第10話 藁紙完成


藁を仕込んだ次の日……………………



ミネバ副会長にエスコートされて離宮に向かう。


「おはよう、ランド」

「ミネバ副会長、姫さまも、おはようございます」

「おはようございます。ランドしょくにんちょう」


私は今、ミネバ副会長の腕の中から挨拶をしている。

刃物があるから危ないと、離宮の門をくぐったら抱き上げられてしまったのだ。

工房にいる間はずっとこのままなのかしら。


「昨日の続きですな、こっちに用意してあります」


水につけた藁と木灰。窯にも火が入っていて準備万端だ。


「はいのおけのうわずみをすくって、わらといっしょに、にます。わらがやわらかくなるまで、にます。こんかいは3じかんくらいでやめておきます。つぎは……」


●木灰の桶の上澄みを掬って藁と一緒に煮る。柔らかくなるまでの時間は不明だ。実験でもあるので3時間ほどと目安を付けた。

●柔らかくなった藁を網にあけて、水でよくすすぐ。

●金づちを使って平板の上で叩いて潰す。

●はさみで細かく切りながら節やゴミを取り除く。

●水と一緒に混合具ミキサーにかける。これも今回は目安で30分ほど。

●大きな桶に水を張り、藁を混ぜ入れ、漉く。

●網がない方の枠を外し、網の上の藁に布と平板を置いてひっくり返す。

●網の付いた枠も外し、布と平板と重いものを乗せて水を切る。

●乗せたものをよけて火熨斗をかける。


作業は確認を取り合いながら進められた。


時間がかかる作業の間は、道具を見て回ったり、離宮の中を案内してもらったり、楽しい時間が過ぎて行った(途中に昼食とお昼寝が入ってます)


しかし、最後の漉きに入ったら、もう目が離せない。


ランド職人長の手が揺れる。

もう完成形が予想できているのか、何度も掬って何度も揺する。

布と板に挟んで重しを乗せて、今日は終了だ。


明日、板と布を外して火熨斗をかけたら、果たしてどうなるか。


「これで1枚の形になったら、凄いことになりますね」


ミネバ副会長が呟く。


「わらは、そんなにすごくないの。もっとすごいのさがしてもらってるから、そのときは、ランドしょくにんちょう、またおねがいしますね」


「はい。明日も朝一番で参ります。楽しみですね」


「はい!」



◇ ◇ ◇



……で、次の日の朝。


いや、やめて。なんで兄ーズ全員集合? 発表会じゃないんだから!

リボンくんまで! ミネバ副会長、降ろして!



ランド職人長の手で、重しが除けられた。


板が剥がされる。


布の上から火熨斗がかけられた。


布が剥がされた。



(おぉ?)



裏の布も剥がされた。


ランド職人長から、私に手渡される。




振る。




ペラッ。ペラッ。




「「「「「「おぉぉ!」」」」」」




その後は兄ーズの奪い合いが始まった。


見せろ、触らせろ、書かせろと、煩い。


細筆はまだ届いていない。


リボンくんが、インクと羽ペンを持ってきた。


羽ペンを握ったのはアルベール兄さまだ。


私はミネバ副会長に抱かれている。むぅ。


縦に一本線が引かれた。


滑りは悪そうだが、アルベール兄さまの顔が怖くなったので、使えると判断されたようだ。


今度は羽ペンの奪い合いが始まる。煩い。


藁紙はそんなに凄くないと言いたかったが、ミネバ副会長の手からアルベール兄さまの手に渡されて、クルクルまわされたら、どうでもよくなった。


「昨日の余りを捨てずに取ってありますよ。作りますかい?」


ランド職人長の言葉に、全員が頷いた。

そして、藁を漉く姿に釘付けになった。

昨日と同じように重しが乗せられ『明日の朝、先ほどと同じようになります』に、もう終わり?という顔をされて、ランド職人長は『その前の工程が多いんですよ』と収めた。


「残りの藁も紙にしてくれ。1日で何枚作れる?」


アルベール兄さまから指示が出された。


「待ち時間が長がいですからねぇ。今ある道具では5枚がいいところですな」


「シュシューアが使うだけなら問題ない。他の仕事と並行して進めてくれ……ミネバ、二階で打ち合わせをするぞ。リボン、茶の用意をしてくれ」


離宮の二階は、アルベール商会の事務所兼、常駐者の生活の場になっている。

常駐者はまだ決まっていない。


私を含めた見学者全員が二階に向かう。


「ベールは授業に戻りなさい。抜け出してきているのを知っているぞ」


ベール兄さま、またもやハブに。

しょんぼり出て行く姿が、カワユイ……




離宮の二階にて…………………………………………



アルベール商会の、一応の事務所には机などない。

他の部屋にあったと思われる同じ高さのテーブルを並べて、ばらばらの椅子が用意されているだけだ。


先ほどの藁紙は、不揃いの羊皮紙の上に置かれ(試し書きだらけだけど裏を使う)藁紙は離宮の外に持ち出さないようにと、念が押された。


暫くしてリボンくんが入れてくれたお茶が並べらる。


作法通り一口飲む。


秘密会議が始まります。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「藁紙の販売はしないが、植物で紙ができることは証明された。よくやったな、シュシューア」


