第3話 スイーツテロ、始動す?
輝く金髪。煌めく紫色の瞳。艶やかな白い肌……あ~、母をこよなく愛する父の賛美がくどい。
そんな母の美貌を受け継いだ、第一王子・第二王子・第三王子・第一王女。
4人の子供は金髪紫眼……母の遺伝子は強いようです。
茶髪茶眼の父は、ちょっと寂しそうにしてる……してないか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
(王さま、砂糖の使用許可出しちゃったよ)
(娘に甘ぇな~)
(甘ぇ甘ぇ、砂糖より甘ぇ~)
そんな声が聞こえてきそうな料理人たちの顔が面白い。
すぐに眉毛が変な曲がり方をしている料理長がズイッと前に出てきて、シブメンと同じくらい面倒くさそうに「何か?」って言いそうな顔をして「ごきげんようでござん…ます」なんて噛んで頭を下げるから、ベール兄さまが思い切り吹いた。
後ろの料理人たちも料理長に続いて頭を下げるけど、かなり肩が震えている。
「おとーしゃまのおゆるちがでまちた。おかちをちゅくります。おさとうのほかにほちいのは、たまごとミルクでしゅ。ちゃいしょにわたくちがやっちぇみしぇるので、みれいてくらしゃいね」
……【訳】砂糖、卵、ミルクを用意なさい。手順はこうです。
テレレッテテッテッテッ、テレレッテテッテッテッ、テレレッテテテテテテテ、トッ、ティ、トッ、ティ……トッティッティッ、テレトッティッティッ、テレトッティッティッティッテテテテテ、テレトッティッティッ、テレトッティッティッ、テレトットッティッティティッ、トゥルルルトゥットゥットゥットゥッ………
華麗にクッキングを披露しようと意気込んだが、忘れていたよ……私の手は小さい。
●硬くて割れない卵を料理人Aに割ってもらった。
●卵をかき混ぜようと鉢の淵をつかんだが重くて動かせず、料理人Bが手を添えてくれた。
●泡だて器がない……身振り手振りで説明したら、料理人Bが3本のフォークを扇状に持ってシャカシャカ始めた。
●事前に見せてもらった砂糖は黄色っぽかった(きび砂糖かな?)粒も大きかったので、ミルクと合わせて鍋を火にかけてもらう。そして沸騰する前に火からおろす。料理人Cがやってくれた。
●料理人Bの卵の鉢に、料理人Cの甘いミルクをかき混ぜながら少しづつ投入。
次はこれを網で濾して小分けにするのだが……
「ベールにいしゃま、あじみのために、こわけにちていい?」
「全部味見用にしていいぞ。俺は……卵の
リスクを分散したいのね。ふふふ。後で後悔する顔が見えるようだわ。
「じゃぁ、あにょなべにこにょくらいおみじゅをいれてわかちて。わかちてるあいだに、いちばんちいしゃいいれもの…あのカップに、ちゅくったこれをわけてくだしゃい。カップはおゆがはいりゃないように、なべのにゃかにしじゅめるの。そしたらふたをちて、よわいひでちょっとまちゅの。しょのあいだにおかたじゅけよ」
……【訳】小分けにしたカップを湯煎します。その間にかたずけをしましょう。
湯煎係は料理人A。BCはお片付け。
私は料理長に抱っこしてもらって、なんかよちよちされている。
ベールお兄さまは、料理人たちの手際の良さに釘付けだ。
「あい、ではなべをひからおりょして、しょのまましゅこし、まちましゅ」
「どのくらいでしゅか~?」
おっと、料理長がメロった。私を抱っこして父性スイッチが入ったな。
「おうたをうたってまちゅのよ」
5分くらいなんだけど、説明できないから童謡を歌ってごまかす。
料理長も付き合ってくれて、抱いた私をくるくる回してあやしてくれた。
あぁ、こういうの初めてだな。
前世の父親は忙しかったのかな、今世の父親も忙しいみたい。
遊んでもらった記憶……ないかも。
大きな男の人に甘えるって気持ちい~。
「つっ、次は俺なっ!」
ベール兄さまが期待に満ちた瞳で料理長を見上げている。
たぶん彼もお父さまと遊んだことがない。わかるよ~その気持ち。
「りょうりちょう、ベールにいしゃまといっちょにくるくるちて」
「よっしゃぁ、来いっ」
「うはっ」
「料理長、外でやってください」
「お~っし、大回転してやる。怖がって泣くなよ~」
おぉ、厨房の外って本当に外なんだ。
菜園と家畜小屋と、普段会うことがない下働きの人たちがいる。
「どりゃーっ」
「きゃーっ」
「うわーっ」
私たちの胴を抱えて、自分を軸にすごい勢いで回りだした料理長。まさに大回転!
