閑話 クロウとセリス。弟子と師匠。

 ———僕は絶対いじめられない人生を送ってやるんだ。


 そう思ったものの、仲間集めは実際、大変だった。


 冒険者になる前から入るギルドを決めている者が多く、声を掛けた大体はどこかに所属している。酷い時には俺の女に手を出しやがって、と勘違いされて殴られたこともあった。


 だから……未だ現状は変わらないまま。


 昼間は依頼をこなし、夕方はたまにギルドの冒険者の鬱憤晴らしに付き合わされ……そんなある日のことだった。


「君たち何をしてるんだ」


 路地裏にて。

 腰が立たなくなるほど殴りつけられていたところ、女性の声が響く。


 金髪のウルフカットに吊り目気味の瞳。

 鎧に腰には剣。

 この人もどこかのギルドに所属する冒険者なのだろう……。


「あ? なんだお前」

「おっ、めっちゃ可愛いじゃん」


 美人が現れ、僕を殴るのを止めた。

 下品な笑みを浮かべながら近寄る男2人。


「なぁ、アンタ。この後俺と食事でも——」


 パシーン。


 赤髪の女性は男の1人を音を立てて平手打ち。


「あ?」


「汚らわしい。弱い者を殴るような冒険者が私は嫌いだ」

 

「あんッ?」

 

 平手打ちされた男の額に血管が浮き出る。


「……少し綺麗だからって舐めやがってッ!」


 怒りに任せ、男が剣を抜く。


「——オラッ!」


 助走をつけ振り下ろされた剣。


 女性は冷静に見極め、男の足を払って動きを封じ、横腹目掛けて体当たり。

 壁に叩きつけられた男は、気を失ってずるずると床にのびた。


「てめッ!」


 仲間が倒されたもう1人の男も女性に襲いかかる。

 勢い任せに雑に振りかざされた刃は女性に当たることなく、


「いただだだだだだだだだ!!!?」


 腕を捕まえられ、反対に引っ張られる。

 男の顔はひきちぎれるほど横を向いた。


「どうだい? 剣を使わなくてもこうやって倒せるだろう?」


 女性はにこやかな笑みで僕に向かって言う。


「これに懲りたら弱いものイジメはやめるんだね」


 捻り上げた腕を離し、男を解放。

 彼はのびている仲間を背負い、慌てて去っていった。


 あ、終わったのか。お礼言わないと……。


「ありがとうございます……」


「これくらいいいよ。君、名前は」


「クロウです」


「クロウか。私はセリスだ。君はいつも彼らから暴力を振るわれているのかい?」


「いつもっていうか、入れ違いっていうか……」


「ふむ……」


 僕の返答にセリスさんは難しい顔。


 数秒、沈黙後。


「じゃあうちに来ないかい」


「え……」


 どうしてそうなった?




◆◆


「……お邪魔します」


 セリスさんが住んでいる屋敷にきた。


 リビングに案内されると、そこには同居人らしき三つ編みの女性が2人。

 僕のことを目を見開き、驚いたように見ていた。


「セリス様! 新しいギルドメンバーですか!」

 

「男!? セリス様どういうことですか!」


「シエラ、ルエラ。落ち着いて」


 シエラとルエラと呼ばれた女の子は顔がよく似ており、姉妹か双子なのだろう。


「この子はクロウ。冒険者に暴力を振るわれているところ見つけてね」


「なるほど。助けて連れてきたのですね」


「なんか捨てられた野良猫みたいな人。スンスン……ん、なんか臭うし……」


「この方をどうするつもりですか? 新しいメンバーでないとしたら……」


「弟子とか?」


「弟子か……。うん、いいね。弟みたいで可愛い」


「え、え?」


 女子3人の話に全く突っ込めなかった。

 事が勝手に進んでる。


「クロウ、君は今日から私の弟子だ。明日から早速特訓を始めよう」


「はぁ……」


 夜はご飯とお風呂済ませ、翌日の早朝から特訓が始まった。


「つぅ……」 


 疲れとため息を押し殺す。

 強烈な太陽と厳しい肉体労働で自然と顔が険しくなる。


「どうしたクロウ。まだ準備運動だぞ」


 筋トレから木刀の素振り300回、ランニング……。

 

 これがまだ準備運動とは。


「特訓をこなせない者にご飯も睡眠時間もやれんぞ」


 楽しそうにセリスさんが笑う。


 この師匠……鬼すぎる!!!

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