遠くをみつめる 第13話

ファーストストーリー 幕末


ん、なんだ

この殺気は

サチヨさん、あっちの木の陰に隠れていて


はい



桐沢、女は木の陰に隠れたぞ


見えんな



斉藤


お前は人斬りじゃないか


訳があってな

悪く思わないでくれ


俺を斬るとでもいうのか

面白い

最近、俺の刀は人を恋しがっていたからな


ほお

刀が満足するといいな

沖田のように赤く染まらない事を祈れ


いくぞ、桐沢



え、どうして

お兄様




サチヨ

どうしてここに




お兄様こそ

まさか人を斬っているのではないですよね


おい、桐沢

お前の妹なのか


ああ


沖田の人質にはなれないじゃないか

無駄足だったな

流石にお前の妹を人質には取れないだろうからな


サチヨ

お前は故郷に帰るんだ

なぜに江戸へ

お前と沖田はどういう関係なんだ


お兄様

人斬りだけは止めて下さい

昔のような優しいお兄様に戻って下さい


帰るか、桐沢


ああ



待て、桐沢


斉藤らしいな

刀がそれほど恋しがっているのか


やめて下さい

お兄様は道場が待っているではありませんか


もう言うな

斉藤、またな

刀は俺を恋しがっているだろうが

待たせておけ


斉藤さん

お願いします

やめて下さい


わかった

サチヨさんは桐沢の妹だったのか


はい


そうか、行くぞ


はい



お兄様、どうして

斬らないで下さいと言ったのに


サチヨさん

おそらく、沖田を狙っているはずだ


どうしてですか


江戸に沖田が来ているという情報が伝わったのだろう


それでは、お兄様は沖田さんを斬りに


ああ、人斬りの桐沢はな


そんな


人斬りなのですか


残念ながらな



お兄様




桐沢、まさかだったな

お前も辛いだろうが

それと、沖田とは別だぞ

わかっているな

人質には出来なかったが

沖田を探すぞ


わかった



桐沢、どうやら

あの宿屋のようだぞ


そうか


行くぞ



いらっしゃいませ




宗三さん




里江さん

どうしてここに


桐沢、また知り合いか

今度はまさかお前の女じゃないだろうな


いや


娘さん、ここに沖田という男は泊まっているだろう


いえ、前に京に戻るという事でここには居ません


なに


それより

桐沢さん、どうして

まさか、人を斬っているのですか


ああ、こいつは

人斬りの桐沢という京でも一番の剣の使い手だ


どうして、宗光さん


娘さん、沖田は何処に行ったのかな


知りません


嘘をつけ


いえ、知りません



やめろ、伊達


どうした、桐沢

やはり、お前の女か


違う


どうして、宗光さん


違う

違うんだ

伊達、行くぞ


やれやれと来たな

妹に女か


どうしてだ、どうしてだ

宿命は何を俺に与えるつもりだ

里江

どうしてだ

まさか、ここで会えるとは



宗光さん

どうしてですか

斬らないでと言ったではありませんか

あれほど








この辺がものたらない









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


セカンドストーリー 昭和高度成長期



友恵さん


すみれさん


ここにいると思っていました

友恵さん

大作さんを幸せにしてあげて下さい


すみれさん・・・


お願いします

友恵さん


それはいけません

これを見て下さい




〒599-0125

住田町8丁目5番地 


草部すみれさんへ


すみれさん、はずかしいから

てがみでかくことにしたよ

あまり、うまくいえないからてがみでかいたよ

でも、かくのもへただからな

結婚したいな

もし、よんでくれたら

結婚してくれるかな

わたせるかじしんがないからね


〒899-0125

住田町8丁目26番地


北川大作




どうして

大作さん

どうして、私をそんなに辛くさせるのですか


すみれさんがそばにいて挙げるべきです


いえ、私はただの優しい女性に過ぎないのです

だから

お願いします

すみれさん


友恵さん・・・


でも、大作さんの瞳が戻ったからよかったですね


そうですね


大作さんの瞳に写るのは私ではありません

すみれさんです

大作さんの右腕になってあげて下さい

お願いします


友恵さんは


私は遠くから見つめ続けます


そんな


大作さんに

伝えて下さい

元気でいて下さい

それだけでいいです


さようなら

大作さん

すみれさん


待ってください

友恵さん



遠くで三日月の泣く声がした


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


サードストーリー



ピシ スパ パン


何の音だ

寂しく聞こえるじゃないか

俺の音は

相手はミットしかないのか


八生さん


どうして

もう、時は経ったのに

君を忘れられない





お兄ちゃん


咲子

どうして


タクシーを呼んだの

お兄ちゃんが世界チャンピオンと言ったら

ここに連れて行ってくれて


すみません

困るんですよね

支払いはどうされるんですか


お兄ちゃん

払ってね


ああ、もちろんだよ

運転手さん、これでコーヒーでも飲んで


こんなに


いいから


お兄ちゃんのボクシングを見たかったから

どれだけ強いのかなってね

意地悪かな


ははは

そうだね



おい、おい

誰だ

チャンピオンと話しているのは




俺の妹だよ




え、妹さんがいらっしゃたんですか


ああ、そうだよ

可愛いだろ


お兄ちゃんが目の前で戦っているところを見たい


そうか・・・




バタン バタン


誰だ


チャンピオン

よかったら僕を相手にしてもらえませんか



なぜ突然帰っている



君はポートレック

あなたはジェフトレーナー


ああ

ポートレック君のトレーナーなんだよ

彼もそう言っているから

相手してやってくれないか


もちろん

咲子、お兄ちゃんのボクシングを見せてあげるよ

目の前でね


うん



見せて挙げたかったな



ナナ


「ナナと咲子は何歳くらいか?」検討


同じくらいの年か

なんだか、勝てないな


ポートレック

どうした


いえ


集中しろ

こういう機会はないぞ


はい


とにかく、上へのガードを固めろ

ボディは耐えろ

お前の気持ちで耐えろ

わかったか


はい




カーン






ズバ ズバ


足を使え

回れ、回れ



(うう、勝てない)



バシ バシ


(手をだせないじゃないか)


ほら、こい

こい


うおお


バシ


ううう



お兄ちゃん

怖い


大丈夫だよ


お兄ちゃんはいつも優しいのに

どうして






佑介さん

怖くないですか


何が


人を殴るのが


そうだね






沖田さん

どうして、人を斬らないといけないのですか


それは

仕方ないじゃないか

サチヨさん

この時代が僕を求めているからだよ






八生さん

わからない

自分でもわからない


私は佑介さんが怖いです

優しい佑介さんが

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