第1話 メイドさんは少し怖かった

 依頼で稼いだお金で買った屋敷。部屋があり過ぎて使ってないところが大半。というか、屋敷中に何があるかもわかっていない。


 一番使っているリビングで椅子に腰掛けて、新聞を見る。


【号外!今大注目のギルド『悪魔の凱旋ナイトメア』またもや大活躍!!】


「はぁ……」


 また目立ってる……。

 しかも今回僕、クエストに参加してないんだけどなぁ……。まあ、目立っているといえばだけど。


 視線の先には美少女、美人、イケメンが楽しそうに話している。


 あっ、別に僕がハブられているわけではないからね? たまたま今は1人で過ごしているだけだからね。


 僕が転生してきた異世界では、どこかのギルドに入ることが命じられている。


 ギルドの人数は決まっていない。100以上の巨大な戦力を揃えるギルドもあれば、1人でギルドを立ち上げて活動する者もいる。

 

 僕が作ったギルド、『悪魔の凱旋ナイトメア』には男3人、女7人の計10人が所属している。


 有名な割に意外と人数少ない?


 いやいや。このギルド、昔は誰でもOKだったんだけど、最近は10人全員に認められないと入団出来ないという新しいルールが出来たんだよ。

 おかげでここ数年、新規入団者はいない。  

 これじゃあ僕と同じ不細工を入れられないじゃないか。不細工1人いるだけでもモチベーション違うんだけどねぇー。


「クロウ様。コーヒーをお持ちしました」


 長い回想していると、高い身長と引き締まった肉体を誇る桃色ロングの少女が僕の元にコーヒーを持ってきてくれた。

 

「ありがとう」


 コーヒーって美味しいし、飲んでるとできる男感が出るよね。


「クロウ様。先ほどから何やら考え込んでいる様子ですが、何か悩み事でもあるのでしょうか?」


 その悩み事の原因は君も一部あるけどね?


「悩み事があるならこのフェルにお申し付けください」


「心配いらないよ。その気持ちだけで十分だ。ありがとう」


「そうですか……」


 フェルは残念そうな様子であったが、何故か頬を赤らめていた。


 フェルは優しい子だ。

 今は仮面を被っている為、不細工なことは隠されていたが、こんな不細工にありがとうって言われて頬を赤らめる奴いる? いないよね、逆に吐き気を促しそうだよね。


「ねぇフェル」


「はい、なんでしょうかクロウ様?」


 相変わらずのにこやかな笑顔で対応するフェル。

 その姿に安心した僕は素直に聞いてしまった。


「フェルはもしも僕がって言ったらどうする?」


 こんな感じで軽く聞いてみた。


 フェルのことだから止めてくれるか自分の好きなようにして下さいとか言ってくれるだろう。


 視線をやると、先程のにこやかな表情のまま固まっていた。


 シーン。


 心なしか先程まで賑やかだった部屋まで静かだ。まぁいっか、気にしない。


「———クロウ様、それは本気でお考えですか?」


 数秒間固まっていたフェルの口がようやく開いた。

 しかしその声はいつもの優しい声ではなく、どこか冷たい感じの声。


「んー……例え話かな?」


 雰囲気がヤバイそうなのでとりあえず誤魔化す。


「そうですか。もし、クロウ様がこのギルドを抜けるというならば私は……」


「うんうん」


「同じくギルドを抜けるか」


「うんうん」


「クロウ様について行くか」


「うんうん」


「死ぬかですね」


「うんう——って今、物騒な単語が聞こえたんだけど……。えと、同じく抜けるに僕についてくるに最後は?」


「死ぬかですね」


「随分と物騒だね。やめなよ、命大切にしようよ」


 僕のために死ぬとかもったいなさ過ぎる。ドブに硬貨を投げ捨てるみたいなもんだ。いや、それより酷いな。


「私の命はクロウ様に捧げていますから」


 いらないよ、他人の命なんて。

 ハッキリ宣言するあたり、どうやら嘘ではないようだ。


 ツンツン。


「ん?」


 フェルの言動に呆れていると誰かが僕の背中を突いてきた。




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