消えるアルバイト達 6ページ
「先ほどは声を出せる雰囲気ではなかったので遅くなりましたが、わたくし
探偵? なぜそんな人がここでアルバイト!? よっぽど人気がなくて仕事が来ないのか、それともただの食事が目当てか……。
僕は山根の体型をまじまじと見た。太いのは太いが意外と引き締まっているようにも見える体。胸板なんて相当厚いようだ。でも顔などはそれなりに肉は付いているので、きっと体も筋肉以上にぜい肉が付いているのだろう。
僕も山根に見習い、手を止めて自己紹介をする。少し吃(ども)りながら。
「ぼ、ぼ……僕は、柳田裕也、23歳です。今求職中です」
「23歳ってことは大学卒業したばかりかい?」
「はい、そうです。就職先が見つからなくて……」
僕は山根に嘘をついた。就活なんてしたことがない。ニートで引きこもりだと言うと、この男はきっと自分のことを馬鹿にして低く見ると思う。たかだか三日の話だけど、そうなるのは嫌だ。しかし山根はそれを見透かしたかのように話しを続ける。
「僕も大学を卒業したての頃は働く気がなかったな~。大学は自由な時間が多すぎてやる気がなくなって困る」
「はぁ、そうなんですか」
「ってことはこのバイトで仕事慣れしようってことかい?」
「ま、まぁ……そうですね。このバイトは楽そうだし金も稼げそうだし、3食付きだったので応募しました。山根さんも金と食べ物が目当てですか?」
キョトンとして見ている山根。
しまった。答えを間違った! いや、質問の方だろうか? 僕はたまに言葉がおかしくなって人を傷つけてしまう時があるんだ。いつもの悪い癖だ。
僕の恥ずかしい気持ちとは裏腹に、山根は軽く笑ってこう言った。
「柳田君は面白い人だな~。まぁ僕も同じようなものかな。この旅館に興味があって応募したんだ。柳田君は今回初めてこのアルバイトに参加したのかい?」
「あ、はいそうです。二週間前くらいにポストにバイト募集のチラシが入っていたんです。それで応募したら受かりまして……あっ山根さんも?」
「そうそう、僕もチラシが入っていてそれで応募したんだよ」
と言っているが、何となく本当のことを言っていないように見える。返事が軽い。でも、もっと気になるのが……。
「でも山根さんは探偵をしているんですよね? それならバイトをしなくてもいいのでは? それともお客さんがいないとか?」
山根は少しイラっとしたような表情を浮かべた。
しまった。また質問を間違えた……。
しかし気を取り直したのか、右側の唇だけ少し上げ、無理に鼻で笑って答えてくる。
「柳田君は痛いところを突いてくるな~。その通りなんだよ。探偵と言ってもピンきりで僕は貧乏探偵の方さ。だからここで少しお金稼ごうと思ってね~。あ、そろそろ働かなきゃね」
と言って布団からシーツをはがす。
都合が悪くなったな? この男。僕とあまり変わらないじゃないか。
山根はシーツをその横に置き、僕に指示をする。
「じゃあ柳田君の足元にあるシーツをとってくれないかな? 一緒に敷こう」
最初から敷こうとしていたのに、この人に遮られたんだよ。僕は少し腹立たしくなったが言われたままにシーツを手に取り一方の角を山根に渡す。
「はい、ありがとう。じゃあピンと引っ張って」
ちっ。この人、僕が年下だからと思って偉そうに。僕はシーツを引っ張り、山根と合わせてお腹くらいの高さに広げた。洗濯が行き届いているだろう、ふんわり花のような良い香りがする。
それを敷布団のところまで下げ、シーツを布団の下に入れ込んだ。こちらの様子を確認する山根が、僕を見ながら聞いてきた。
「柳田君の胸にぶら下がっている物って何?」
僕はハッとなり、服の上でプラプラしているそれを掴んだ。
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