第41話 ゆけ! 男たち!! 

 僕らを見るなり騒ぎ出した……正確的にはユユ、ガルガとホルスの3人。そんな獣人たちが僕らを囲う。


 イケメン、イケメン、美少女、美少女、ブス……今すぐここから抜け出したい。


「ユユ様!? ユユ様ですよね!」

「お前ガルガとホルスだろ、人間化して追い出された落ちこぼれの」


 ユユには驚きの眼差し、ガルガとホルスには落ちこぼれと貶す瞳。フェルは可愛いと言われ、僕は……なんか仮面をつけた変なやつ認定されてる。


「なんの騒ぎだ!」


 男の声が響く。

 集まった獣人たち黙り、一筋の道を開けた。そこから見えるのは、随分と大きな体格をしたオオカミ系の獣人。


「お父様!」


「ユユ……一体今までどこにいたのだ! 探したのだぞ!」 


「お父様! 私は結婚なんて嫌ですからね!」


 ユユはそう言うと、フェルの後ろに隠れた。

 

「お前ら……人間の国から来たのか? どうして貴様らとユユが一緒なんだ」


「僕らは迷っているお嬢さんを獣人国に送りにきたんですよ。それと結婚を阻止してほしいと言われてきました」


「結婚を阻止だと? ふんっ、お前ら人間に獣人国のことは関係ないだろう」


 まぁぶっちゃけ言えばそうだけど。

 

「でも娘さんは結婚は嫌らしいですよ」


「ユユが嫌がっているからなんだ。これは獣人国全体の問題だ。新たな王が強くないと意味はない。その王に娘を継がせ、より強い子供を産む。そうして獣人国は成り立ってきた。そもそもお前ら人間が獣人を阻止するだと? 笑わせるな、落ちこぼれどもが」


 王様の笑い声に続き、周りの獣人たちも大笑い。

 

 王様の意見が正しい気がする。

 けど、ユユが不安そうに見てくるからここで引き下がるわけにはいかない。

 

「あーなるほどね。つまり人間ごときにビビってるんだね」


「……あ?」


 低く、地の底から響くような声が響く。


「いや、だって弱いからそんな高笑いしかできないんでしょ?」


 ここでニッコリと笑う。

 煽りに煽りまくる。こうすると大抵相手は怒ってきて、話に乗ってくれる。


「お前らみたいな人間に負けるはずがないだろう。いいぜ、その挑発受けてやろう。なぁ!!」


 罵倒が飛び交い、もうすごいことになっている。

 どうやら王様だけを煽るつもりが、獣人たちにも火をつけてしまったらしい。まぁいっか、どうにかなるでしょ。


「クロウ様、気をつけてくださいね」


 フェルの言葉に頷いとく。

 

(もしや主は俺たちに見返しのチャンスを与えてくれているのでは……)


(あえて人間と挑発することによって我々がいかに強いか思い知らせる気で……)


((流石、主(若)!!))







 闘技場の中に入る。中々の広さだ。それに参加者も50人をゆうに超えている。


 大会はトーナメントと聞いた。だから今から組み合わせを発表すると思っていたところ、獣人が声を上げた。


「おい! 東西南北の奴らはどうした!」

「……そういえば誰一人いねぇ!!」


「東西南北の奴らってユユの有利な婚約者候補だっけ?」


「そうです。まぁそのうちの1人は多分、俺の兄ですけど」


「ふーん」


 つまり、ユユの婚約者候補たちがいないってことは今日は一般参加者だけなのかな?


「——黙れッ!」


 王の一声で騒がしかった闘技場が静まりかえる。


「お前らなど東西南北の代表者を引き立たせるゲストにすぎぬ。こんなに大勢の1対1の予選をやるつもりはない! ……だから一気に消す」

 

 ニヤリと笑ったと思えば、ガラガラガラと柵が上がる音。


「ぶもぉぉぉぉぉ!!」


 荒い鼻息と共に姿を見せたのは、赤黒い毛皮に覆われたたくましすぎる肉体と鋭い目つき。加えて立派な2本の角を持った魔物、ミノタウロスだった。


 獰猛で好戦的、誰でも知っているメジャーな危険生物。それが——20体。


「さぁ、諸君。せいぜい生き延びろ」

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