消えるアルバイト達 12ページ
コンコンコン。コンコンコン。とドアをノックする音。
う~ん。なんだっけ? てかどこだここは? あ、そうか、旅館だ。
いつもと違う部屋を見て、自分が旅館に来ていることを思い出す。どうやら疲れて眠ってしまっていたようだ。慣れない仕事はするもんじゃないな~。
またドアをノックする音が聞こえてくる。そして聞き覚えのある声。
「柳田く~ん! いるかい?」
うわ、山根だ。面倒くさい。と思いつつ、思い腰を上げ、ドアを開けた。
「やぁ、柳田君。寝てたしでょ?」
「え、いや。まぁ、そうですけど」
「やっぱりね。これから調査結果を話し合いたいのだけど、中に入るね~」
と言いながら、部屋の中に入ってくる山根。後ろにはホクロ田とハナハナの顔も見える。
入っていいとも言ってないのに。
ズカズカと部屋に入ってくる山根に少々腹が立ったが後ろの二人も招き入れ、調査前に座った位置にみんなで座る。
先に口を開くのは山根。
「じゃあ、先に柳田君から報告してもらおうか」
え、僕から? まぁいいけど。
「えと……何を話せば?」
「何か変わったことがあったとか、こういうイレギュラーが発生したとか」
「あ、はい。じゃあまずは……僕は山根さんに言われたように各部屋のドアに耳を付けて中の様子を伺ったのですが、誰もいないようでした」
「うん、それで?」
「で、5階に行った時に女将が来ました」
「え?」
「嘘?」
「!!」
三人の顔に緊張が走った。山根が少し上ずった声で質問する。
「お、女将!? 何か言われた?」
「いえ。どうしたのか気になっていたようなので、怪しまれないように咄嗟に落とし物しましたって言って、一緒に部屋に入りましたよ」
「一緒に入ったって? それで何かされたり、変わったことはなかったかい?」
「いえ。特に……」
三人の顔がホッとした表情になる。今度はしっかりした口調で山根が質問してくる。
「女将は何しに行ったんだい?」
「詳しいことは分からないのですが、テーブルの上に何か置いていたので、バイトの人が間違ったか忘れたかしたのを直しにいったのではないでしょうか?」
ホクロ田とハナハナの表情から、少し安心した様子が見てとれる。山根は険しい表情のまま考え少ししてから声を出す。
「特に怪しまれている様子も疑わしいこともはなしか。じゃあ次ハナハナちゃん。他のバイトの人に聞いてくれたんだったよね」
ハナハナは唾を一回飲み込み、考えながら言葉を口にする。
「そうだす。ワタス他の女の子達に前にこのバイトやったことあるか、聞いたんだす。そすたら、みんな初めてだって言ってたんだす」
すぐに山根。
「やっぱり初めての人ばかりか。これだけおいしいバイトなんだから普通は常連がいても良さそうだが。それで他に情報は?」
「あとは何人か言ってたのが、この旅館の情報がインターネットで調べても出てこなかったと言う人が三名いたんだす」
顎に手を当て考える山根。
「そうなんだよ。私も調べたけど結局情報が出てこなかった。これはどういうことなんだろう」
僕も家で調べたけどインターネットに出ていなかったのは知っている。口には出さないけど、秘境の旅館だからじゃないの? と思っている。でも山根は違う考えなのだろうか。
まぁ、どっちでもいいや。
ハナハナが山根の様子を伺いながら声を出す。
「あと一人、大学生の子が言ってたんだすが、もしかしたら大学の同学年の人がこのバイトをやったことがあるかもしれないって人がいただす」
「ホントに!?」
「ただ友人からの噂話で顔も知らない人なので実際にここの旅館かは分からないようだすが、一日二万円のバイトがあって採用されたって自慢していたらしいんだす。その後、旅館に就職したのか定かではないらしいだすが、退学したそうで大学に来なくなったって噂を聞いたらしいだす」
ハナハナは喋りすぎたのか、乾いた唇を嘗めながら山根の言葉を待っている。
僕は思う。ハナハナの彼氏達以外にも同じような人がいるとは、本当にここの旅館は何かあるのかも?
山根は2~3回頷き「断言はできないけど、ここの旅館の可能性は高いね」とハナハナの顔を見て言った。
「ワタスが女の子から聞いた話では、郵便受けに今回のバイト募集のチラシが入っていて、前に噂で聞いたバイトだと思って応募したそうだす」
「そうか。やはりみんなチラシが入っていたのか。ただ……」
と言う山根。ハナハナもホクロ田も山根からどんな言葉が出るか気になるのか、少し前のめりになった。僕も自然と同じようになってしまった。山根が少し遠くを見ながら、自分自身にも言い聞かせるように声を出す。
「もし本当にここの旅館にバイトに来ていて就職したのなら、従業員の中にいるはずだよね」
ハナハナとホクロ田が息を飲む様子が見える。山根が2人を見ながら言った。
「後でその子がここで働いているか調べる必要があるね~」
確かに若い女性従業員はいた。もしここで働いているとしたら、一気に安心に繋がる。
でも、ここで働いていないとすると……。
僕の考えを断ち切るように山根がホクロ田を見ながら質問する。
「じゃあ次は黒田君。何か見つけたかい?」
「は、はい。えっと……」
とだけ言ったホクロ田は、頬っぺたの大きなホクロを何度か掴みながら少し考え口を開く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます