悲しみの行き先 第8話
ファーストストーリー 幕末 白いサチヨさんが振ってくる
サチヨさん
僕に出来ることは新選組の仕事も大事だけど
サチヨさんを守ってあげる事だよ
待っていて
里江の宿屋にて
サチヨさん、ここかもしれない
とりあえず行こう
はい
すまない、ここに沖田という男はおりませんでしょうか
申し訳ありませんが
どちら様でしょうか
新選組の斉藤と言います
新選組の方達ですね
そうです
それなら、沖田さんはすでにお帰りになられました
沖田の様子はどうでしたか
怪我が完全に治っていませんでしたので
京に帰るといったんは言われましたが
私がひきとめて
昨日ここを出ました
なんだと
わかりました
京への道中にて
サチヨさん
今頃、どうしているのかな
元気に蕎麦を作っていてくれればいいけどな
僕のことは忘れてね
でも、それも悲しいかな
斬られた傷もまだ痛むけど
そう思うと僕の心はもっと痛い
そもそも、会ってよいのだろうか
駄目に決まっているじゃないか
どうして、そう思う
僕の弱い心を斬ってしまいたい
時は待ってはくれない
急がなければ
早く行って守ってあげなければ
さっきも言っただろう
新選組の仕事もある
どっちだ
どっちなんだ
雪が降って来たな
空にサチヨさんの白くてきれな笑顔が見える
あの時を思い出すな
想いだけが僕を支えてくれている
お侍さん
お侍さん、どうされましたか
大丈夫ですか
こんな所で寝ていたら、風邪をひきますよ
それに顔色も悪いです
サチヨさん
私の事ですか
サチヨさんじゃないの
いえ、違います
俺は幻をみているのだろうか
サチヨさんに見える
少しお待ち下さい
知り合いの方を呼んできますから
お侍さん
大丈夫ですか
土方さんではないですか
どうして、土方さんが此処に
だれでしょうか、土方さんとは
お侍さん、診療所の中に行きましょう
どこか具合がわるいのか
意識がうつろだ
ここに寝かそう
そこの方、手伝って下さい
わかりました
沖田さん
私は江戸に向かっています
早く沖田さんにお会いして
手を握ってあげたいです
さぞかし、冷たいでしょう
温めてあげますから
待っていて下さい
待っていて下さいね
サチヨさん
斉藤さん
辛いと思うだろうが
大丈夫だ必ず会わせてやる
ありがとうございます
外は雪が舞っています
あの時もそうでした
雪の積もる道を二人で歩いていて
沖田さんを想う私は
後ろから追いかけて行きました
沖田さんの残る足跡に
よいっしょ よいっしょと
そう、飛び乗って行きました
沖田さんが笑いながら
サチヨさんは子供みたいだね
そう、言われました
あの時の子供のような
沖田さんの笑顔をもう一度見たいです
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セカンドストーリー 昭和高度成長期 悲しみに酔われて
草部すみれ様
はじめまして、突然の手紙で申し訳ありません
宮地友恵と申します
私は北川大作さんの知り合いになります
実は、大作さんは工場での仕事中に大怪我をされ
そのために右腕を失ってしまいました
それだけではありません、原因はわからないのですが
突然、視力を奪われました
すみれさんは大作さんの恋人であるという事を聞いています
私がお見舞いに行った時にすみれさんへの手紙を読んでしまいました
今は大作さんは病院の中から出ることができません
代わりに大作さんの手紙をお届けするために書きました
ここに同封しておきますので
..................................................................................
草部すみれさんへ
すみれさん、はずかしいから
てがみでかくことにしたよ
あまり、うまくいえ、ないからてがみでかいたよ
でも、かくのもへただから
結婚したいな
もし、よんでくれたら
結婚してくれるかな
わたせるかじしんがないからね
...............................................................................
