第15話 サキュバス国調査———というより家族旅行

「サキュバス国ですか?」


「そこに派遣された人、主に男が消え去る案件が多発してるんだって」


 ガルガとホルスを部屋に呼び、会議のことを報告していた。


「でさ、この依頼僕たちだけで受けない?」


「わたしはいいですが……どうしてですか?」


「男がいなくなってるならどこかに閉じ込めている可能性もあるし、なにより僕たち男が行った方が効率がいいと思って」


 男が狙いならわざと捕まって現状確認をすることも出来るしね。


「なるほど! それは名案ですね!」


「主、俺も行きます」


「じゃあ女性陣には内緒で明日から出発しよう」



 って、話してたはずなのに……。



「結構大きいのね、この国」

「確かに。かなり恵まれていますね」


「ユマちゃん、アリーちゃん、姉ちゃんの手をちゃんと握っててね〜」

「は〜い」

「ん、」


「あそこのアクセサリー可愛い〜!」

「アルマちゃん、行っちゃダメっ!」


 なんで……なんで女性陣がいるの?

 

 ガルガとホルスを見ると知らんぷりされた。


 結局、ギルドメンバー全員で来てしまったのだ。


「いやこれ、調査というより家族旅行じゃん」


 10人はさすがに多すぎる。しかも僕以外美男美女だからさらに目立つ。


「たまにはこうやってギルドメンバーでゆったりしてもいいでしょう?」


「ルルは昨日、僕と一緒にギルド会議出たよね? これ、一応調査のつもりなんだけど?」


「お任せくださいクロウ様。もしもの時はこの国ごと破壊すればいいのです」


「さらっと怖いこと言わないで。しかもそれ、フェルなら簡単に出来そうだからさらに怖い」


「お褒めに預かり光栄です」


「いや、別に褒めてないよ?」


 ルルとフェルってたまに頭がおかしいときがあるんだよね。


 サキュバス国は人間の住む町とほとんど変わらず石造りの家が並び、街道がのびていた。


「それにしてもこの国、中々面白いね」


 周囲を一周見て、そう呟く。

 面白いと言っているのはこの国の街並みや雰囲気のことじゃない。


「みんな分かってるでしょ?」


 僕の言葉にみんなが頷く。


 この国に入った瞬間から微量だが、が吸い取られている。つまりこの国に入った瞬間からもう

 

 歩いていると僕らに近づいてくる者がいた。


「あの〜、そこの格好良いお兄さんたち〜♡」

「一緒に遊びません♪」


 2本のツノに尻尾。羽は今は出てないが、布面積が少ない服を着るのはあの種族しかいない。サキュバスだ。


 複数のサキュバスが囲み始めた————


「きゃー♡ 素敵な筋肉、鍛えてらっしゃるんですか?」

「彼女さんとかいらっしゃるんですか〜?」


 ————ガルガとホルスを。


 サキュバス達に囲まれたガルガとホルスは戸惑っているというか、嫌そうな顔をしている。そして男性陣の中で僕だけ声を掛けられていない。

 

 仮面の怪しいやつに声なんてかけないよね。改めて悲しく思うよ。


「これが生まれ持った才能か……」


 おお女神よ、いくらチート能力を積まれても、顔が格好良くないと意味がないんだよ。顔が良ければ世の中全て勝ちということだ。


「あの……」


「ん?」


 声を掛けられたので振り向くとそこにはサキュバスの女の子が立っていた。


「これ、良かったらどうぞ……!」


 顔を赤らめながら渡してきたのは一枚の紙。ペラペラ紙。


「あ、ありがとう……?」


 差し出されたので衝動的に受け取ってしまった。そして女の子は走って行ってしまった。


 えっ、なにあの子? モテない僕をからかいにきたの? これで涙を拭けと?


「クロくん何もらったの?」


「紙」


 裏返すと何やら書いてあった。


「サキュバスフェス?」


「なになにー…『創設50周年記念として大広場にてお祭りを開催しております』だって。面白いそうだねっ!」


 お祭りか。サキュバスのお祭り……うん、行くしかないね!


「みんな、試しにこのサキュバスフェスってのに行ってみようと思うんだけど、いい?」


 紙を見せながらそう言うとみんな頷いた。


「あ、主っ!」

「わ、若っ!」


 助けを求めるガルガとホルスを無視し、僕達はお祭りへと向かった。


     

◆◇


 大広場近くの建物から人々を見下ろすサキュバスがいた。


「ヤリマー様、ただいま入られた冒険者から大量の魔力を感じます」


 下っ端らしきサキュバスがヤリマーと呼ばれるサキュバスに跪きそう報告する。


「そう。じゃあでもしようかしら」


「はっ、直ちに準備致します」


 指示を受けたサキュバスはそのまま部屋を出た。


「今回も楽しめそうね。ふふっ」


 大広場に来たクロウ達を見つめ、ヤリマーは不気味な笑顔を浮かべた。

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