第42話 舐めプは意外とすぐ飽きる

 牛の頭に人間の体、といった奇妙な外観をしたミノタウロス。体格はがっちりしており、その腕力もさることながら斧を持っている。


 ミノタウロスは叫ぶような動作の後、追尾をしながら突進攻撃。


「グフっ……ッぁぁぁぁあ!!」


 しかし、さすが獣人。

 突進してきたミノタウロスのツノを持ち、正面から受け止める。勢いを殺し、そのまま地面に叩きつけた。


「おお、すごい」


「あれくらいなら当然ですよ、主」


「さて、我々もやりますか」


 やる気満々のガルガとホルス。だが、僕はちょっと待った、と止める。


「ここは逃げの一手だよ」


「戦わないんですか?」


「どうせこれは前座みたいなものでしょ。残れば勝ちって感じだし、無駄に動くのも面倒。この様子じゃミノタウロスは全部獣人たちが倒してくれそうだし」


(まさか主……ここで過度に実力を発揮するなと言っているのでは……)


(確かにこれは本戦前の茶番劇。無駄に力を晒し、探られてはこちらの不利と……)


((流石、主(若)!!))


 まぁ舐めプの準備みたいなものだけど。馬鹿にしていた奴が実は強かったみたいなのしたいだけだけど。


「人間! びびって逃げているばがりではないかっ!」


 一向に動かない僕らを獣人たちが嘲笑う。

 目を離しているうちに20体いたミノタウロスが3体にまで減っていた。


「なーんかおかしいよね」


 確かにミノタウロスは普通に強い。しかし、屈強な獣人相手では力不足。


 王様の方を見ると、余裕の表情。

 その予感は的中した。


「んなっ!? こいつら倒したはずじゃ……」

「なんで何事もなかったようになってんだよッ」


 焦った声。

 何故なら倒されたミノタウロスが次々と起き上がっていたから。

 一瞬にしてミノタウロスの傷が治っていく。

 それだけではない。

 ぶくぶくぶく、と体が変化。筋肉はより引き締まり、目は充血。ビキビキと毛細血管が浮き上がる。


「くっくっ、そいつらはには特製の薬を打っている。そろそろ効果が出始めると思ったがここまでとは……」


 王様は楽しそうな笑みで言う。


「もしかして、薬で覚醒した感じ?」


「ですね。体も随分と大きくなりましたし」


 大人6人分くらいの背丈はある。

 もはや醜悪な化け物。


「ガッ……!」


 獣人の体が宙を舞い、叩きつけられた。あれだけ余裕そうだった獣人が肥大した腕から放たれる攻撃に次々と飛ばされていく。


「わっ、こっちにも来た」


 逃げ場のない闘技場。さすがに攻撃されないで終わることはできないか。


 集まったミノタウロスに対し、それぞれ分かれる。


 ミノタウロスが僕に向けて勢いよく斧を振った、が誰もいない虚空を切る。


「どこ斬ってるのさ」


 直後、ミノタウロスの背後に立っていた僕の声に驚く。


「ちゃんと当てないとダメだよ。何のための武器なのさ」


 挑発するように指をクイクイ。

 まんまと乗ったミノタウロスは振り向きざまに斧を薙ぎ払う。が、それを僕は腕組みしながら躱す。


「はい、はい。頑張ってー」


「ブモォ! ブモォ——!」


 舐めプって異世界に来たら一度やってみたかったんだけど、意外とすぐ飽きるね。すごく暇だもん、暇。


「ブモォォォォォォオオ!!」


 中々当たらない攻撃に苛立つミノタウロス。

 咆哮とともに斧を薙ぐスピードを早める。振って振って振って……烈火の如く連続攻撃。

 

 しかし、その全てを躱わす。


「なっ!? 覚醒したミノタウロスの攻撃をあんなに簡単に……」


 誰かが言う。

 王様の表情は……なんか眉間にシワを寄せてる。


 覚醒したミノタウロス。確かに強い。

 一撃一撃に速さがあり、重さがあり、力がある——だがそれだけ。動きが単純すぎる。所詮は魔物。


 あれに似ているよね。赤に布目掛けて素直に突っ込んでくるやつ。


「これ、うちのギルドだったら1秒で食事行きだからね」


 アイツらは舐めプなんて無駄なことをしないだろう。

 敵が来たら殺す。

 それだけ。


「主、一発いいですか」


「いいよ」


 ガルガとホルスも攻撃しないのに飽きたようだ。


 ガルガはゆっくり息を吸って前かがみになるように構える。

 そしてバネのように力を溜めた後ろ脚で床を蹴って、その勢いを利用し、ミノタウロスの腹目掛けて拳をめり込ませた。

 瞬間、ミノタウロスは宙に吹っ飛んだ。


「一応、臓器系は全部潰したので回復には時間がかかるかと」


「ではわたしがトドメを」


「いってらっしゃい」


 ホルスが落ちてくるミノタウロスの真下に移動し、背中から一撃。


 前から後ろから、強烈な打撃を受けたミノタウロスはグシャリと地面に落ち、動かなくなった。


 とはいえ、倒したのは20体のうちの1体。


 動かない獣人たちは凄惨。まぁすぐに治療すれば死なないだろう。


 参加者の数も結構減ったし、もういいか。


「よし、最後はリーダーとして僕がやるぞ」


 剣を出現させ、ミノタウロスから距離を取る。

 今まで剣を振るわず、避けてばかりだったのはこのためだったりする。


 漆黒の剣にありったけの魔力を注ぎ——


「全身全霊——|黒き剣!!」


 一気に、放つ。

 黒い斬撃が、残りのミノタウロスの首を纏めて、切り捨てた。

 

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