東京都大田区大森西8-3-5
宮地友恵
すみれさん、ごめんなさい
大作さんの入院している住所を書く事ができませんでした
許してください
これが精一杯です
ごめんなさい
どうして、大作さん
だから
行かないでと言ったのに
あれほど言ったのに
大作さん、会ってそばにいてあげたいです
私が大作さんの目になって挙げたいです
でも、東京まで行くお金が今はありません
今日から昼だけではなく夜も働きますから
待っていて下さいね
スナック 和江にて
あんたが、すみれさんだね
はい
夜の仕事は初めてかい
はい
大変だけど頑張れる
その細い腕で務まるかな
でも、あなたは美人だから人気はあるよ
慣れだから頑張って
変なお客さんや、酔っぱらって絡まれたら
私に言ってね
はい
おや、新人さんかい
名前はすみれと言います
また、色が白くてきれいな子だね
ママ、彼女に一杯、飲ませてあげて
ありがとう、進やん
すみれちゃん、飲んで
いえ、私はお酒は飲めません
すみれ、あんたはお酒が飲めなかったのかい
はい
駄目よ、こういう店でお酒が飲めないと
飲めなかったら辞めてもいいよ
申し訳ありません
頑張って飲んでみます
すみれちゃんは初めてお酒を飲むんだね
はい
じゃあ、酔わない飲み方を教えてあげるから
どうするのですか
最初は苦いから
ぐっと一気に飲みほすといいよ
ぐっと、一気にだよ
はい
飲みました
大丈夫だろ
いえ
閉店後
すみれさん、駄目よ
案外、飲めるけど
少しずつ飲まないといけないよ
はい
気分が悪いでしょ
はい
今日は家まで送って行ってあげるから
ありがとうございます
変なお客さんがいるから気をつけてね
数日後
いらっしゃい、進やん
すみれちゃん、今日も飲もうか
昨日、相談したけど考えてくれたかな
はい、でも出来ません
どうして
好きな人がいますから
すみれ、お客さんにそれだけは言ったら駄目だからね
ママ、その位わかっているよ
それより、お金がないんだろ
しばらく働いたら東京まで行けますので
東京に行ってアパートで生活するには
まだまだ、お金がかかるからね
貯金もなかったんだろ
家賃もこっちの田舎と違って高いから生活できないよ
ごめんなさい
それだけはできません
どうして
1時間くらい我慢するだけじゃないか
1月分くらいの生活費を1時間くらいで貰えるんだよ
ごめんなさい
じゃあ、今日はどんどん飲もう
それならいいだろ
少しだけお小遣いあげるから
ほら、少ないけどこれだけ
ありがとうございます
そうだ、お店が終わったら
近くのラーメン屋に行こう
それならいいだろ
はい・・・
よし、お店も終わったな
ラーメン屋に行こう
ごめんなさい
気分が悪くなりました
ああ、あれだけ飲むからだよ
少し休憩するところがあるから
そこに行こう
何処ですか
怖いです
それじゃ、ラーメン屋の畳で横になるといいよ
わかりました
でも・・・
気分が悪いです
ふらふらします
大丈夫こっちだよ
此処は
駄目です
東京に行きたくないのかな
駄目です、出来ません
大作さんと会いたくないのかな
会いたいです
ほら、手のひらを広げて
受け取ったね
・・・・
大作さん
東京に行くことが出来ます
でも、もう結婚はできません
ごめんなさい
そばでお手伝いをいたしますから
待っていて下さい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サードストーリー 現代 自由という悲しみ
和樹さん、和樹さん
しっかりして
病院に着きましたよ
先生、どうでしょうか
肋骨がいくつか折れているな
内臓に刺さっていないといいが
早速検査しよう
はい
一月くらい入院しよう
内臓にも少し損傷があると思うからね
そんな、ごめんなさい
私があんな事を言ったばかりに
いいんだよ
和樹さん
意識が戻ったようですね
はい
1ヶ月後
退院おめでとう
ごめんなさい
いや、いいんだよ
ボクシングを辞める決心がついたからね
ただ、倒れていなかったからね
はい
ポートレック
よし、これで東洋太平洋チャンピオンになれたな
はい
お前の努力だ
お前は精神的に強い
しかも、打たれ強い
パンチもある
今までダウンしたのは
チャンピオンとスパーリングをした時だけだったな
今度はアメリカに行く
どうしてですか
会長
知り合いの紹介でな
お前にとってはすごい事なんだけどな
どういうことですか
名トレーナーのジェフ・ローリングさんが
お前のトレナーになってくれるんだ
たまたま、知り合いからお世話になったそうでな
お前は恵まれている運にな
彼はいく人ものチャンピオンを育ててきた
そういうことだ
さっそく、来週には出発しよう
未来に向けてだ
お兄ちゃん
お兄ちゃんは強くて自由に飛び回れるのに
私はさびしいの
この部屋だけで少ししか外出できないでしょ
もしかしたら
お兄ちゃんが強いから
咲子・・・
僕はどうすればいいんだ
このままでいいのか
強いだけでいいのか
佑介さん
佑介さんは強いのですね
どうして、私は弱いのかな
辛い
苦しい
佑介さん
私の心は自由になれないのですか
君、どうしたの
いえ
どうして、岸壁から海を見つめているの
いえ
寒いかな
はい
じゃあ、僕のジャンパーをかけてあげるよ
どうして、黙っているの
どうして、あなたもそこにいるのですか
わからないんだ
私もわかりません
とりあえず、あたたかい所にいこう
はい
君の名前は
わかりません
どうして
わかりません
あなたの名前は
俺もわからない
とりあえず行こう
はい
あたたかいところへ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます