消えるアルバイト達 23ページ

「え? 何でここに!?」


 化け物達の奥からこちらに歩いてくる影。それは僕のおばあちゃんであり伝説の霊媒師、小早川厚子ばあちゃんであった。


 両手に大きく長い数珠を持ち、頭に白いハチマキと白い着物姿のおばあちゃんは両手に持つ数珠を擦り合わせながら僕に言う。


「詳しいことは後だよ。裕也! ここから逃げなさい」


 恐怖と心細さ、諦めが入り交じった状況での 祖母の登場はとても心強く、そして感動と安心感を与えてくれた。


「分かったよ、でもおばあちゃんは?」


「ばあちゃんは大丈夫。この妖怪達はワチが何とかするから、お前はこの建物から出なさい! 外を出て山を下るとタクシーが停まっているからお前はそれで先に逃げなさい。お金は払ってあるから」


「う、うん分かった」


 僕はおばあちゃんの横を通りロビーに出る。妖怪達はおばあちゃんを恐れているのか、おばあちゃんを中心に距離をとって見ている状況だ。


 大丈夫だよね? 襲ってこないよね? 僕は持てる最大の速度で玄関の方へと走った。妖怪達は襲ってくる様子はない。


 ホクロ田達が玄関は開かないと言っていたけど開くのかな?


 いや、おばあちゃんが入ってきたんだから開いているか。


 予想通り玄関は開いていた。と言うより、入る時は立派な玄関の扉があったはずなのに今は扉がなく、代わりにベニヤ板が二枚立て掛けられているだけ。ちょうど二枚の間に人が通れるくらいの隙間が開いている。


 気になるけど、とにかく今は逃げなきゃ。


 僕は旅館を飛び出し山を下った。


 暗い山道を月の光が照らしてくれ、獣道のような道路が分かる。来た時は整備された綺麗な道だったのに何で?


 数十メートルほど下った所、木々の隙間からタクシーの行灯の光が見えた。来た時にバスが停まった所だ。


 あそこまで行けば助かる。


 タクシーまでどんどん近付いていく。少し走っただけなのに、疲れが酷い。息があがる。


 後ろを見る余裕はないけど恐らく化け物達は追って来ていないはず。


 やがてタクシーまで数メートルといった所で車が二台停まっていることに気がついた。


 あれ? おばあちゃんのじゃないし、誰の? マネージャーか秘書の?


 でも見たことがあるような……。


 まぁいいや。


 僕がタクシーに近付くと、後ろのドアが開いた。それに乗り込む僕。運転手は後ろを向き言った。


「お客様、柳田様ですね?」


「はい、そうです」


「小早川様から家まで送るよう言われております。ご住所も聞いておりますので」


「そ、そうですか。では、お、お願いします」


 助かった。みんなには悪いけど良かった。


 でも、あんなにたくさんの化け物を相手に、おばあちゃん大丈夫かな?


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。

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