第13話 ラノベみたいな異世界は存在しない
「ギャッギャッー」
「キシャーッ!」
最上階にも関わらず、ゴブリンは100体以上いるように思える。
先ほどと変わらず、次々と斬っていると、
「た、助けて……!!」
助けを求めるように走ってきたのはローブを見に纏った女性。9階から聞こえた声と同じものだ。
何か恐ろしいものから逃げるような必死な表情。あと少しで僕たちの元に着く……その時だった。
「————グングニル」
アルマはその女性に向けて槍を飛ばした。
「ごぶっ……!?」
瞬間、女性は口から大量の血を噴き出した。腹部からは大量の血が流れる。
それもそのはず。槍は身体を貫通していたのだから。
「……その汚い手でクロくんに触らないで」
蔑むような目で女性を見つめるアルマ。ラフィアもだ。
……このモードになった2人はもう止められない。
「ど、どう、して……ッ」
腹部を槍で貫かれたため、女性は口から血を吐き出し、うまく声が出せない様子。
おそらく助けにきてくれたとでも思ってるのだろう。
「……どうして? ははっ、もしかして助けにきたとでも思ったの?」
アルマは女性を嘲笑うかのように見ると、投擲した槍を呼び戻した。
「貴方のことは調べがついています、ゴブリンテイマーさん」
ラフィアの言葉に顔面蒼白になる女性。まるで「なぜそれを?」といった表情。
実は受付嬢のナーシャさんにダンジョンに向かう前、説明されていた。
『もしかしたら
だからナーシャさんは僕たちのような強いギルドに依頼をお願いしたかったらしい。
このダンジョに入るには最初に使った許可証が必要だ。だが、女性は僕たちが来る前からいた。つまり、この女性はゴブリンとグルだ。
「せ、せっかく……ゴブリンを使って一儲けしてたのに……ぃ」
女性の後ろを見ると何やら人のようなものがあちこちに転がっていた。そしてとてつもない異臭を放っている。
「……なるほど。男からは金品や装備を取り、女はゴブリンの性欲処理にした、ってところかな?」
「そ、そうよ……。こいつらが元々金品を集めていたから、それを私がテイムして横取りしたってわけ」
テイムとは魔物を好きなように支配出来る魔法である。分かりやすく言うと催眠みたいなものだ。この数を一気にテイムしていたとなると相当な魔力量がいる。
「バレたからって何よ。私は……諦めないわっ!」
すると、女性はポケットから液体が入った試験管のようなものを出し、飲み始めた。あれは回復水だ。
槍で貫かれた腹部はみるみると元通りになっていく。
「ぷはー…、9階まで来た実力は認めるわ。けれど、ここで終わりよ!」
言い終わると同時に何かが飛んできた。
掠って気づく。ナイフだ。
「……ッ」
集中力が切れていた僕はあと少し避け切れず、顔下に傷がついた。
「クロくんっ!?」
「クロウさんっ!?」
かすり傷なのに本気で心配してくれるアルマとラフィア。
そんなに心配しなくてもすぐ治るのに。
頬を触ると垂れていた血が止まっていた。止まったというか傷が治ったのだ。
「僕に傷はつけられないよ」
驚く女性に人差し指につけている指輪を見せつけそう言う。
この指輪は女神様から貰った魔道具。怪我をしたら自動回復してくれるという優れものだ。この指輪が壊れない限り、僕には傷一つ残らない。
ふと、隣ならドス黒いオーラを感じる。
「クロウさん……この人、私が殺していいですか?」
「えっ、殺すのはダメだよ?」
殺人はNGです。
「……じゃあ殺さない程度ならいいですか?」
「う、うん。殺さなければいいよ?」
殺さない程度なら指輪で回復できるしね。
「————エクスカリバー」
ラフィアが女性を押し倒して双剣で勢いよく刺し出した。
「ア、ガアッ…ッ!?」
ズサッ、ズサッと刺すたびに血が飛び散り、肉は見え、骨まで見えていく。
昔の人はこういう状態を見て身体の仕組みを理解したとか言うよね。
「やっ……やめてっ……ガハッ…もう…ゆる……して……」
「許す? 許すってなんですか? 冗談はやめてくださいよ」
ラフィアの目には光がない。
怖っ……。ヤンデレなの? ヤンデレというよりサイコパス?