きゃぁ。アルベール兄さまに褒められちゃった。


「ルベールから報告を受けた枝木の手配は済んでいるから、届いたら続けて挑戦してみなさい。それが上手くいけば砂糖の資金が作れるかもしれないぞ」


あ、砂糖。


「で、鼻血を出すほどの発見は何なのだ?」


それ。


ルベール兄さまが、そっとハンカチーフを出す。


「……… おさとう、です」


冷静になれ~。鼻血よ出るな~。


「ちゅうぼうにあったおさとうは、あたたかいくにの、とてもながいしょくぶつから、できていませんか?」


きびのことだな。南大陸の独占植物だ。だから高い」


「さむいとちでもそだつ、さとうがつくれるやさいがあります。ワーナーせんせいにみせてもらったずかんに、にたものがありました。たべると、すこしあまいですが、あとあじがわるくて、くさいのがとくちょうです」


ミネバ副会長が不揃いな羊皮紙を取り出したから、私は急いでアルベール兄さまの膝によじ登る。

だって子供用の椅子がないんだも~ん。


で、描いてみた。かぶみたいなの。これ『てんさい』ね。北海道の名産。


「あぁ、図鑑にあったね。これで鼻血出したんだ」


ルベール兄さまはハンカチーフを構えている。


「本当に砂糖が出来たら、凄いことだがな」


アルベール兄さまの顔が怖くなっていない。

信じてませんね……藁紙の実績どこ行った。


「てん菜が、みつかれば、できますよ」

「見つかれば、だな」


そうだった。


「う~ん。なかったら……」

「無かったら?」

「……つぎのてが」

「次の手?」

「わたくしは、さとうのくにのひとに、あんさつされるかも、しれません」

「そういう事は作ってから言いなさい」



麦はある。図鑑に、お米もあったね。

麦もやし……発芽させるのに温度調節が必要かな?



「おんどをはかる、どうぐはありますか?」

「ある」

「おんどをちょうせつして、おんどをたもつ、いれものはありますか?」

「……?」


ミネバ副会長が椅子の背もたれに身を預けて、天井を見上げる。


「ありますが……大変高価な魔導具です。貸し出しにも応じてもらえるかどうか……」

「誰の所有だ?」

「所有は国、ですかね。薬草課に一具あります。研究用のが」


アルベール兄さまも天井を見上げた。


あれぇ~、怪しくなってきたぞ~。


「……シュシューア。その魔導具で、何をどうするつもりだ?」


「むぎと、おこめで、水飴をつくります。おんどをはかるどうぐがあるなら、なんとかなるかな? あ~、でも、フワフワのパンをつくるとき、つかいたいなぁ~。ゼルドラまどうしちょうは、きっと、おおよろこびするとおもいます」


「ミズアメとは、何だ?」


あ、水飴……こっちの言葉は……


「……おさとうがとけて、かたまったら、アメというおかし。ミズはおみず。おみずのアメは……はちみつみたいな、とろ~り」


伝わるかな?


「甘い樹液のようなものか…… あぁ、砂糖より高価だからあきらめろ」


さらば、メープルシロップ & 甘蔦。


「しかし、そうか、なるほど……麦と家畜の餌(米)で、甘液が……」


お金の匂いの顔と、ちょっと違うね。怖いよ。


「にがいくすりを、のみやすくする、けんきゅうに、きょうりょくすると……」


「シュシュ~、兄上みたいにならないで~」


「いや、いけるぞ。国のものは国王陛下のものだ。父上の理解を得られれば……ちっ、離宮を融通してもらったばかりだった。さすがに無理か? しかし甘液だぞ? ほぼ無料で」


チラッと私を見る。


「わたくしは、なけませんでした」

「くっ、そうだったな」

「地味ですが、真摯に要望書を提出しましょう。”苦薬のための甘液の製法” を添付して」


ミネバ副会長、冷静に真剣です。


「惜しいが独占は無理か。商会ごと潰されたらかなわん」


「だれが、つぶしにくるのですか?」

「父上だな」

「父上はないでしょう? 来るなら南大陸ですよ」

「息子の利益より国の利益だ、父上ならやる」

「砂糖で利鞘を得ている船舶ギルドでは?」


てん菜の話しがなくなりそう。


「てん菜がみつかったら、きたのほうのりょうちの、たすけにならないですか?」


「その野菜のことは忘れろ。家畜の餌で甘液が作れたら必要ない」


「え~。せっかく、おぼえていたのに」


「まぁまぁ、ワーナー魔導士に ”てんさい” の確認をしてみますよ。身近にあったら話しが早いでしょう?」


「……そうだな」


アルベール兄さまが大きなため息をついた。


「野菜糖、穀物糖。同時進行で行くか。紙と、もう一つの家畜の餌…芋だったな。シュシューア。畑は商会でも使うから、芋用には端を使いなさい。それと井戸と火打石の件はそのうちにな。藁紙に描きためておくように」


「はいっ」


では解散!


声に出していないのに、この雰囲気出すの、アルベール兄さま上手いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る