ベール兄さま大喜び! 私も大喜び!
通りすがりの下働きの人たちもこちらを見て笑ってる。楽し~っ!
◇ ◇ ◇
ひとしきり遊んだ後は再び厨房へ。
「では、ちゅぎはひやしましゅ。なべかりゃだちて、みじゅにちゅけて、しゃめたられいぞーこにいれちぇ、まちましゅ」
……【訳】粗熱を取ったら、冷蔵庫に入れて待ちます。
氷を使った冷蔵庫があるのだ。ファンタジックよね。
「今度はどのくらい待つんだ?」
ベール兄さまは、料理長ともっと遊びたいご様子。
でもなぁ、1時間も料理長を拘束できないし。よし、予定変更。
「ちゅめたいのもおいちいけど、きょうはあっちゃかいのをたべてみまちょう。ここにいる…いち、にー、しゃん……ろくほんのシュプーンをもっちぇきてくらしゃい」
……【訳】冷める前のものを食べましょう。皆さんスプーンの用意はよろしくて?
「このひとちゅを、みんなであじみ、ちましゅ。まじゅは、わたくちから」
スプーンですくって、あむっとひとくち。
うん、普通に美味しい。
次は料理長が「んじゃ、俺も」って、はむっといく。
「味の予想はしていたが、なめらかな舌触りが新しいな。おい、お前たちも食べてみろ」
普段料理をする人には、材料だけで味の想像がつくらしく、料理人たちも躊躇なくスプーンを口に運んだ。
「旨いですね」
「こう、つるんとした感じが……」
「弾力も面白い」
それを見たベール兄さまも恐る恐る、ちょびっとだけすくって舐めた。
『あれ?』って顔して、口の中で舌先を転がしている。
「…………」
今度は戸惑いなく、スプーンに山盛りでカプッといく。
「…………っ、うまっ!!!」
かふっ、かふっ、かふっ。
カップに残っていたプリンは、あっという間に無くなった。
「はぁ~、うまぁ~」
まだ手を付けていない4つのカップをチラリと見ましたね。
はい、ここで交渉です。
「ベールにいしゃま。いま、たべきってちまったらここでおちまいれしゅ。またたべたいでしゅよね。きょうのはてにゅきだかりゃ、ほんとうはもっちょおいちいの。ちゃらめるちょしゅとあわしぇたり、にゃまくりーむをのしぇたり、くだもにょをのしぇたりしゅるの。あ、そのまえに、ほかのしとにちゃべてもらって、おさとうかってくえるしとしゃがしゃなきゃ」
……【訳】残りは冷やして投資してくれそうな方に試食しもらいましょう。資金が入ればもっと美味しいお菓子が食べられます。
スプーンを持ったままのベール兄さまの顔が情けないことになる。
……うっ、可愛いな。
「…………いっこ、らけでしゅよ」
私がメロってどうする。
私の可愛いお兄さまは、厨房の端っこに自分の世界を作りに旅立った。
なんか子供を適当に丸め込んでしまったような罪悪感がこう……
これからも美味しいお菓子をたくさん作るから、許してね。
……で、
「ねぇ、みんな。だりぇにたべてもりゃったりゃいいとおもう?」
「ゼルドラさまだったら協力してくれるかもしれません」
料理人Aが言う。
「ジェルドリャ……だりぇ?」
「魔導士長ですよ。ほら、眉間にシワが3本ある」
あぁ、あのシブメン。一番偉い魔導士だったんだ。
「きのー、ことわられちゃっらけろ~」
「すごい甘党ですから、この菓子を食べたら気が変わりますよ」
ほほぅ、甘党とな……ギャフンと言わせるチャンスかのう。
「シュシュ、アルベール兄さまに1個食べてもらおう」
ベール兄さま、頬にプリンがついています。
「アルベールにいしゃまも、あまいのしゅきなの?」
「普通に好きだぞ。それよりアルベール兄さまは金儲けが好きなんだ。この菓子を売り出してくれるかもしれないぞ」
売る? 売れるの? プリンが?
「かんちゃんに、だりぇでもちゅくりぇるのよ」
「簡単に作れるけど作り方を知らないだろ。お前たち、これの作り方は外に漏らすなよ」
全員が神妙にうなずく。
え、そんなに?
スイーツテロは『チョコレート』がお約束じゃなかった?
プリンでフィバーできるの?
疑問に思って、料理長の眉毛をジッと見る。面白い形だ。
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