消えるアルバイト達 10ページ

「今女性で前に旅館に来たことがある人をハナハナちゃんに探してもらっている。君は黒田くんと一緒に旅館を調べてほしい」


「えっ、旅館ですか? 何を調べればいいんですか?」


「旅館の施設や従業員に不審な点がないかを調べてほしいんだ」


「えっ!? でもそれって、山根さんはここの旅館の人が怪……」


 とまで言い、僕は止めた。


 失踪事件に旅館の従業員が絡んでいるなんて、とても怖い話だ。


 でも普通に考えて、こんな立派な旅館が行方不明事件に絡んでいるとは到底思えない。旅館側が何かしら絡んでいるとすれば大問題だ。


 それに犯人が誰にしろ、こんな怖い事件に関わりたくない。もし本当に従業員に犯人がいて、僕達が事件を調査しているとバレたら、今度は僕達の身が危ないのではないか?


ダメだ……断ろう。


「山根さん、僕はちょっと……」


 と僕が断りを入れようと思った瞬間、ホクロ田がいきなり僕の両手を掴む。


「えっ!?」


「柳田君よろしく! 君が頼りだ。はい」


 うわ~。


更にハナハナが「柳田君! ありがとう。素敵だす!」なんて言うものだから、ますます断りづらくなってしまった。


 僕は嫌々ながら「分かったよ」と言い、やむを得ず手伝うことになった。


頼まれたら断れない性格、嫌い!


 おもむろに山根が胸ポケットから一枚の紙を取り出す。そこに書かれていたのは手書きの旅館の図面だった。


「私の調べでは一階は玄関と大広間。大ホール、中ホール、小ホール、大浴場にフロント、従業員の休憩所、レストランがあるようだね。それとキッチン。一般客が使えるトイレなどもあるけど、だいたいそんなところかな」


 頷くホクロ田。山根がもう一枚の図面を出した。


「あとは各階ごとの客室ね。5階建てのホテルで2階から5階までが全部同じ作りになっているよ。各階に18室ずつある」


 ホクロ田は熱心に頷きながら聞いているようだ。


 でも……山根は僕達に調べろって言ってるけど何を調べればいいんだろ?


 山根は続けた。


「たぶん毎回このくらいの人数がバイトに来ていると思うんだけど、ハナハナちゃんの彼氏も黒田君のお兄さんも、バイト後は誰からも見られていない。足取りが分かっていないんだ。つまり……」


 山根は一息吸い込んだ。一秒にも満たない時間。代わりに大きくはないが勢いのある声が発せられる。


「このホテルの中にいる可能性がある」


「っ!」


 驚いた。ただの失踪事件かと思いきや、誘拐事件ということだろうか? それともすでに2人はこの世を……。


 僕は恐怖が増していき、急に体が小さくなっていくような感覚に襲われた。


 そんな不安は微塵も感じていないのか、ホクロ田は強い口調で山根に言う。


「それで僕は何をやればいいんでしょうか?

 従業員の部屋に忍び込んで片っ端から探しますか? 」


 そんな息巻いているホクロ田に、山根は少し笑みを浮かべながら首を横に振り言う。


「い~や。まだそこまで無理する必要はないよ。今日は一階の比較的安全な大浴場、トイレ、もし可能なら各ホールを調べてほしい」


「分かりました。はい。それで何を調べれば……」


「黒田君には1階に隠し部屋などがないか調べてほしい」


「隠し部屋ですか……。はい」


 気の抜けた返事。それとは対照的に山根は自信たっぷりに続ける。


「この旅館のどこかに隠し部屋があるかもしれないんだ。廊下にあるかもしれないし、客室にあるかもしれない。その部屋の中に監禁しているかも」


 !!


 山根はとんでもないことを言ってのけた。


もし山根の言うように部屋の中に監禁されているとすると、午前中にアルバイトがベッドメイクを行っているのだから部屋に監禁は考えずらい。


それなら見た目では分からない隠し扉があってその中に閉じ込められているということだろうか?


 でも今は客室の鍵がないから部屋の中に入れないか。


 しーんと静まり返った部屋の中。ピンと何かはりつめたような感覚。


 もし、自分がハナハナの彼氏達が監禁されている部屋を見つけてしまってホテルの従業員がそれに気づいてしまったら……。


 ……危険すぎる!


 僕は適当に調査を行うことを決意する。


「で、次に柳田くん」


「は、はい 」


「君には宿泊客を調べてもらいたい」


「宿泊客……ですか?」


 これまた意外なことばだった。山根のことだから部屋に潜入しろとか言うと思ったが。山根は真面目な顔で、そして力強い表情で言う。


「私が見たところ、この旅館に客がいた形跡がないんだ」


「えっ? どういうこと……ですか?」


「それはここの旅館が人気がないからか、それとも何か別の理由か……。これだけ年数の経っている旅館なのに全てが綺麗なんだ」


 それにハッとした表情を浮かべたのがハナハナだ。ドスの聞いた声で発言する。


「ワタスもそれ気になっていたんダス。ベッドメイクしている時、どの部屋も綺麗だったダス」


 山根をまっすぐ見つめるハナハナ。山根は少し嬉しそうに頷きハナハナの言葉を待つ。


「ゴミどころか髪の毛1本さえ落ちていなかったダス」


 ハナハナの言葉に真剣な表情だが満足げな山根。2~3回頷き発言する。


「私もベッドメイクしているときに思った。水回りに水垢などがなかったし、テレビの裏やベッドの下などに埃が全くなかった。掃除がしっかり行き届いてるという可能性めあるけど、壁などにキズ一つ無い。つまり部屋が使われていない可能性があるということだ」


 驚いた。ただ人の監視をしていたと思っていたのに、これだけのことを見ていたとは。


 でも一体それはどういうことだろう。本当に人気がない旅館なのか、それとも……。


 空気が重たい。


 ハナハナもホクロ田も緊張していることが見てとれる。


 先に口を開いたのはホクロ田だ。唇を少しぷるぷる震わせ声を出す。


「それってどういう……ことでしょう?」


 山根はみんなから目線を離し、右手をアゴに当て考える。


「今はまだ分からない。……が、もしかするとここが旅館ということも、間違いなのかもしれないね~」





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