涙の香り 第10話
ファーストストーリー 幕末 想いが翔ける
城の近くの蔵にて
助けて下さい
娘さん、大丈夫だよ
桐沢が迎えに来ることになっている
お前を助けにな
だが、この小屋の周囲はわが藩の兵で固められている
いずれにしても
娘さんは大丈夫だよ
桐沢はどうなるかわからんが
今、向かっている
必ず助けるから待っておれ
おい、来たぞ
桐沢が
おおお
バサ バサ
サ ス ジャキ
バサ スパ
ううう
スパ ジャキ
スパ スパ
うううう
なんだあの強さは
走りながら次々と斬っているぞ
師範、もうすぐ此処にたどり着きそうです
なに
そこまで強いとは
師範、逃げた方がいいと思います
そうだな
そうはいかない
師範殿
桐沢
お願いやめて下さい
桐沢さん、斬るのはやめて下さい
里江さん・・・
わかった
助かったな
師範殿
波は想いへ帰る
もうよかろう
桐沢
海辺で想いにふけるのは
何があったか知らんが
仕事の打ち合わせをするぞ
ああ
やっと目が覚めましたね
沖田さん大丈夫ですか
里江さん
どうしてここに
私の宿で働く者から話を聞きまして
沖田さんではないかと思ってここに来ました
まだ、起き上がらないで下さい
しばらくは横になっていて下さい
サチヨさん
どうして、僕はこんなに弱いのかな
もうすぐ、医者が来るそうですので
どれどれ、どの方かな
こちらの方です
ああ、食事をろくに取っていないだろう
はい
疲れもひどいな
斬られたそうだが傷口はだいぶ良い
ここで数日ほど休んでいきなさい
焦らない事だ
わかりました
サチヨさん、もう少し待っていて下さい
沖田さん
申し訳ありません
私がもう少し休ませてあげるべきでした
いえいえ
僕が早く京に帰りたかっただけのことです
沖田さん
どうされました
宿を出る前に
私のことをお尋ねされましたが
ああ、実は僕の知り合いの人に少し似ていて
そうだったのですね
あなたみたいに、きれいな人です
ありがとうございます
その方にお会いしたいのではないのでしょうか
そうですね
それだけではありません
時が僕を待っているからです
セカンドストーリー 昭和高度成長期 想いは忘れない
友恵さん、あかりさん
いつも、ありがとう
僕の身の回りのお世話をしてくれて
大丈夫です
そういえば、買った果物を持ってくるのを忘れました
あかりさん、そばにいて挙げて下さい
あかりさん
お願いがあるんだけど
最近は耳掃除していなくてね
耳かきしてほしいんだ
駄目かな
ありがとう
気持ちがいいよ
あの時と同じだね
すみれさん
どうして私だとわかったのですか
初めて病院に来た時にすぐわかったよ
話してもいないのに
すみれさんの香りがしたんだ
目は見えなくてもわかるよ
また、あの時みたいに
紅の印をつけてくれないかな
気づいていたのですか
もちろんだよ
すみれさんの膝で眠っていたけど
夢はすみれさんを想うことしかなかった
だから
すみれさんの温かさにはすぐ気づいたよ
夢の中に現実として、すみれさんが現れたんだよ
大作さん
大作さん・・・
私は
どうしたの
もう、大作さんの恋人にはなれません
どうして
それは言えません
ごめんなさい
タッタッタッタ
すみれさん
待って
ただいま、大作さん
どうして泣いていらっしゃるの
あれ、すみれさんは
あ
友恵さん、ありがとう
気にしなくていいよ
最初から、すみれさんだと気づいていたから
ううう
タッタッタッタ
友恵さん
すみれさん
友恵さん
わあああ
私達はどうすればいいの
友恵さん
私はそれでもそばにいてあげたい
私は辛いです
でも、大作さんを支えられるのは
私達だけしかいないですからね
そうですね
すみれさん
僕はどうすればいいんだ
友恵さんの想いは十分ほどに感じる
友恵さんの優しさに僕は惹かれる
でも
すみれさん
友恵さん
よくわからないじゃないか
どうすればいいんだ
