消えるアルバイト達 8ページ

「自己紹介しようよ」


 唐突になんだ、この人は? ここは合コンの場でもないし、学校でもないんだぞ? しかもたった三日間のバイトで自己紹介って……。ほんとこの人はマイペースすぎる。


 まずは言い出した本人が発言する。


「僕は山根幸雄って言います。朝日市で探偵をしています。年齢は32歳。君達より歳上のおじさんかな?」


 探偵という言葉に、「おぉっ」と称賛する前の2名。次はツインテールの女性だ。


「ワタスは花山花子。ハナハナって呼んでくれだす」


 ドスの聞いた声に一瞬笑いそうになってしまった。顔は動物で言うとゴリラに近い。ハナハナって感じじゃないけど……。僕は何とか笑いをこらえつつ、次の言葉を聞く。


「ワタスも朝日町に住んでるだす。あ、ワタス普段はコンビニでアルバイトしているだす。よろすく」


 喋り方気になる……。コンビニで働きながらダブルワークかい? 大変だね~。


 次に正面に座っている右の頬に大きなホクロのある男性だ。目がギョロっとしていて、眉毛がくっついてM字になっている。意外と高い声で話を始めた。


「俺は黒田太くろだふとしです。20歳。朝日市の専門学校に通ってます。金が厳しくてこのバイトしました」


 ふ~ん。生活が厳しいんだね~。名前は覚えやすい。黒田はホクロ田と覚えておこう。僕は自己紹介を無視しようとしていたが、山根が僕に要求するので仕方なく言う。


「僕は柳田裕也です。朝日市に住んでいます。以上です」


 隣から「え? 終わり?」と言う声が聞こえてくるけど、「はい」と言って終わらせた。


 山根は右隣の男性と斜め前の女性にも言おうとしたが、すでに反対側の横の人と話をしていたので諦め自分の探偵としての武勇伝を話し始めた。


 僕は上の空 。その間続々と他のバイト達が入ってきて席を埋めていく。そして最後の男性二人が宴会場に入ってきた。


 他の人達の倍はあるのではないかというくらいの巨体に目を奪われてしまう。角刈りで腹と顔の肉を揺らして席に座る男性。この人を角刈りと名付けよう。いや、僕も人のこと言えないくらい大きいけど。


 そしてもう一人。少し長い髪の毛をちょんまげのように頭の上で縛る超重量級の男性も胸を揺らしながら入ってきた。


 ちょんまげ。これがふさわしい名前だろう。あだ名を付けたところで呼ぶ機会も使う機会もないだろうけど。


 二人が入ってきたのを見計らったかのように、女将が入ってきて前に立つ。やっぱり来るんだ。まだチェックインの時間じゃないもんね。


「皆様、お疲れさまです。今日のお仕事はこれで終わりです」


終わり!? 仕事これだけでいいの!? 回りの人達も嬉しそうな表情だ。女将はその反応に馴れているのか、気にせず続ける。


「なお、夕食は18時より行います。明日の朝食は7時からですので、この大広間に集まってください。ではどうぞ召し上がってください」


 各自一斉に食事に取りかかる。腹が減っていたのだろう、食事会場が野獣と化しているようだ。


 しかしこのアルバイトは楽すぎる。午前中二時間程度働いて食事もたくさん出て二万円も貰えるとは……。


 僕は美味しい料理の数々を口にしながら、幸せな昼食を過ごした。


 お腹も満足し部屋に戻る。やっと一人きりになれた。解放感。部屋はそれほど大きくないが、壁際に鏡があり、その前に机と椅子があり、その反対側の壁際に布団が敷いてあり一人で過ごす分には不自由はない。


トイレもあるし、シャワーも付いている。インターネットに繋がらないのは減点だけど、テレビは自由に見れる。普通に泊まれば、一万円は下らないだろう。


 僕は布団に倒れ込んだ。


「はぁ疲れた」


 さほど動いてはいないが、久しぶりに動いたのと、他の人に気を使ったので精神的にも疲れた。


 夕食までゆっくりしよう。そう思っていた時であった。僕の部屋のドアがノックされた。


 乾いた音に少しドキッとしてしまう。


 せっかくゆっくりできると思ったのに誰だよ?


 僕は重たい体を起こし、ドアの方へと歩きドアを開けた。開いたドアから見えたのは知っている顔だった。


 山根幸雄。そして、ハナハナとホクロ田こと黒田。


 何で来るんだよ! 僕は心の中でそう思っていたが、口から出たのは違う言葉だった。


「みんな揃ってどうしたんですか!?」


「お休みしているところごめんね。ちょっと話があってさ。入っていいかい?」


 話? 何だろ?


「まぁいいですけど。じゃあ入ってください」


「ありがとう」


 そう言いながら、山根、ハナハナ、ホクロ田が部屋に入り、布団の敷いてない畳の上所に座る。僕は布団の枕元の方に座り、山根は布団の足下の方に座った。


お前も布団の上に座るんかい!


僕の方を見た山根は、手を組んでゆっくりと話し始めた。


「実は……柳田君に相談とお願いがあってね~」


 相談? お願い? 僕は不審に思いながらも山根の話を聞くことにする。


「何でしょうか?」




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