抱きながらもアルマリアは突きの構えをし、


「全てを砕けッ———グングニル!!」


 魔力を纏った槍の突きが、クリスタルを直撃。ヒビが入り……たちまち全部にヒビが広がった。


 パリンッッッ!! クリスタルは呆気なく割れた。


 クリスタルは破片となって散らばった。魔族が新たに生み出されるのも止まった。


 が……アルマリアには安堵も笑みもない。


「全然終わった感じも有利になった感じもないねぇー。はぁ、また何か面倒なことがあるよ、これ〜」


 アルマリアは残りの魔族を捌きながら、魔道具『デンワ』を起動。全員同時に通話をかけるのであった——。





 各場所では未だ魔族との戦いが続いていた。


 首を斬られようが体を刻まれようが、すぐに再生するイーフリートVSクロウ。


 未だ疲れと実力が見えないイブリースVSアリーシャとユマルマ。


 ジェル状に自由に姿を変えることができる大柄の魔族VSラフィア。


 その他のメンバーも各々動いていた。


 アルマリアが魔道具の『デンワ』で、魔族を生み出していた根源である、クリスタルを破壊したことを報告する前に——魔族側の方がいち早く気づいたようで。



「ほう。クリスタルが破壊されましたか。先に壊しておくのはいい判断です」


 魔族の中でも冷静さが目立つ、イブリースが呟く。その声に、焦りどころかまだまだ余裕さを感じられる。


「む、よそ見厳禁。——メテオファイア」

 

 アリーシャが唱えると、杖の先から無数の火の玉が現れ、イブリース目掛けて高速で襲いかかる。


「おっと」


 イブリースはそれらを難なく避けた。


「ん、また避けるばかり」

「戦いが終わらない……むぅ……」


 アリーシャとユマルマは眉を顰めた。


 先ほどからイブリースは攻撃を避けてばかりで全く攻撃をしてこない。


「ん、てかお前らの目的ってなに? 人質とか言っていた客はみんなが避難させたし、これ以上戦う意味が分からない」


「理由がないなら、もう戦うのはやめようっ」


『さて……人質を守りながらの戦い。どこまで貴方たちができるか楽しみですねー』

  

 怪しげにニヤリと笑い、そう言っていたイブリース。


 人質を取り、何かをするつもりだったと予想していたが……今回はそうではないと思い始めた、アリーシャとユマルマ。


「目的……そうですね」


 イブリースは顎に手を添え、


「漠然していますが、ですかね」


「…………」


「…………」


 アリーシャとユマルマの表情が険しくなった。


「そんなに怖い顔をなされないでください。まだ目的にすぎませんから。実現にはまだ……が足りません」


「ん、なに? それじゃあ今日は下見みたいなものなの?」


「鋭いですね。さすが実力者。頭も回りますこと。ここでいい事を教えてあげましょう。そこらへんを飛んでいる雑魚は置いといて……わたしたち最上位魔族3体をさせたいなら———3いけませんよ」


「ん、3体同時……」

 

「他にもあと2体いるんだ……」


「といっても、残りの2体も貴方たちのお仲間が足止めしているようですよ。不死身のイーフリートに、魔力無限のワタシこと、イブリース。攻撃を吸収するジン……ただでさえ、1体で苦労しているような貴方たちにできますかね」


『———まあできると思うよ』


「…………。ほう?」


「ん、マスターの声」


「にぃに!」


 魔道具である耳飾りのデンワから聞こえるのは、クロウの声。


 今の話を聞いていたのは、クロウだけではない。通話で繋がっている悪魔の凱旋ナイトメアのメンバー全員だ。


『僕の仲間はみんな強いから、最終的に勝つのは僕らだよ。人類の制圧なんてさせない」


「ほう、そうですか」


 顔の見えぬクロウの言葉に、それまで笑みを浮かべていたイブリースの顔が一瞬、真顔になった。




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