閑話 弱かったから寝取られた (ホルスside)

※ 閲覧注意(抑えているつもりだけど……)




 人型に姿を変える獣人変化トランス・ビースト。獣人国では落ちこぼれで扱いで良く思われてなかった。


 そんな病気とも取れる症状が14歳の頃にでてしまったホルス。


 彼は意外にも前向きだった。

 何故なら——


「ホルス、差し入れだよ」


 自宅で事務作業をしている時、幼馴染の声でホルスの手が止まった。


 彼女はミリィ。ホルスの幼馴染で恋人だ。


「ありがとうミリィ」


「わぁ、まーた難しいことしてるー」


 テーブルに広げられいる資料らしき紙を難しそう、と睨めっこするミリィ。


「慣れれば大したことはないよ。それにわたしにはこのくらいしか取り柄がないから」


「このくらいとか言わないの。ホルスは頭が良くて優秀だし、戦闘が苦手で獣人じゃないとしても、立派に族のために貢献してるんだから」


 獣人は頭を使ったりすることが苦手。なので、ホルスのように知識や頭脳がある者は貴重な存在で、こうやって内部の仕事を依頼されるのが多々あった。


 それにこういう仕事だと外に出ることがなく、周りからの視線も気にならない。


 いつも励ましてくれる恋人のミリィのために頑張るのがホルスの生き甲斐だった。


 そんなある日。


「ミリィのところに行こう」


 ホルスは髪飾りを握る。

 

 自分で稼いだお金で買った髪飾り。

 最近では仕事が忙しくて全然出かけていなかった。

 

 髪飾りを渡して、来週はデートに行こう。そう言うつもりだ。


 ミリィはどんな反応をしてくれるのだろう、と胸を躍らせ彼女の家を訪れた。


 足を踏み入れたホルスは違和感に気づく。


 妙に暗い、部屋。

 ギシッギシッとベッドが軋む音に。

 微かに聞こえてくる、男の声と女の嬌声。


「ハハッ……まさかな」


 冷や汗をかきながらホルス。

 

 近づくにつれ、声はどこかで聞き覚えがある。


 そっとドアの隙間から人物を確認する。


「っ!」


 そして驚く。

 女の方はミリィ。男は、ホルスの知る人物だった。


 デルガ

 幼い頃からの友人で、ミリィの友人でもある。生まれた時期が近いということで3人でよく遊ぶ間柄だった。しかしホルスとミリィが恋人同士の関係になってからは3人で会う機会が減った。


「……どうしてこの2人が」


 衝撃を受けつつも行為から目が離せない。


「ミリィの胸……柔らけぇ……」


「ふふっ、何度も触ってるくせに」


 何度も、という言葉からホルスの裏で前々から関係を持っていたのだろう。

 

 ホルスは、唇を噛んでぐっと怒りを堪える。


「デルガってば本当に逞しいよね」


「クソ親父に訓練されてるからな」


「ふふっ、それで今では族の代表だもん。立派だよ」


 改めてデルガの容姿を見る。


 ただでさえ大きかった体は、筋肉が鍛えられさらに肥大化していた。


 ——自分より遥かに男らしくて、強い。


「おら、もっといい声で鳴けよッ。それともなんだぁ? あんな落ちこぼれの事がまだ気になるのか?」


 自分のことだとホルスは察する。

 固唾を呑んでミリィの返答に耳を傾けた。


 こんな光景を見た後でさえ、少しばかり自分の味方をしてくれると期待していた……。


 が、そんなものは事実とともにあっさり崩れる。


「そんな訳ないでしょっ。あれは落ちこぼれ相手に優しくしてるっていうアピール。恋人になったのだって収入がいいから。貰ったお金はデルガとのイチャイチャに使ってるじゃーん」


「悪い女だな〜」


 ……嘘だ。わたしが稼いだお金を全部デルガとの浮気に……。

 

 愕然としていると、ミリィが髪を束ねているリボンを触れた。


 それはホルスがミリィに渡したお守りの代わりのリボンだ。決して高価なものではないが、大事なのは値段ではない。


 いつか交換で指輪を渡すための義理の品として渡した大切なもの———ホルスにとっては。


「ん、暑いから髪を解いちゃうね……」


 ミリィは荒い鼻息を上げながら、少しずつリボンを引っ張る。そして──


 リボンが、ほどけた。


「もうこれはいらないよなぁ」


 汚いものを掴むように、リボンを摘み、蝋燭の火の上に垂らし燃やした。


 リボンは数秒で燃え尽きた。

 それがまるで合図のように。


「さぁ、後半戦だ」


 デルガは、四つん這いにさせたミリィの尻に熱心に腰を打ち付けていた。

 

 聞いたことないメスの声。

 快楽に落ちる声。


 やめてくれ……わたしにそんな声を……。

 

「あの落ちこぼれも俺たちがこんな関係と知らずに馬鹿だよなッ」


「あんな弱い奴に初めから興味なんてないよ。頭がいいからって何よ。落ちこぼれはどんなに頑張っても落ちこぼれなのに」


「つか、俺たちの関係に気づかないとか、唯一の頭まで落ちこぼれじゃね!」


「「ハッハッハッハッハッハッ!!」」


 一通り笑い倒し、また行為を再開する。

 

 獣たちは、止まる様子などなかった。






 ホルスは逃げるように家に帰る。

 そして何も発さず……毛布にくるまった時、ようやく声を上げた。


「……うっ、くっ……あっ……」


 顔をぐちゃぐちゃにして、しゃくり上げるように涙を流した。

 

 翌日、ミリィは何事もなかったかのように平然としていた。


 昨日の光景を思い出してしまい、気持ち悪くなる。ミリィを女を男を獣人を、何もかも信用できなくなりそうだ。

 

 ホルスは決意した。獣人国から出ていくことを。


 家に手紙を置き、門の前に行くと、オオカミ族のガルガと会い、一緒に獣人国を出た。

 

 それからは森で狩をしながら過ごしていた。いや、狩をしていたのはガルガ。


 ホルスは戦う事が苦手だ。

 魔物の死骸や血を見るたびにガルガに悟られないように嘔吐し、眠れぬ夜を過ごした。


 だが、それでも見なければいけない。

 生きていくには食べないといけない。

 食べ物は狩らないと手に入らない。


「おい、お前もいい加減狩れや」


「わ、分かっている」


 仕方ない、と徐々にホルスも戦う事に慣れてきた。


 そして——1年後、クロウと出会った。

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