第50話 日記③



20XX年 8月29日(続き)

今日で夏休みも終わり。明日から二学期がはじまる。

結局兄さんとは気まずさが残ったまま。

寝ている間にキスするなんていつかはバレるのにね……。

調子に乗りすぎてバチが当たったのかな。

兄さんはどう思っているんだろう。

あっ、そうだ。目覚ましの時間を早めておかないと。








20XX年 8月30日

今日から二学期。

だというのに、初日からイレギュラーなことがいろいろあった。

まず華奈ちゃんが学校に乗り込んできて、兄さんと一緒にやってきた。

美帆にも相談なしに急に来るなんて何だろうと思ってたら、予想外の物を叩きつけられた。



毎度の事ながら華奈ちゃんの情報網にはびっくりする。美帆はどうしたらいいんだろう。ごめんね華奈ちゃん。美帆一つだけ嘘ついているんだ……。








20XX年 8月31日

昨日から華奈ちゃんと連絡取ろうとしても、忙しいからと言ってなかなかタイミングが合わない。

華奈ちゃんがいてくれるのは心強いけど、やっぱりこれ以上巻き込むのはやめた方がいいかな……。








20XX年 9月1日

廊下を歩いているとまた聞こえてくる。

兄さんが遥陽さんと電話している声。

大好きな人の笑い声なのに、なぜか耳を塞ぎたくなってしまう。

羨ましい。遥陽さんと代わりたい。

美帆だって兄さんとお話したいこといっぱいあるのに。

こんなに近くにいるのにどうして届かないんだろう。うちのマンションだけ毎晩電波障害が起きればいいのに。









20XX年 9月2日

久しぶりに星香さんと二人で話した。例の人とは上手くやっているらしい。星香さんには貸しがあるからね。この後ちゃんと返してもらわないと。

この前の件もあって、華奈ちゃんにはもしかしたらバレてるかもしれないけど……。











20XX年 9月3日

兄さん……今日もかっこよかった。大好き。

兄さんを見ていたら、そろそろ唇の疼きが限界を迎えそうなんだけどダメかな……?

もう枕や布団の匂いを嗅ぐだけじゃ我慢できないよ。

今まで5回ぐらいやって目を覚ましたのは1回だけだから、確率的には…………。

美帆が……美帆が上書きしないと。









20XX年 9月4日

週末だっていうのに、土日はどっちも部活。

大会が近いから仕方ないんだけど……。

遥陽さんも兄さんとイチャイチャできなくて残念だね。そう思ったらちょっと元気が出た。こんなこと思ってしまうって、完全に悪役のそれだよね。

違う、主人公は美帆だ。これは美帆が兄さんを救い出す話なんだから。









20XX年 9月5日

兄さんがまた新しい本を買ってきた。美帆は集中力がもたないから本はあまり好きじゃないんだけど、兄さんとの会話のきっかけになれるんなら試しに何か貸してもらおうかな……。








20XX年 9月6日

面白くない。

同じ高校なのに全然兄さんの姿を見れてない。

朝も出る時間をズラしてるせいで、家に帰ってからしかまともに顔を合わせないってどういうこと……。

その肝心の夜も部屋にこもって遥陽さんと長電話。

試しにジャミングのアプリ入れて使っているんだけど、なんの効果もないじゃんこれ。星1をつける価値もない。











20XX年 9月7日

もーーう、ただでさえイライラしているのに、またクラスの男子に遊びに誘われたんだけど。

前も断ったのにしつこいなほんとに……。

もしラケット持ってたらそのままぶん殴っていたかも。

兄さん以外の男なんて芋虫同然なのに。










20XX年 9月8日

文化祭か……。

兄さんと一緒に回りたいけどやっぱり無理かな……。

妹として『ちょっとだけ付き合って』ってお願いしたらいけるかもしれないけど、それだともう負けを認めたに等しいからね……。

どうせ遥陽さんとイチャイチャするんだろうな……。










20XX年 9月9日

九条さんに話しかけられた。

待ち伏せされたっぽい。











20XX年 9月10日

……やっぱりこの文化祭で勝負するか……!

まさか本当に美帆が遥陽さんをアシストしていたとは……。

もういいよね?

遥陽さんから兄さんを奪い取るんだ。

明日は最近約立たずの華奈ちゃんと二人で会う日だし。












20XX年 9月11日

華奈ちゃんに全部話した。

九条さんとのことや、これまでのこと全部。

たとえ遥陽さんに嫌われることになっても、それでもやっぱり美帆は兄さんと恋人同士になりたい。

この気持ちを否定して押し留めてしまったら、美帆の今までの全てが無価値な物に成り果ててしまう。

もう遠慮はしない。










20XX年 9月12日

この日記帳もこれが最後のページだ。

実はしばらく日記を休止しようかなって思ったり思わなかったり……。

期間は兄さんと添い遂げることができるまで。

願掛け的な。

これを読んでいるあなたがこの続きを見るのは一体いつになるでしょうか?




まあ、と言っても美帆以外にこれを読む人はいないんだけどね。

ちゃんと引き出しに鍵をかけて、更にその中の箱にダイヤルロックもしているから。

番号は兄さんの誕生日だよ。




新しい日記帳が追加されるかどうかは、明日以降の美帆にかかっている。

頑張るよ……!

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