第15話
ストワード王国を目指し、シャフマ王国の砂漠を歩く一行。
「はぁ……昨日は散々な目にあったわね。ルイス、私あんな怪物見たの初めてよ!なんだったのかしらね?」
(分からない……けど)
斬ったときに砂の感触がして倒したと思ったら怪物の全身が砂になって消えたことを思い出す。
「砂の賊と似ていた」
「そうだな。砂の賊と同じ原理だろう。宮殿にいた伏兵と同じように消えたしな」
隣でメルヴィルが同意する。
「……伏兵と同じだとするとストワード王国からの刺客なのかしらね?」
アンジェが声を潜めて言う。
「まだそうと決まった訳ではありませんが、可能性は高いです。ぼっちゃんを襲う目的で怪物を放ったと考えるのが妥当でしょう」
「チッ……ボンクラ王子のせいで罪のない国民が襲われたのか」
「メル!そんな言い方ないわよ!アレスト、気にする必要な……あら?どうしたの?」
「……」
珍しくアレストが神妙な表情をしている。ルイスも不審に思って見つめる。
「ぼっちゃん、体調が悪いのですか!?それとも昨日の戦闘でなにか怪我でも!?」
リヒターが慌ててアレストに声をかけると、アレストが「ん?」と顔を上げた。
「なんだ?」
「い、いや……珍しくメルヴィルにつっかからないんだなと思って」
ベノワットが言うと、アレストが「悪いね。聞いていなかった。考え事をしていたのさ」と説明をした。
「本当にそれだけですか?体調が優れないのなら王宮へ送りますよ」
「いいって。体は大丈夫さ。なんともない」
「それならいいですが。……なにかあったらすぐに言ってください」
「わかったよ」
アレストは面倒臭そうにため息をつく。そしてまた神妙な顔に戻ってしまった。
(砂の怪物のことだろうか)
アレストはなにか知っているのかもしれない。しかし見たことの無い真剣な表情で黙って歩いている彼の後ろ姿にはなんとなく聞けなかった。
夜になってしまった。寒くて体が震える。隣でアンジェが小さくくしゃみをする。
「だいぶ進んできましたね。明後日にはストワード王国に入れるかと思います」
リヒターが地図を広げて言う。メルヴィルが「眠い」と低く言った。
「軍師さん……僕も眠いです……」
ルイスの服の裾を掴んだのは少年剣士ティッキーだ。眠そうに目を擦っている。
「おい、ティッキー。そんなに強く目を擦るな。砂が入ったら傷になる」
メルヴィルが屈んで鞄からハンカチを取り出す。自分の飲料用の水でそれを少し濡らすとティッキーの目に優しく当てた。
「……宿に着くまではそれで我慢しろ。着いたら洗ってやる」
「うん、ありがとうございます!メルヴィルさん大好きです!」
ティッキーは無邪気にメルヴィルに抱きつく。普段は不遜な顔をしてアレストやリヒターに噛み付くメルヴィルが今は優しいお兄さんに見えた。
「ふふふ……メルヴィル、あんたはいいお父さんになれそうだねェ」
「ふん、父親になどなるつもりはない。子どもなんて面倒なだけだ」
「……メルヴィルさんは、僕が嫌いですか?」
「ギャハハ!!ヤバ!メルヴィルがガキを泣かせた!」
「ち、違っ。これはハンカチの水だ!ティッキー、お前は特別だ。だから……嫌いではない」
照れくさそうに顔を赤くして言う。
「良かった……嬉しいです!僕、ここに来てよかったです……ふぁあ……」
ウトウトするティッキーを抱きかかえたメルヴィルがリヒターに宿を取るように言った。リヒターが頷いてすぐそこの街に泊まることになった。ルイスはそれを聞いたアレストが静かに口角を上げるのを見逃さなかった。
「わぁ!結構明るい街ね!」
「ここは辺境でも大きい街です。はぐれないように。特にぼっちゃ……ん? なっ!?」
リヒターが辺りを見回す。アンジェとメルヴィルもアレストがいないと気づく。
「チッ……あのクソ王子が!!!」
「ちょっとメル、あんまり大きな声で王子って言わないで!一応秘密なんだから……!」
「あれっ、軍師殿もいないぞ!?」
ベノワットが言うと、リヒターの顔が真っ青になった。
「あ、あの2人……まさか共謀して……!」
「ルイス!いよいよ妃になる決意ができたのかしら!私とっても嬉しいわ!」
「……気色の悪い」
「はぁ……二人で宿に泊まるのならいいですが……万が一危険な目にあっていたらまずい。追いますよ」
「ん……メルヴィルさん……宿に泊まるんじゃないんですか?」
騒ぎに起きてしまったティッキーが目をパチパチさせる。メルヴィルが「こいつを宿で1人にはできん」と言った。アンジェも頷いて「メルは方向音痴だから私が地図を持つわ」とメルヴィルとティッキーと一緒に宿に向かった。ベノワットとリヒターたちは元来た方向に戻り二人を探すことにした。
「ふぅ……上手く抜け出せたな」
アレストは真っ黒な平服の上に黄色い布を羽織り、普段後ろにたなびかせている紫の布をターバンにして頭を隠している。ルイスはアレストに渡された橙色の布を渋々羽織った。
「あんたと遊びたかったんだよ。くくく……まずは飲みに……いやその前に賭博場だな。すぐそこにある。入ろうか」
(なんて自分勝手な王子だ……)
勝手にルイスの手を引いて連れ去り変装させ、賭博で遊ぼうと言うのだ。
「ルールは俺が教えてやるさ。早く行こうぜ」
(ルールが分からないわけじゃないんだけど……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます