雨が降るなかで 第5話

ファーストストーリー 幕末 石につまずく 



大丈夫ですか


サチヨさん

あれ、ここは何処だ

サチヨさんがどうして此処にいるの


私は里江と言います


サチヨさんでしょ


いえ


ここは何処ですか


ここは江戸の外れの村の宿です


京から離れているじゃないですか

どうして、ここに


沖田様は討幕派から狙われています

怪我を負っているため、刺客から襲われるかもしれないと

そのように、新選組の方達が判断されたようです

ここで、ゆっくり養生されて下さい


本当にサチヨさんじゃないの


サチヨさんとは、どなたですか


いえ、気にされないで下さい




波の音が静かに時を告げる


ザー ザー ザワ ザワ

シュワ シュワ


サー


また、ここに居たのか

お前はいつも遠くを見つめている

何か思うことがあるのか


いや


桐沢

沖田が身を隠したみたいだぞ


そうか


直に行く


わかった

待っているぞ




波と共に記憶が寄せる



あるところで


お兄様


どうした


最近は元気が無いです


そうか、父の病も良くなるといいがな


私は京に行って、少しでも


いや、大丈夫だ

俺が京に行く


だが・・・


どうして、お兄様は道場があるではありませんか


世の事情で仕方ない

俺は呼ばれたんだ


京で何をされるのですか


それも、世の事情だ


教えて下さい

お兄様が心配です


明日には京へ向かう


それに・・・


言うな


その為ですか


黙れ


そばにいて挙げられないのですか

その為なのですね


帰る


お兄様、やっぱり


まあ、いい




波は帰って行く




桐沢、遅かったな


ああ、石につまずいてな


そうか、そうか

お前もつまずくことがあるんだな


いや、つまずいてばかりだ 

今までな


そうか

例の件について話し合うか


ああ




江戸の宿屋にて


どうして、僕はここにいる

そうか、僕は斬られたのか

敗れたのか

何に敗れたのか

剣の未熟さゆえにか

それとも俺が弱いのか

サチヨさん、僕は弱いのかな

サチヨさんを守ってあげられるのか

そうか、弱かったのか

僕は強いはずだった

新撰組の中でも強いと言われていた

雨の音か

そこに僕はいるのかな

そんな気がするな

もう、夜なのだろうか

闇のみだ

僕を包んでいるのは

今の僕では道場の門下生にも勝てないな

斬られているからじゃない

斬られたんだよ

弱い心、僕の心を

ここは江戸か

京に早く行かなければ

守ってあげられじゃないかサチヨさんを

こんな弱音を吐いたら土方さんに怒られるかな

雨に濡れて、京に帰らないと

僕の弱い心を流して貰うためにも




セカンドストーリー 昭和高度成長期 突然が襲う


僕は工場内での事故ということで

左手でもできる簡単な作業をすることになった

給料も今までと同じように貰えるようになったのは幸いだった



それは束の間の間だった



すみれさん

突然が襲ってきたよ

僕に


すみれさんの笑顔が見たいな

せめてそれだけは雪のように溶けてほしくない

看護婦さんの足音が聞こえてきた

僕に夜のご飯を食べさせてくれるんだ

小さい頃に風邪で熱がでた時に

お母さんが食べさせてくれた時を思い出すよ

あの時のお母さんは笑顔だったね


今日は主治医がベッドの横に来られるのか

そっちの方が先生も楽だろうからね

本当は僕が診察室まで行かないと行けないんだけと

先生も辛いだろうな

僕に事実を伝えるのが

どうしてかな

僕は何か悪いことをしたのか

どうして、こんなに悲しい想いをするのかな

雨の音がする

明日も雨の音がするのだろうな

その次の日も

雨の中なのかな

せめて、すみれさんの声だけでも

聞きたいよ

雨の音じゃなくて

手紙すら書けないじゃないか

僕はどうしたらいい


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

サードストーリー 現代 孤独の痛み


誰もいないじゃないか

僕と戦う相手が

それでいいんだ

ただ、それよりさびしい

僕は一人だ

リングの時は数万の観客はいるけど

いつも俺は一人だ

何のためにボクシングをやっているんだ

金のためか、名誉のためか

もう十分だ

俺がやった間違いを続けるのは

気持ちを伝えるのは下手だった

殴るのは上手だろうけど

僕にあるのは孤独だ

孤独が常につきまとう

傘を忘れたか

雨に濡れながら帰るとするか

今の僕に相応しい



ポートレック

ついに日本に来たな

今や日本はボクシング大国だからな

日本の大手のジムで練習させてもらう事になった


ようこそ、カンテンルー会長

それと、ポートレック君か

まあ、軽くシャドーでもしてうちの選手とでも

スパーリングでもしてみたらどうかな


はい、立元会長、有難うございます


ポートレック

シャドーも終わったから

スパーリングをお願いしろ


はい


北園、彼はフィリピンの国内チャンピオンだ

胸を借りるつもりで行ってこい


はい



カーン



ああ、里山チャンピオン


会長、フィリピンの選手ですね


ああ、彼はフィリピンの国内チャンピオンだ


スパー相手を呼んでくれたのですね


そうだ

彼なら少しは練習になるかもしれないからな


そうだといいですけどね

打たれ強いな

パンチもある



バシ


うう



いやあ、流石、フィリピンの国内チャンピオンだ

僕は里山というけど

よければスパーしないかな


おい、ポートレック

チャンピオンだぞ

デビルだ

胸を借りてこい

お前が目指すところだ

こういう機会はないぞ


はい


お前の強打が一発でも入れば面白いぞ


頑張ります



お手柔らかにね


はい、こちらこそ

チャンピオン



カーン



ス ス


ヒュ  ヒュ



おお、あの軽やかなステップ、あのスピード

まだ、遊んでいるところだぞ


そうだな


おい、ガードを下げた

余裕だな、かすりもしないぞ


ドン


おおお、ダウンだ

たった、一発のカウンター

立ち上がれないぞ


君、大丈夫か


ああ、有難うございました

さすがチャンピオンですね

何も出来なかったです


いや、君もいい動きしていたよ

東洋太平洋チャンピオンも視野に入れてもいいと思うぞ



お世辞にしか聞こえない

僕はそんなに弱いのだろうか

こんなにパンチが当たらないとは思えなかった

あれが世界の壁なのか

僕は所詮こんなもんなのか

フィリピンの国内チャンピオンだけに過ぎないのか

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