りんごの鳴き声 第6話
ファーストストーリー 幕末 時が満ちる
江戸の宿屋にて
里江さん
今までお世話になりました
僕は京へ帰ります
いえ、まだ
傷が完全に良くなってはおりません
もうしばらく、ここで養生されて下さった方がいいと思います
そうでしょうか
はい
焦ったらよろしくないと思います
そうですね
刺客から狙われかもしれません
確かに
沖田さんは強くても、今の沖田さんでは
有利に戦えると思えません
そうですね
それでは、もうしばらくお願いできますでしょうか
はい
京にて
土方さん
サチヨさん、どうされましたか
沖田さんには、お会い出来ないのですよね
ああ
それでは、この花とりんごを渡して貰えませんか
それは・・・
わかった
それは・・・とは
どのような意味でしょうか
いや
気になります、教えて下さい
りんごは食べる事が出来そうですか
ああ、急な用が出来たすまない
土方さん・・・
サチヨさん、待っていてくれ
必ず会えるようにして挙げるから
では
はい
江戸にて
里江さん、ここに運ばれてどの位になりますか
一月ほどです
そんなに
恥ずかしいですね
ところで、此処は宿屋になるのですか
はい、そうです
里江さんは宿屋の女将さんですか
でも、それにしては若いから違いますね
女将は私の母ですが、前に他界して
今は私が女将みたいなものでしょうか
そうなんですか
新選組とここの宿屋とは何か繋がりがあるのですか
いえ、事情はわかりませんが多額のお金を頂きました
なるほど
でも、大分良くなりましたね
はい、明日の頃には帰ろうかと思います
わかりました
1月後
サチヨさん
いえ
ごめんなさい、里江さん
有難うございました
そろそろもう行かなくては
そうですね
京でのお勤めには気をつけて下さい
もうお怪我はなさらないで下さい
里江さんは、誰か想う人がいらっしゃるのですか
どうして、そのような事を聞くのですか
いえ、なんとなく
それでは
はい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セカンドストーリー 昭和高度成長期 残されたりんご
大作さん
その声は友恵さんだね
はい
花を持ってきました
ありがとう
ごめんなさい
気にしなくてもいいよ
友恵さんの優しい気持ちが見えるから
きっと淡い紅の色かな
それとも白い花
どちらにしても優しい色だね
いつも傍にいてくれて助けてくれるからうれしいよ
でも・・・
どうしましたか
いや
ごめんね
すみれさんの事ですね
ごめんなさい
どうして、謝るの
辛いですよね
友恵さんがいるから生きているんだよ
もし
どうしたの
すみれさんも此処にいたら
どうしますか
それは・・・
そうですよね
さっきからごめんなさい
忘れ物をしましたから
家に取りに帰ってきます
僕の気持ちは何処に届ければいいんだ
すみれさんは、今頃どうしているのだろう
蕎麦を作って頑張っているんだろうな
そばに、すみれさんがいたら
僕はどうすればいいのかな
大作さん
りんごを持ってきました
赤の綺麗なりんごですよ
そうなんだね
食べたいな
はい、今から切りますね
美味しいよ
良かったです
友恵さんも食べてみて
美味しいでしょ
はい・・・
大作さんが美味しく思えて下さったら
それで十分です
友恵さんの美味しそうに食べる姿が見えるよ
どうしたの急に黙り込んで
何かいけないことを言ったかな
いえ・・・
ひら
大作さん、何か落ちましたよ
〒899-0125
住田町8丁目5番地
草部すみれさんへ
すみれさん、はずかしいから
てがみでかくことにしたよ
あまり、うまくいえないからてがみでかいたよ
でも、かくのもへただから
結婚したいな
もし、よんでくれたら
結婚してくれるかな
わたせるかじしんがないからね
〒899-0125
住田町8丁目26番地
北川大作
大作さん・・・
何を落としたのかな
大作さん
用事が出来ましたから帰りますね・・・
気をつけてね
友恵さん
大作さん
そうですよね
ごめんなさい
私はどうしたらいいの
でも
やっぱり・・・
大作さん
どうしたの、友恵さん
用事ができたんじゃなかったの
りんごが残っていたのを思い出して
まだ残っていたんだね
はい、半分残っていましたから
あれ、友恵さんも食べたんじゃないの
いえ、少しだけ食べて
切って残していましたから
よかったのに
持って帰って食べていいよ
いえ、大作さんがりんごを美味しく食べている姿を見たくて
今から、むきますからね
友恵さん
そんなに優しくしないでよ
どうしてですか
わかるよ
やっぱり、用事ができました
友恵さん・・・
サードストーリー 現代 弱気な才能
会長、僕は無理です
デビルに勝てるとは
とてもではないですが
そう思えません
馬鹿な事をいうな
努力は才能を超えられるんだ
それは・・・
普通の才能ならあり得ますけど
何を弱気になっている
世界を目指すのじゃなかったのか
よし、今日から普段の倍の練習だ
わかりました・・・
返事が小さい
家族のためじゃなかったのか
そうだ
ナナが待っている
ラモンも待っている
フィリアも待っている
もう、貧しい生活から逃れないと
いや、勝ち取るんだ
わかったか
はい
里山が住むアパートにて
ただいま
お兄ちゃん、おかえり
咲子、ご飯を今から作るからね
うん
僕の両親は既に他界している
一人の妹と小さなアパートに住んでいる
妹は精神障がい者だ
生活面については、ヘルパーに依頼しているが
可愛そうでたまらない
会長だけでなく
日本の団体から公表してはいけないという事になっている
なぜだ
なぜ、精神障がい者の妹がいてもいいじゃないか
孤独だけど完全に孤独な訳ではない
咲子を守ってあげないと
お兄ちゃん
ヘルパーさんからリンゴをもらったの
食べる
ああ、ありがとう
お兄ちゃんの試合を会場で観たい
そうだね・・・
お兄ちゃん、外に出たい
買い物に行きたい
動物園に行きたい
デパートに行きたい
どうして行けないの
どうして
どうして、お兄ちゃんの試合を応援できないの
咲子、今度はお兄ちゃんの試合を応援してくれるかな・・・
うん
フィリピンにて
パパは頑張っているかな
頑張っているよ
ナナ
今日もバナナなの
赤いりんごが食べたいな
ごめんね
ナナ
ラモン
ママ、美味しいよ
バナナは
ごめんね
ママ、僕のバナナを半分あげるよ
ありがとう
ラモン
ママが仕事が出来ればいいのだけど
仕方ないよ、病気だからさ
そのかわり、パパが頑張るから大丈夫だよ
僕も勉強を頑張るよ
パパ、頑張ってね
そうだよ
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