第一章 サキュバス国〜重い……色々重い…
第14話 嘘つきは泥棒の始まりです!
「むー」
だだ今僕は激おこプンプン丸である。もうプンプンである。
その理由は————
「約束したよね? ルルが代わりにギルド会議に出るって」
今日は月に一度の各ギルドの代表が集まるギルド会議の日。この前、
ルルは涼しい顔をして言う。
「そんなこと言ったかしら?」
「言った」
言ったもん。ちゃんと聞いたもん。
「でも私はこう言ったのよ。『ダンジョンに参加してくれたら今度のギルド会議、私が出てあげるわ』と」
「言ってるじゃん」
「クロウが言ってる代わりにとは言ってないわよ?」
「あっ……」
本当だ。ルルめ、わざとはめたな……。
「ふふっ。私の方が正しいようね」
僕の反応を面白がるように口に手を当て小さく笑うルル。
「う、嘘つきは泥棒の始まりだもんっ!」
これは泥棒というより詐欺だ。詐欺だっ!
「まあまあクロウ様。そんなに拗ねないでください」
「こんなの拗ねるに決まって——ん?」
隣のフェルが僕をなだめてきた。
…………ん?
「……なんでフェルがいるの?」
ルルがいるのは当然として、なんでフェルまでいるの? 屋敷で見送ってたじゃん。
「ご主人様のいるところにならどこへでも。メイドのフェルです」
「なにそのキャッチフレーズ。しかもフェルはメイドじゃないから」
そういえばギルド会議にはいつもフェルはついてきているような……。だから違和感がなかったのか。
「相変わらず見せつけくれるなー、おい」
僕たちのところにニヤニヤとした笑みを浮かべた男がやってきた。
「よぉ、クロウ!」
「なんだ。ザーンか」
「なんだとは失礼なっ」
笑いながら僕の肩を組んできた。
この男はザーン。こいつもイケメン。ザーンのギルドは僕たちと並ぶくらい強くて有名だ。
「おいおい、また仮面野郎かよー」
また僕たちのところに男がやってきた。
確か名前は———
「君は確かパンティーくんだっけ?」
「パンディーだ!!」
どっちでもいいじゃん。
「俺様の方がこのギルドのリーダーに相応しい!」
自慢げにそう言う……なんだっけ? パンティーくん。このセリフを聞くのも何回目か分からない。
「ルルシーラ、フェル。いい加減覚悟を決めて俺たちのギルドに来たらどうだ? 他の女の子も大歓迎だ。あっ、あの男どもはいらんがな」
「嫌よ」
「お断りします」
「チッ……」
このやりとりも毎回のお約束。
今回も断られて苦虫を噛み潰したような顔をしているパンティーくん。
「くそぉ……。あ? つか、お前。その仮面なんのためにしてるんだ?」
パンティーくんはイライラした様子で僕の仮面を指してきた。どうやら矛先を僕に向けてきたようだ。
「個人の自由だよ」
「はぁ? 自由? そんな仮面をつけるなんてセンスねぇな。それとも仮面外したらめっちゃブサイク的な?」
「……!」
パンティーくんが鋭い。
そのままうざい絡み方をしてきた。
「おい。試しに仮面外せよ」
「お断りします」
「あぁ? クソガキが」
フェルと同じセリフを言ったのにこの対応。酷い。ひどいよパンティーくん。
「そこまでにしてもらえませんか?」
無理やり仮面を取ろうとするパンティーくんに向けてフェルが言う。心なしか怒ってる気がする。
「あぁ? こいつがムカつくから仕方ないだろっ!」
僕なんもしてないんだけど。
「そうですか。なら、仕方ないですぬ—————グレイプニル」
「っなぁ!?」
フェルが唱えるとパンティーくんが突如出現した鎖で拘束された。
【グレイプニル】
北欧神話に登場する巨大な魔狼、フェンリルを縛るために作られた紐または足枷である。ちなみに僕が鎖にリメイクした。グレイプニルには『呑み込む者』という意味がある。
「ぐっ……放せッ!!!」
鎖に縛られて身動きが取れないパンティーくんは足をジタバタさせ意味のない抵抗をする。
他のギルドはというと、気にも留めない様子だった。パンティーくんが絡んでフェルにやられるというのはお決まりであるから。
「全員、注目」
低い声が響く。
瞬間、その場にいた全員が静かになるとともに、その人の方を一斉に向いた。
フェルもいつの間にかパンティーくんの鎖を解いていた。
「これからギルド会議を始める」
前に現れたスキンヘッドのおじさんが言う。この人はゾイズさん。見た目は筋肉ダルマと表現した方がいいだろう。
現役は引退したが昔は凄腕冒険者だったらしい。そして今は全てのギルドを纏めるギルドハウスのマスター。偉い人。
ギルド会議では、各リーダーに国の状況や連絡事項を伝えられる。いわば前世でいう学級委員長会議だ。
それから着々と連絡されていく。
まぁ僕は一切聞いてないけど。
「最後の連絡だ。近日、サキュバス国、獣人国、エルフ国での事件が多発している」
この世界は人種ごとに異なる国に住んでいる。獣人族なら獣人族だけで集まった国があるということだ。
サキュバス国か。やはり男としてサキュバスには興味が湧くものだ。この話は真面目に聞こう。
「特にサキュバス国に関しては向かった者が帰ってこないという案件が多発している。しかもその割合は圧倒的に男の方が多い」
ほうほう。
「そこでだ。———クロウ。お前たちのギルドが調査に行け」
「ん?」
今、僕の名前が呼ばれたような——
「断るわ」
「お断りします」
ルルとフェルが即答で断った。
普通の人ならゾイズさんみたいな偉い人に楯突こうなんてしないし、できない。する人なんて僕のギルドか変わった人のみだ。
ゾイズさんは呆れたようにため息をつき。
「たくっ、相変わらずクロウに……。サキュバスは何をしてくるか分からない奴らだ。だからお前らのように強いギルドに行ってもらいたい」
「それなら他のギルドでもいいですよね? 例えばザーンさんのギルドとか」
呼ばれたザーンは「えっ、俺っ?」みたいな顔をしている。
「クロウを取られたくないのは分かるが、いくらなんでも過保護過ぎだろ……」
またまた深いため息をつくゾイズさん。僕だけ置いてきぼりだ。
「ゾイズさん」
「あ? どうしたクロウ?」
要するにこう答えればいいのかな?
「サキュバス国に調査に行けばいいんですよね? 行きます」
「お、おう。そうか……」
ゾイズさんの声が少し震えた。
なんだが隣からすごく痛い視線を感じる。……うん、気にしなーい。
「じゃあ今日のギルド会議は以上だ。解散」
サキュバス国か。楽しみだなー。
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