消えるアルバイト達 22ページ

その瞬間。


 バチッ!!!


 目の前で稲妻のよう光が発光した。目が眩むような物凄い光。それと共に、白狐の化物の叫び声が響く。


「ギャァァァァァァア!!」


 部屋中に響く声は体までビリビリと振動が伝わってくるほど。


 白狐の化物を見るとの口元から煙のような白い蒸気が上がっている。


 え? どうした? 何があったの?


 こちらを真っ赤な目をした白狐が睨みを利かせて叫ぶ。


「キサマァ! 何ヲシタァ!! 胸ニ何ヲ隠シテイルッ!!」


 僕は胸に手を当てた。


 固く湾曲した物がTシャツ越しに手に当たる。


 勾玉! おばあちゃんがプレゼントしてくれた勾玉だ。


 これ、まさかこの化け物に効くの?


 僕は首にぶら下げていた勾玉のネックレスを取り出した。そして目の前に掲げる。


 それを見た白狐が威嚇するように咆哮をあげた。ビリビリと空気を伝わって体にまで届いてくる。そして両手を上げ僕に襲いかかってきた。


 みるみるうちに近付く白狐。


 3メートル。


 2メートル。


 1メートル。


 怖い! 助けて!


 無我夢中で勾玉を襲ってくる白狐の掲げた。思わず目を閉じてしまった。


 その瞬間、静電気のような物凄いバチッと言う音と共に先ほどのおぞましい叫び声が聞こえて来た。


 そうかと思うと勾玉を持っていない方の腕が掴まれた感触と、フワッと飛んだ感覚。すぐその後に左半身に強い衝撃が加わった。固いものにぶつかった感触。


 痛い。


「いたたたた……」


 左側にあったのは床。どうやら白狐に投げ飛ばされたらしい。


 僕は痛みに耐えながらも白狐の方を見る。すると左手で右手を押さえながらうずくまっている白狐の化物。


 僕も投げ飛ばされたけど、どうやら僕が振り上げた勾玉が白狐に当たったらしい。


 勾玉、凄い。


 大広間の中を逃げ回っているものはもういない。ほとんどの者が化け物や妖怪に捕まり食べられているようだ。


 そのお陰と言ったら申し訳ないけど、妖怪達は食べるのに夢中でこちらの様子に気付いていない。


おそらくハナハナ達もすでにやられているだろう。でも気にしている場合じゃない。ここから出ないと僕が食べられてしまう。


 今のうちに逃げなきゃ。


 あれ? 勾玉が無い!


 先ほどまで手に持っていたはずの勾玉。飛ばされた弾みで、落としてしまったようだ。


 僕は少し周りを見渡した。すると勾玉は大広間の出口の方に落ちている。急いで勾玉の方に移動した僕は、それを拾い大広間の出口の方へと移動する。


 所々で床に横たわっているアルバイト達。


 その横でしゃがみながら、アルバイト達を食べている妖怪達。


 鬼。


 包丁を手に持った老婆の化け物。


 頭に皿を乗せた緑の化け物。


 体の大きな骸骨の化け物。


 その横を通る時は、バレないように忍び足で通り過ぎる。


 扉までもう少しという所であった。後ろから心臓まで振るわされるような、あのおぞましい声が聞こえてきた。


「待テェェ! 貴様ァ!」


 ヤバい、白狐が復活した! 捕まったら今度こそ殺される!


 目の前はドア。このドアを出たら、ロビーに出られる。そうすれば外に出れるはず。


 僕は扉を力一杯開けた。その瞬間、僕は驚きのあまり声をあげてしまった。


「うわっ、わぁぁあ!」


 僕は驚きと絶望で大声をあげてしまった。何故ならロビーには、たくさんの化け物がいたからだ。


 後ろを見ると白狐の声に反応した化け物達が、僕が逃げていることに気付いて立ち上がり近付いてきている。


 終わった。


 詰んだ。


 ロビーからも大広間に入ってこようとする化け物達に後退りする。でも部屋の中もたくさんの化け物が。


 いくら勾玉があったとしても、こんなに相手にできるわけがない。そもそも戦うって言っても今まで喧嘩すらしたことがない。


 怖い。まさか自分が死に直面するなんて。

痛いのは嫌だ!

苦しいのは嫌だ!


でも、どうすることもできない。


 近付いてくる化け物達に、僕は諦めて目を閉じた。


 三秒。


 五秒。


 十秒。


 あれ? 痛くも何ともないし、何もされない。


 一向に襲ってくる気配のない化け物達。僕は恐る恐る目を開いた。そして驚いた。


「何で?」


 僕から数メートル離れたところで立ち止まっている化け物達。化け物達はこちらに背を向け玄関の方を見ている。


 何かいるの? 何? 化け物のボスとか?


 ロウソクの火のようなものでオレンジ色がユラユラとする光の中、化け物達はモーゼの十戒のように道が開けていく。僕は化け物達の奥にシルエットを見る。


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