「クロウさんに浴びせた一撃は私達にとって百撃。だから貴方は最低でも百回刺されてもらわないと困ります」
チラッとゴブリン達を見ると、ゴブリン達もよほどこの光景が怖かったのか萎縮していた。
「今のうち、ゴブリン片付けるか……」
「そうだね」
動きの止まったゴブリンは非常に狩りやすく、1分くらいで片付けた。
「あーあー、ラフィアー? ラフィアさーん? 聞こえてますー?」
ゴブリンを一掃したのでラフィアに話しかけてみるが、刺すのに夢中なご様子。
「………はい? なんでしょうかクロウさん?」
返り血で真っ赤に染まったラフィアが薄い笑みを浮かべる。目は全く笑ってない。
わー、ラフィアまで返り血浴びて血まみれじゃん。
「そこまでにしてあげて、うん。内臓とか出てるからさ、うん。これ以上はそのー、見るに堪えないからさ、うん」
僕みたいに忍耐力がなかったらこの状況では嘔吐しまくってるね。忍耐力ってなんだ?
「いくらクロウさんの命令とは言え、従えません。私はこの雌をあと50回は刺さないと気が済みません」
あっ、もう50回も刺したんだ……。
「ラフィア〜、うちにも刺させてよーっ」
「……。じゃあ残りの50回はアルマちゃんにお願いするね」
「うん、任せて♪ ラフィアみたいに刺しまくるね♪」
と言うものの、女性の身体は血まみれどころか内臓は飛び出し、手足はちぎれ、刺すところなどない。
「せっかくクロくんに貰った物だけど……付けちゃおっ♪」
僕と同じ指輪を女性につけたアルマ。するとあんなに酷かった女性の肉体がみるみる元通りになっていく。
数分後には最初のように綺麗な身体に戻っていた。
「っ……あ、れ? わたし……」
「あ、起きたー?」
「ひっ!?」
アルマを見た瞬間、女性はさそがし恐ろしいものを見たとばかりに悲鳴を上げ震える。
「元気いっぱいだね。じゃあ第2ラウンドといこうかぁ————グングニル♡」
そう言い、再び女性の腹部を槍で貫いた。
「あぁああああああーーーッ!?」
最初よりも痛々しい悲鳴。飛び散る血。しかし傷はすぐ治った。
「その魔法具、怪我しても1秒後には回復するの。でもうちは0.1秒くらいで刺せるから次、回復するまでに10回は刺せることになるねっ♪」
にこやかに笑うラフィアと絶望的な表情をしている女性。まさに天国と地獄。
「さーて、あと何回繰り返せば根を上げるのかな? 少なくとも50回は繰り返してね」
こんなアルマを見ていると、あんなキィキィ言うゴブリンの方が可愛く思える。
50回くらい刺したところでようやくラフィアの手が止まった。
「ふぅ、刺した刺したー」
まるで仕事終わりのように言うが、下にいるのは原型が分からないほど血を流し、身体がバラバラになった女性。
「モウ……コロ、して……コロ、して……」
女性にはまだ息があった。
死なない様に、絶妙なタイミングで指輪を付けたり外したりしてたからだ。
「クロくんどうするー?」
「もうお終い。その人に指輪をはめて回復させて帰るよ。精神的ダメージの方は相当だろうし」
見た目上は回復しても、痛みそのものは感じたのだ。100回以上も刺され続けたらメンタルがやられるはず。
この世界は前世のラノベみたいに上手くいかない。
Sランクモンスターを倒したらどこかのお嬢様の護衛になったとか、美少女からモテモテになるとか……そんなもの、この世界にない。
そして何より……
「ふふ、クロウさんに傷をつけるからこんな痛い目に遭うんですよ」
「そうだよそうだよー。クロくんに傷さえつけなければ捕まえるだけで良かったのにぃー」
ギルドメンバーがめちゃくちゃ重い。ヤンデレかってくらい重い。ヤンデレというよりサイコパスに近い。僕がいじめられていたことが可愛く思える。
「行きましょうかクロウさん」
「クロくん行こっ!」
いつも通りに戻ったラフィアとアルマ。女性を鎖で縛り、ギルドハウスに戻ることにした。もちろん手を繋いで。
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