第40話 急げぇぇぇぇーーー!!

 馬車に揺られて30分くらい経った。

 僕たちは獣人国に着くまで雑談をして時間を潰している。


「俺たちが獣人と知ってもあまり驚かなかったですね、ユユ様」


 ガルガが言う。


「人間の間では獣人変化トランス・ビーストとして珍しい種族、ましてや最強種って言われているけど、獣人国では違うんだっけ?」


「はい、そうですね。獣人が人間化し、メスなら女性、オスなら男性の姿になる珍しい現象。中にはビーストヒューマン病と呼ぶ者もいます。獣人になれなかった落ちこぼれ、獣人国にいる者はそう言われ育ってきました」


 その人間化が原因でガルガとホルスは獣人国を追い出された過去がある。

 今回、連れていくか迷ったが、意外にも乗り気だったので、こうして連れてきたのだ。


「獣人国では人間化した獣人はよく思われていないのがほとんどです。ですが、一族と違う種族になってしまったからといって国を追い出すのは間違っていると思います。……と、私1人が主張したところでお父様には取り合ってもらえませんでしたけどね」


 ユユは苦笑いを浮かべる。


「お姫様が人間化した獣人を庇っているという噂があったが……」


「本当だったんですね」


 ガルガとホルスが驚き、感心したような声を出す。


「私の力が及ばず国を追放されてしまい申し訳ありません」


「お姫様が頭を下げる必要はない」


「わたしたちは若の元で元気にやっていますから」


「そう言っていただけてありがたいです。そういえば、悪魔の凱旋ナイトメアのリーダーはクロウさんが務めているとのことですね」


「まぁ創立者だからね」


 そう答えると、ユユはガルガとホルスの顔をチラチラと見る。


「ユユ?」


「俺とホルスが素直に従っているのが珍しいのでしょう」

 

「す、すいません……獣人はプライドが高く、誰かの下に付き従うなど滅多に無い事なので」


「へぇー」 


 てことは、少しは尊敬してくれてるということか。


「主はいずれ世界をとるお方だと思っているからな」


「わたしも同感だ。わたしたちが従うきっかけを話せば長くなりますが」


「お2人がこんなにも……。クロウさん凄いです!」


 僕、そんな慕われることした覚えがないんだけど。


 大会はガルガとホルスに任せてすぐ負けようと思ったのに、少しは頑張らないとと思ってしまった。


 ……ん? 大会?


「そう言えばユユって大会のことどうやって知ったの?」


 出会った時はボロボロの布生地に身を包んだ無一文だった。とても情報を収集できる環境にいたとは思えない。


「家出をする時に持ち出した盗聴器型のアクセサリーがあって、そこから獣人国のことを確認してました」


「でも僕と会った時、何も身につけてなかったよね」


「はい、奴隷商人に見つかった時にアクセサリーは壊しました。もし盗聴器とバレたら国の情報の漏洩になりかねませんから」


 それはいい判断だと思うけど……。


「ということは、ユユが言ってた一週間後というのは盗聴が壊される前の情報じゃない?」


「あっ……」


「ちなみに盗聴器を壊してから何日経ったか分かる?」


「す、少なくとも5日は経ってるかと……。ちょっと曖昧です」


「曖昧ってことは、今現在、大会が開催してる可能性も……」


 シーンと馬車内が静まり返る。


「えーと……あはは」


 いや、笑ってる場合じゃないよ。

 このお姫様、奴隷商人に捕まったりと結構抜けてそうだ。


「すいませんここで下ろしてください!!」


「本当ですか旦那!?」


 馬を操っているおじさんにそう言うと急いで馬車を止めてくれた。


 去りゆく馬車を見送り、僕たちは馬よりも早い手段に乗り換える。


「主は俺に乗ってください」


「ユユ様とフェルはわたしの方で」


 ガルガとホルスが眩しい光に包まれたと思ったら、狼と鷲の姿に変身した。


「オオオーー!!」

 

 大きく逞しい野生の肉体。黒色の毛で覆われている。オオカミ族は光のような速さで走り、爪は容易く鉄の盾を裂き、牙は鎧を噛み砕くと言われている。

 

「キアァァァーー!!」


 鷲と言ったが、その姿はグリフォンに近い。鷲の上半身と大きな翼、獅子の下半身を持つ。鋭い爪と嘴が武器。

 力が強く,先ほどの馬車を捕らえて空へと飛び上がることさえ可能だろう。

 

 ガルガは自分の背中に乗るように低く唸る。


「よし、急ごう!」 


 僕の声でガルガが地面を蹴り、ホルスが上空に羽ばたく。


 てか、速ッ! 振り落とされないかな……。

 




 森を駆け抜け、見えてきたのは周囲を巨大な土壁で囲まれた街。


 これが獣人国だ。


「な、なんだなんだ!?」


「敵か!!」


 猛烈な勢いで迫ってくる僕らを警戒する門番の獣人。

 目の前には大きな門。

 このままでは突っ込む形になるので獣人たちに開けてもらおう。


「門を開けてください!」


「あれは……えっ、ユユ様!?」

「ユユ様! ずっと探していたのですよ!!」


 門番の獣人たちが慌てふためきながらも、ユユの言う通り、門を開けてくれた。

 門を潜り、そのまま突き進む。


「ユユ、場所はどこ?」


「もう少し先の方です」


 波の音をさらにうるさくした様な周囲のざわめきなどに反応している暇はなく、建物を飛び越えていく。


「ここですね」


 ユユの言葉とともにガルガとホルスが止まった。そして変身を解く。


 着いたのは石を精巧に積み立てられた巨大な闘技場。そこから放射線状に4つの通りが伸びた作りになっている。


 闘技場の入り口に様々な種類の獣人が長い列をなしていた。

 身の丈ほどもあろう大剣を背負う獣人。先端に鮮やかな宝石が付いた杖を持つ獣人。いずれにしろ、皆、引き締まった肉体だ。


「あ? って……おいおいアイツ……」

「なんで帰ってきてるんだよ……」


 獣人たちの視線が僕たちに注がれた。

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