第2話 ハングリーな精神で動こう

「先輩、急に寒くなりすぎじゃないっスカ?」

麦茶のシーズンも終わりを迎え、秋の日に釣瓶が落ちまくっている。


「おう。ストーブ出したいくらいだぜ」

キョン子を一年ぶりくらいに見た気がする。


「ヤカン載せたりお餅を焼いたり、イイっスよね~」

見た目に反して、昭和チックなやつだ。


「店長の差し入れはなぜかマルちゃんが多いんだよな。ま、美味いから問題ないんだが」

手を抜いて袋麺よりカップ麺を好む俺たち。


「ボクはきんせい総本家こだわりの塩ラーメンがお気に入りっス」

たまたまなのか、創作界隈にボクっ子が増殖中である。


「新商品を次々と出してくるよな、マルちゃんは。そしてどれもこれもレベルが高い」

カップうどん・カップそばの後追い商品は他メーカーでいくつもあるが、やはりマルちゃんが不動の1位だ。


「ところで先輩。ボクたちのパチンコ業界なんスけどね。競馬はウマ娘ですっかり明るいイメージになりましたけど、こっちはダークなままっスよね」

ボクっ子キャラは大抵ショートカットだが、キョン子はロングヘアーでギャル盛りしている。


「パチンコはすっかりアニメ台が席巻してるよな。ただ、既存作品とのコラボって感じだから、新規の育成SLGでブームになった競馬とは似てるようで異なるな」

俺もむかしはファミコン坊やだったが、いまはとんとしなくなった。


「先輩、レトロゲーにハマってた時期ありましたもんね」

ゲーセンの雰囲気もすっかり変わってしまった。


「ボクもけっこうサブカル好きっスけど、なんて言うんスかね~。こう、新機軸が欲しいって言うか~」

キョン子の言うことは分かる。日本のエンタメ業界は、萌えが全面に打ち出されすぎている。


「パチンコは擬人化するようなものもないしな。ま、萌え擬人化ブーム自体がかれこれ10年くらい続いてるわけで、俺も確かに違う集客法を考えたいところだ」

と言いつつも、日本人がこぞってパチンコをやりだしたら、それはそれで悪夢だ。


「先輩、それなんスけどね。ウチらの職場って、不良の入り口、ギャンブル依存症、たばこと、まあイメージ最悪じゃないっスか」

子を持つ親なら、決してさせたくないだろう。


「株だってギャンブルみたいなものなのにな。あれは投資だって言い張ってるが」

俺はそもそも、円高株高同時不存在な仕組みがどうもおかしいと睨んでいる。絶対に裏で操っているプレイヤーがいるはずだ。


「それじゃ、勉強にもなってお金にもなるって路線はどうっスカ? デスゲームが知的遊戯になるっスヨ」

キョン子はこんなナリをしているが、ときおりIQの高さを見せることがある。


「クイズに答えてコツコツ小金をもらえるアプリが流行ったが、あの程度じゃ先が見えるな」

ノーベル財団クラスの莫大な資金があれば別だけどな。


「ミレニアム懸賞問題とか夢があるっスよね~。でもやっぱり、パチンコとはなかなか結びつかないかな~」

キョン子の口からこのワードが出て来るのは別に驚かない。生まれはけっこう名の知れた旧家らしい。


「俺はデジタル路線が人気低迷の一因だと思うな。もっとこう、ピンボール的なギミックを凝らした台の方が受けるハズだ」

実玉が要らないシステムにすべて置き換わったら、この業界も終わりだろう。


「それ言えてるっスね~! デジパチが普及してチューリップ台って無くなっちゃいましたけど、そのチューリップを色んなキャラクターにしたりすれば、日本のお家芸を発揮できるんじゃないっスかね~」

チューリップ台には大当たりという概念が無いので、デジパチのような射幸心は生まれにくい。


「加えて、真ん中の液晶にクイズ画面を表示させて、その正解・不正解に応じてチューリップの開閉時間や出玉量が変動すれば、ゲーム感覚で知識も増えていくぞ」

大昔のファミコンにも、英単語を学習するソフトやクイズゲームが発売されていた。


「面白そうな話だな」

店長が戻ってきた。もうメシの時間か。



(京子お嬢様にも困ったものだ。本来ならこんなところにいるようなお方ではないのに・・・)

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