第45話 クロウVSガルガ

 放送で呼ばれ闘技場内に降りた僕とガルガ。


「身内同士で潰し合いをさせようって訳ね」


 王様は機嫌良くニタニタ笑ってるし。


 さて、どうしたもんかねー。


 僕にはいくつかの選択肢がある。


 1.ド派手に負ける

 2.真剣勝負で負ける

 3.ギブアップ


 いずれにしても負ける選択肢しかない。

 実力的にはガルガの方が強いから本戦に進んでもらいたい。


「ねぇ、ガルガ」


「主、言っときますけど俺はガチでやりますから」


 ガルガの目が鋭く光る。


 はいはい、なるほど……ね。


 試合開始の合図後、早速ガルガが仕掛けてきた。


 パァン!

 そんな乾いた音が響く。


「さすが主、躊躇いなく急所を狙った一撃を安易と止めるとは……」


「ッ……結構ギリギリだったけどね。最初でやられたらリーダーとしての顔がないよ」


 交差した腕をほどき苦笑い。

 ガードした腕がヒリヒリと痛い。一発でこれほどの威力とは恐ろしい。


「んじゃ、もっといきますよッ!!」


 一気にスピードを早めてきた。

  一発一発が重く、的確。連撃全てが人体の急所の急所を狙ったもの。

 

 なんとか躱したり、防御できているが一瞬でも気を抜くとやられてしまいそうだ。


 だが、分かる。

 ガルガは前より強くなっている。


 僕もやられてるだけじゃ終わらない。


「おらっ!」


「いっッ!」


 右の拳を下からえぐってみぞおちに入れた。普通なら前のめりになってその場から崩れ落ちるが、そんな好感触はない。むしろ鋼の肉体を前にして軽いダメージ。


「……効いてないね」


「そんな事はありませんよ」


 大振りの左フックが飛んできた。

 スレスレで躱わし、腕を戻そうとした瞬間を狙い掴んだ。ガルガの腕に全体重を乗せて地面に引き摺り倒す。


「ぐあッ!」


 捻り上げて地面にぶつけたため、少しは痛いはず。


 だが、簡単に終わらせてくれないのがガルガ。


 顔面に鋭い衝撃が走り、視界がぐらりと揺れる。顔を殴られた。仮面は……割れなくて良かった。


「っぁぁぁぁあ!!」


「ぁぁぁああああ!!」


 周囲が固唾を飲むほどの殴り合い。


 だが、力差と体力差が歴然。

 先にダウンしたのは僕だ。


 拳が痺れるように痛い。

 へばっている隙をつかれ、ガッチリ体を固められた。


「ッ、主、このまま腕を折ってもやりますか……ッ!」


 ミシミシミシンと、嫌な音がする。

 反撃しようにも、動けない……。


「くっ……降参だよ、降参」


「勝者、ガルガ!」


 審判が言うと、締め付けていた力が抜けて尻餅。ガルガの差し出した手を握り、起き上がらせてもらう。


「また負けちゃった。強すぎでしょ。僕とリーダー交換しようよ」


「いや、リーダーは主。負けても主は俺の主ですから」


 たまに男3人でガチンコバトルをすることがある。負けた人はお風呂掃除という名目で。その時は真剣勝負。今の試合みたいにだ。


「おい、人間もなかなかやるな」

「ああ、あれだけの身体能力とは……」


 僕らの試合など見向きもしないと思っていた獣人たちの口から思いの外、褒め言葉が漏れる。

 やはりいい試合には皆、惹きつけられるのだろう。


「ふんっ。いい試合をしたところでアイツらの1人が落ちたのは変わらん。ざまぁみろだな」


 ニヤニヤとこちらを見る王様に無性に腹が立ったが、大会が終わるまで殴るのは我慢しよう。

 


◆◇


 その頃——


「助かったよ、みんな」

 

 片方の剣についた血を払い、セリスが言う。

 

 獣人国に行っていない、悪魔の凱旋ナイトメアの残りのメンバーは、セリスたちとともに、高難易度のクエストに向かっていたが……悪魔の凱旋ナイトメア赤薔薇ローズ。1、2を争うギルドが一緒に行動していれば、敵などいない。


「ウチもクロくんとこに行きたかったーっ!」


「ユマもにぃにと任務行きたーい」


「はいはいみんな落ち着いて〜」


 ひと段落したところで、皆がわちゃわちゃ会話する中、ルルシーラはセリスに近寄り、話しかけた。


「貴方だけでも倒せたんじゃないの?」


「そんなことはないよ。君たちが足止めをやってくれたおかげで、スムーズに倒すことができたんだ。流石、悪魔の凱旋ナイトメアだね」


「……それだけなの? 私たちに依頼を手伝ってもらうことが本当の目的?」


「何やら不満そうな顔だね。もしかして私がよからぬ企みをしているとでも?」


「自分の口から言うのね。私はそう思ってるわよ」


 疑うような視線を向けるルルシーラに対し、セリスはやんわりとした微笑みで交わす。


「この調子だともう2つくらい依頼をこなせそうだね。じゃあ行こうか」

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