第5話 プリンアラモード
お菓子作りで大切なのは『分量と時間を正確に』である。
そこで、重さをはかる天秤・線を入れた計量カップ・タイマーとなる火時計を用意してもらった。
火時計は目盛りの付いた台にろうそくを立て、減りかたで時間を計るもの。
砂時計もあるが、高価な装飾品で厨房に置くようなものではないそうだ。
●プリン本体
前回はカップのまま食べたが『プリンアラモード』にするには型から出す必要がある。
カラメルを含めて、プリン型の内側に前もって油を塗っておくとポンと型から出やすくなるコツなど、ひと手間を加えた作り方は料理長に伝えた。
後は試行錯誤……してもらうほどの砂糖はないけど、ガンバレ厨房部隊!
●生クリーム
1.厨房の外の小屋にいる黄ヤギの乳を火にかけ、殺菌して放置する。
分離した脂肪の多い部分をクリームとして使うのだが、自然分離には凄く時間がかかる。
そのうち手動の遠心分離機を作ってもらおう。
2.分離した乳を冷蔵庫で冷やした後、すり鉢で細かくしておいた砂糖を加えて『泡だて器』で根気よく混ぜる。
とりあえず今は木板を細かく裂いたものを代用してもらっているが、泡だて器は今後のお菓子作りにも絶対必要になってくる。
重要な調理器具なので絶対作ります。
泡だて器の構造を料理長に説明しつつ話しを広げていくと、どうやら針金というものは装飾品に使われるもののようだ。
板状にした金属から1本1本削り出すのだとか。裁縫用の針もね。
フッ……
フフフ、フハハハ、アーッハッハッハーッ!!!
私は針金の作り方を知っている!
熱して、槌で打ち、延ばして、棒状にして、線状にして、鉄板の小さい穴に通して、ロールに巻き取りながら伸ばーーーすっ! はぁはぁはぁ…
図解するよ!
「ベールにいさま、かくものをください!」
木板を出された。
こっちの黒い棒は、木炭?
「かみとペンがほしいのです。どうぐのずめんをかきたいの」
「……う~ん、どうしても必要か? 羊皮紙は砂糖よりも高いんだぞ」
羊皮紙?!
植物紙がない!?
そこからかーーーっ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
厨房部隊の創意工夫により、生クリームと果物で飾られた『プリンアラモード』が完成した。
仕上がりを見せられた私は、生クリームの絞り器の存在を伝え忘れていた事に気付いたが、それにもかかわらず素敵にふわんと盛られていたのには感服しました。さすがプロですね。
そして、この完成品を見て食べたアルベール兄さまは『売れる』と太鼓判を押し《アルベール商会》で販売することを決めました。
そう……なんとアルベール兄さまは自分の商会を持っていたのです。
商会名の通り、アルベール兄さまが会長です。
ベール兄さまが言っていた『プリンを売り出す』というのはそういうことだったのですね。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
即断即決……わずか3日後。
プリンアラモードの試食会は、城の会議室で行われた。
通常は王都にあるアルベール商会の建物で行われるそうだが、今回は幼い王女(私だ)が参加するということで、特別に王の許しを得て貸し出されたそうだ(有料)
試食会の趣旨は、食品の特許申請に必要な『商業ギルドの定められた職員の試食』をするためである。
参加しているのは、商業ギルドの職員3名、ゼルドラ魔導士長、アルベール商会のミネバ副会長、アルベール王子の弟妹3名だ。
私とベール兄さまは出たくないとごねたが、ルベール兄さまの『プリンアラモードが食べられるよ~』の一言でここにいる。王族だって甘いものは簡単には食べられない世の中なのだ。
シブメンがなぜいるのかは、知らない。
全員着席する中、アルベール兄さまが静かに立ち上がり、ギルド職員に向かい礼をする。
来てくれてありがとう的な社交辞令をすらすら述べるアルベール兄さまは、本当に15歳でしょうか。
これは商会の会長職はお飾りじゃなさげですね。自分で起業した?
「さて、皆さんの前に置かれている『プリンアラモード』は、プリン、生クリーム、果物を盛り合わせたものです。今後の組み合わせは多様になると思われますので、あえてプリンアラモードではなく『プリンの製法』と『生クリームの製法』を分けて、特許登録の申請を行います。黄色いものがプリン、白いものが生クリーム。まずプリンを最初に、次に生クリーム、そして二つを合わせてご賞味ください」
椅子に座りなおしたアルベール兄さまが目を閉じる。
この世界の ”いただきます” だ。
「万物に感謝を」
胸に手を当てて、しばし黙とうする。
音頭を取った者に続き、席に着いた者たちも胸に手を当てるのがセオリー。
「では、いただきましょう」
さぁ、食べましょう! むはーっ、美味し~っ!
最初に作った時よりも格段に滑らかになっている。
スも入ってないきれいな断面。私、その方法知らないや。凄いね、厨房部隊。
生クリームもクルクルって、どうやったのかわからないけど可愛いね。
気になる商業ギルドの3人は『なるほど、納得、満足』と表情が変わっていった。
ミネバ副会長の方は『これはっ』って顔でアルベール兄さまを見たら、黒い微笑みを返されていた。
シブメンはシブ顔のままだが、舌鼓を打っているのを私は知っている…ってか、みんな知っている。
「なぁ、シュシュ。次はシプードでなにか作らないか? これ凍らせたやつ、俺好きなんだよ」
プリンアラモードの皿に乗っているシプードはグレープフルーツのような味の柑橘で、ベール兄さまの大好物だ。
だからプリンに添えられている。厨房部隊の気が利いてるね。
「あのれいぞうこにいれたら、こおるの?」
「氷の近くに置けばカチコチだ」
「カチコチはたべにくい~」
「じゃぁ、カチコチを料理長に砕いてもらって」
おっ? はちみつレモン風の『シャーベット』はどうだろう。
「ベールにいさま。ちいさいむしの、きんいろのあまい……」
「蜂蜜か?」
蜂蜜あったーっ!
「きヤギのちちもこおらして~、りょうりちょうにくだいてもらって~」
「あ~、いいな。混ぜたら旨そ~」
「そこにぃ、はちみつをたらぁ~り」
はちみつレモン風味のミルクシャーベット。じゅるり。
「プリンを凍らせても美味しいんじゃないかな?」
ルベール兄さまも参入。
「りょうりちょうにくだいてもらって~、はちみつをたらぁ~り」
「そこは生クリームにしようぜ」
「なまクリームをたらぁ~り」
アイスクリームもいいなぁ。
「ごらんのとおり遊びで作る菓子ですが、弟妹が『こういうものが食べたい』という我儘が形になると、このようにプリンや生クリームが出来上がることもあります。
あるかどうかわからない次回も含め、引き続きアルベール商会から販売しますので、くれぐれも弟妹とは交渉などしないようにお願いします」
続けて『今しがたの会話の口外も控えていただくと助かります』と言ったアルベール兄さまの笑顔が、また黒くなった。
そんな凄まなくても……凍らせたものを混ぜるだけよ。
「……最後に、これまでアルベール商会の出資は、我が父上と、商会の副会長であるミネバでありましたが、本日よりゼルドラ・カルシーニ卿が加わることになりました。商業ギルドには誠意を示して、先行しての報告と致します」
…………へぇ。
商会のバックにお父さまがいたんだ~とか、ミネバ副会長って若い(20代前半)のにお金持ってるんだ~とか、シブメンって貴族だったんだ~とか、投資関係はギルドに報告する義務がないのか~とか、いろいろ『へぇ』だ。
『記憶は大人、頭脳は子供』を痛感した、シュシューアでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます