第14話

フートテチ王国、西に位置する厳かな雰囲気の施設。ここは三国の真ん中にあるペルピシ議会場だ。三国会議は決まってここで行われる。

西のシャフマ王国の国王ヴァンスと東のフートテチ王国の王子リーシーが向かい合って座る。

「リーシー殿。前に会った時は子どもだったというのに。もう成人を迎えたのだな」

ヴァンスが言うと、赤い三つ編みを揺らしてリーシーと呼ばれた男が眉を寄せる。

「子ども扱いはやめてください。たしかにあなたよりは若いですが、私はもう大人です」

「分かっている。しかし、国王は来なかったのだな」

「親父殿は最近体調が悪いのです。代わりに私が来ましたが……不満ですか?シャフマ国王」

「いや、あなたは素晴らしい王子だと聞いているからな。信頼している」

リーシーは「そうですか」とだけ言ってそっぽを向いた。

マントが翻る音がした。二人が入口の方を見るとアントワーヌが長いマントを従者に持たせて入場して来た。

「……遠方より来ていただき感謝する。ヴァンス殿、リーシー殿」

「アントワーヌ殿。この度の国王の件は本当に残念だ。冥福を祈らせてくれ」

「……私もです」

立ち上がり、頭を下げて目を瞑る。アントワーヌは泣きそうな顔をして下唇を噛んだ。

「っ……まだ犯人が捕まっていない以上、君たちのどちらかの国民の犯行の可能性もあるのだ。ボクのお父様の無念を考えると、早く犯人を捕まえて処刑したい。しかし今日集まってもらったのは別件で報告があるからなのだ」

「アントワーヌ殿から?」

アントワーヌが椅子に座る。促され、ヴァンスとリーシーも座った。

「次の国王はボクに決まった。まもなく戴冠式を行う。場所はストワード宮殿だ。盛大に開くつもりだから国民に伝えておいてくれ」




「……ということです。ストワード王国の第一王子、アントワーヌ殿が次の国王になる。戴冠式に参加しろ……と」

リヒターがドモアから送られてきた書簡を広げて連絡をした。

「ふん、くだらん」

メルヴィルが腕を組んで言い捨てる。

「メル!騎士団の一部も参加するのよ。リヒターについて行かなくちゃね!」

(戴冠式……)

ルイスはそれがどういうものなのかは知らなかったが、非日常でドキドキすると思った。それにストワードの次の国王がすぐに即位すると決まってよかった。内紛にはなってなさそうだ。

「今回は俺も行こうかねェ……」

アレストがニヤニヤとして言う。

「王宮から出られないと言ってなかった?」

ルイスが言うと、アレストが大きく開いた服の胸元から茶色い封筒を取り出した。

「俺にも招待状が来たのさ」

それを見ると、たしかに「アレスト殿」と書いてある。差出人は……。

「『スタン』サンだな。第二王子だ。アなんとかサンの弟だったかねぇ」

「リヒターが名前を言ってから一時間経ってない。わざと忘れたフリをしているの?」

ルイスの言葉にアレストが破顔する。

「ギャハハ!!!もちろん!俺だってわざと忘れたフリをすることだってあるさ!!」

「チッ……うるさい。お前は来なくていい。ボンクラ王子など足でまといだ」

「……はあっ、ふうっ……。いやいや、俺がいたら百人力だろ。なぁ?軍師サン」

たしかにアレストがいてくれれば戦力的にもありがたい。途中で何者かに襲われたときに頼りになりそうだし。最近は砂の賊の問題もある。しかしやはりルイスはアレストが王宮から出てもいいのか気になってしまう。

「招待状をいただいたからには行った方が良いでしょう。……ただしぼっちゃん。なにかの罠という可能性もあります」

「そうだボンクラ王子。お前が死んだら一大事だ。少しでも危険を感じたらシャフマに送り返す。了承しろ」

「くっくく……優しいねェ。嬉しいぜ……。分かっているさ。決して無理はしない」

アレストがひらひらと手を振る。

「ヴァンス様はペルピシ議会場からそのままドモアたち騎士団別部隊とストワードに向かっています。私たちも準備をしてすぐに向かいましょう」


早速、その夜にシャフマ騎士団はストワードへ向かうべく歩き出した。

「あらっ、あれはなにかしら?」

「む。こちらに向かってきている……?」

「!!なんだあの巨大な怪物は!?」

ベノワットの声でルイスも目を凝らすと、三体の大きな怪物が村を襲っているのが見えた。

「危ないので下がっていてください。私が様子を見て……」

リヒターがアレストたちの前に出て、斧を構えたときだった。

「キャッ!!姉さん!?」

レティアが叫んだのだ。

「レティア!?まさかカーラがいるのですか!?」

「間違いない、姉さんだ!どうしよう、怪物に襲われてる……」

「合流する予定だった人よね!?そんな……」

「迷っている暇はないだろう。他の村人も救出するぞ!」

メルヴィルの声に、メンバーは頷いて武器を持った。

「軍師サン」

振り返ると、アレストが左腕を前に突き出して構えていた。

「今回からは俺も戦闘に参加するぜ」

「大丈夫なの?アレスト」

「あんたが守ってくれるだろう?俺は後方支援しかできないが、魔力には自信がある」

ルイスの剣を見つめて話すアレスト。これを持ってたたかう自分が躊躇しているということを見透かされている気分になった。

「あんたが目を覚ました日、一緒にたたかったなァ……あれ以来じゃないか?」

「いや……」

酔ったアレストに髪を結われた日もだよ、と言いかけて口を閉じる。あの日のことはアレストの中では夢なのだ。

「……え?違う?……名前と顔以外の記憶力の自信はあったんだが、忘れちまってるか?悪いね」

ルイスが首を振る。

「そうだ。前は言っていなかったが、俺は黒魔法と闇魔法と少しだけだが白魔法も使える。その代わり剣や弓はからっきしだ。装備させても重いだけだからやめてくれよ。くっくくく……」

中身はただの攻撃魔法。アレストがそう言っていたことを思い出す。魔力が普通の何十倍とあるから威力が高いのだ。


三体の怪物を倒した。怪物は動かなくなったと思ったら全て砂になって消えてしまった。

「ありがとう……死ぬかと思ったわ……」

「姉さん!良かった〜!!」

レティアがカーラに抱きつく。他の村人も無事だ。救出できて本当に良かった。

「ありがとうみなさん。私はカーラ。魔法が使えるわ……」

カーラもレティアと同じく魔法が使えるのか。シャフマの魔法は血統に依存するとリヒターが言っていた。親が魔法を上手く操れると、子も魔法を操るのが上手くなる。レティアとカーラは姉妹だから二人とも魔法が得意なのだろう。

「はぁ……。合流できてほっとしました。しかし、なんですかあの砂の怪物は。すごい力でした」

「私も分からない……村の宿に泊まっていたら突然現れて村人を襲いだしたの……」

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