過ぎ去った日々への想いに僕は惑わされる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サードストーリー 現代 後悔という名の元に
僕は孤独なのだろうか
いや、今は咲子がいる
僕のファンは数知れない
でも、僕のファンは一人でいい
たった一人でいいんだよ
あの時に君はいた
でも
もう今はいない
5年間のことだった
里山さん
もうすぐ世界戦ですね
ランキングに入りましたから
チャンピオンが見えています
私の目の前に
そうだね
やはり、気持ちが沈みます
そうか
八生さんは優しいし
ガラスのように繊細だからね
でも、辛いね
でも、里山さんの試合を見ていると
元気がでます
でも・・・
どうしたの、八生さん
いえ
もうすぐ退院じゃない
退院したら何処かに行こうか
はい
どこがいいかな
動物園に行きたいです
よし、行こう
動物園にて
可愛い動物ばかりですね
そうだね
みんなが猿たちを見ているね
あの猿はみんなについていけないのかな
一人ぼっちだね
みんな、そんな風に見ているのでしょうか
そうだろうね
私もそうなのかな
人についていけないから
みんなが私の事を冷たい目で見ます
それだけです
でも
それが
悲しいです
そんなことはないよ
辛いです
どうして、人より劣っていて
みんなに合わすことができない
私と同じかな
病気ですよね
佑介さん
病気だからですよね
佑介さん
そんなことはないって
少なくとも僕がいるじゃないか
佑介さんは天才でしょ
私は人より遅れています
どうして、そんなに
私に優しくするのですか
どうして、僕の気持ちがわからないんだ
ごめんなさい
あの言葉がいけなかったんだよね
僕のせいだよ・・・
八生さん、明日いよいよ
世界戦だよ
今度の世界戦で僕が必ず勝つから
応援に来てくれないかな
もちろんです
よし、僕も頑張れる
八生さんに勇気を与えるためにも
勝たないと
八生さん
明日いよいよ世界戦だね
一番前の席を取っておいたよ
はい、頑張ってください
楽しみにしています
これを受け取って下さい
どうして、花を
勝ってからでいいんじゃない
いえ、なんとなくです
きれいな花だね
そうですよね
でも、花は枯れていきます
枯れることができるのかな
どうして、そういう事を言うの
明日は勝つから応援しに来て
はい
その頃の僕は今ほど強くなかった
もちろん、当時から天才だとは言われてきて
プロ5戦目にして世界戦だ
だけど、チャンピオンは30勝30KOという
とてつもない強いチャンピオンだった
下馬評では僕が圧倒的に低かった
そして
僕に突き付けられたものとは
八生さん、迎えに来たよ
今日は世界戦だよ
一緒に行こう
里山さん・・
それが・・・
お父さん、どうされましたか
八生はもういない
どうして・・・
そういう事だよ
そういえば里山さんへの手紙があるから
受け取って下さい
佑介さん
ごめんなさい
もう限界です
応援ができなくて
ごめんなさい
でも、いつか応援しに行きますね
佑介さんが苦しいときには
必ず行きますからね
佑介さんは
どうして
あんまりじゃないか
この悲しみの中で世界戦を今日を迎えるのか
謝るのは僕の方だよ
守ってあげられなかった
予想を覆して勝った試合を見せて挙げられなかった
世界戦が来るたびに悲しい想いがよぎる
もう一度、会いたい
八生さんに会いたい
僕が勝つ姿を見せてあげたい
苦しい時に応援しに来るんだよね
でも、今の僕には無理かもしれない
強くなり過ぎたよ
いっそのこと消えてしまえ
俺が
強すぎるからこそ悲しい
八生さん
どうして、僕がいるのに
僕がいるのに
どうして
孤独になるじゃないか
誰が僕を支えてくれるのか
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