消えるアルバイト達 9ページ

「実は私は、ある調査をしにここに来たんだ」


「調査って……何のですか?」


「半年前、今回と同じようにアルバイトの募集がされたんだ。そのバイトに参加した人が帰らなかった」


「帰らなかった?」


「そう。その人は……と、その前に、昼食の時に柳田君の前で私達は自己紹介をしたけど、私はハナハナちゃんと黒田君は顔見知りだった」


「え? えっと……それってどういうことですか?」


「周りに僕達が知り合いじゃないことをアピールしたかったのもあるけど、君が前回の事件に関わっていないかも試させてもらった」


「事件?」


「そう。ある事件が起きたんだ。それで柳田君が犯人に繋がってないか表情を見せてもらったんだが、大丈夫だと判断させていただいた。試すようなことをして、すまない」


「い、いえ。それば全然気にしていませんけど、事件て何があったんですか?」


「それはね……あとはハナハナちゃんに話してもらった方がいいか」


 そう言ってハナハナを見る山根。ハナハナはハッとした表情になったが、すぐに話を始める。


「そ、その帰らなかった人っていうのが、同棲していたワタスの彼氏だす」


 彼氏? 帰らなかったってどういうことだ?


 話が見えなかったが懸命に考える。


 彼氏が帰らなかったということは嫌われて自然消滅? 別れたってこと? それとも……。


 知るのは怖い感じがするけど、少しだけ真相を聞いてみたいという気持ちになった。


「それって行方不明ってことですか?」


 これには山根が横から入って答える。


「詳しくは分からない。事件が起きたのか事故なのか、または失踪したのか……。でも帰バイトに行った日に、ハナハナちゃんに彼氏からメッセージがあったらしい」


 再びハナハナを見て話を促す山根。ハナハナは頭の中を整理しているのか、唾を飲み込み唇を舐めて湿らせて話をする。


「彼が帰る前の日、ワタスの携帯電話にメッセージが入ってたんだす。僕が帰る日にカレーを作ってくれって。彼はワタスの作るカレーが大好きで、いつもなら予定を取り止めにしてでも帰ってくるだす。それが帰ってこないなんてありえない」


 たどたどしいが矢継ぎ早に話すハナハナ。それだけに心配や不安な気持ちがよく分かった。隣の山根が再び話す。


「ハナハナちゃんのバイトの先輩と僕は同級生なんだ。それで友達を通じてハナハナちゃんが僕に相談してきた。とは言っても、失踪事件で人を探すのは、公園で遠くに投げた石を探すような話で大変だった。だから僕は調べたんだ。その時にバイトに行った人がいないか……」


「それで他にバイトしていた人はいたのですか?」


「うん、それが見付からなかった」


「見付からなかった?」


「そう。ただ一人、黒田君が見つかった」


 と言い、ホクロ田を見る山根。ホクロ田はほっぺたにある大きなホクロを何度か掴み、話し始める。


「はい。僕の兄貴なんですけど、三ヶ月前にこのバイトに来ました。はい。そしてハナハナさんの彼氏さんと同じように家には帰ってきませんでした。はい」


 山根が畳み掛けるように僕を見て話す。


「私は今回集まった中に、前回のアルバイトに参加したいた人がいないか探している」


「そ、それで結果は?」


「来る時にバスの中で何人かに話をしたけど誰もいなかった。まだ数人聞いていない人がいるから、後で聞いてみようと思っている。どうやら仕事ぶりを見ている限り、君も初めてっぽいしね」


 そういうことか。だから仕事中に僕のことを見ていたのか。しかしまるで僕が仕事できないと言われているみたいで少し腹が立つ。


 ハナハナの彼氏と、ホクロ田の兄の失踪。気にはなる話ではある。だけど、正直僕にはどうでもいい話だ。


 三日間働き、給料を貰って帰る。それだけ。


 何より一人になりたい僕は山根にこう持ちかける。


「僕もそれとなくみんなに聞いてみますね。では僕は少し昼寝をし……」「本当かい! ありがとう! 実は柳田君にも調査を手伝ってもらいたいんだよ」


 部屋から追い出そうと思ったのに、言葉を被せてきやがった。

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