サバイバル

その計画は、俺にとってかなりの賭けだった。そもそもの話、あの放送を誰も見ていないかもしれないのだ。生きていても、かけていないかもしれない。その点に関しては生存者が賢い者であることを願うしかなかった。

 「ボスゥー、生存者いたよん。」

 少々頭が緩めの女に担がれてやってきたのは、小さな少女だった。よっぽど今までの出来事が受け入れられないのか、それとも単に怖がっているのか、震えが止まる気配はなかった。

 可哀想に、今までの道のりが怖かったのだろう。持ち上げてそっとソファにおいてやる。すると震えは止まらないものの、静かに寝息を立て始めた。

 「ボス、この子ラジオの側でぶっ倒れてたんすよ。あの音波、壁ひとつでも隔てないと結構耳が痛くなるんで診てやった方がいいかもです。」

 なるほど気絶しているわけだ。俺も聴いてみたことはあるが、好奇心で聴いたことを後悔するような音だった。人類はここまで不快な音を作れるのかと感心したほどだ。少女からす

ればたまったものではないだろう。

 「わかった。おい、ドクター。この少女を診てやってくれ。」

 するとベットの裏側からのそのそと立ち上がってきた。何度も思うが、神出鬼没な男だ。同時に変人でもある。元々は医者ではなく研究者なのだ、多めに見なければならない。そもそもこいつ以外医療に長けた奴はいないのだ。

 「はいはい。あーなるほどこいつは…ただの炎症だね。悪化すれば中耳炎にもなりかねないからこの薬さしといてやれ。」

 低い声で薬が渡される。資源はこの人数に比べれば潤沢にあるのだ、これぐらい使っても罰は当たらないだろう。

 「ボース!いたぞ!女の子だ!」

 飛び込んでくる元気な声。なんともハリのある声だ、自制してもらいたい。こちらには軽傷とはいえ患者がいるのだ、静かにしてもらいたい。

 「いやー、こんな近所にいるとは驚きだね!驚きすぎて目が飛び出るかと思ったよ!ーーーおや?そっちにもいんのかい?」

 ようやく気づいたらしく、その騒がしめの口をようやく閉じる。顔だけでも騒がしい女だ。

 「ふふふ、こちらは世界が終わった後について思案しているというのに、静かにしてもらいたいものだね。少しはその口を閉じて何か思案してみるといいよ。新しい世界が見えてくる。」

 渋い声で横槍がさされる。と言うか起きていたのか。てっきり寝ているものかと思っていたが、哲学者は何をしているか分かりにくいな。

 「この子、押し入れのなかに隠れてたんだぜ。見逃すかと思ったよ。んでお前その口調ーーやっぱり、その、痛いぞ。」

 失礼女の文言を無視し、哲学者は隠れていたらしい、その女の子に触れる。

 「あっ!おまえそういうの、セクハラって言うんだぞ。」

 こいつは緊急事態に何を言っているのか。そもそもの話、もうこの国に法律はないのだ。良識などなんの役にも立たない。

 「いや、このお嬢さんは…知っている顔だね…」

 そう言って、静かに目を閉じる。毎度のことだが、こいつは考える時に目を閉じる習性がある。だからどうと言うことはないのだが、少し気になってしまう。

 「ヘ〜?どこで見たとか、覚えてるのん?」

 頭の緩い女ーーーー逢切イルナは、ひょっと首を傾げる。見た目と性格はアレだが頭はキレるやつだ、何か知っているのかもしれない。

 「この嬢ちゃんは、いや…あるいは今言うべきではないのかもしれんな…」

 哲学者…居住ヒョウガはそういい意味深に口を閉じる。何かあるのかもしれんがこいつはなんでもない事でもこう意味深に隠すのであまり詮索しなくてもいいかもしれない。

 「なんでもいいけどよ、早いうちにこの子の部屋だけ決めちまおうぜ。後になってあたふたすんのも嫌だろ。」

 この何も考えてなさそうな女は、馳走アカネは、何も考えてなさそうな発言をする。言わずもがな、俺とは仲が悪い。何も考えてない奴は嫌いなんだ、仕方ない。

 「あ、あの…ここは?」

 気絶していた少女が目を覚したのか、不安そうな顔をしてこちらを見ている。まあいきなり知らない所に知らない大人がいるのだ、それは警戒もするだろう。まあ全て無意味だが。

 「そんなに怖がらなくていい、嬢ちゃん。」

 アカネが、真っ先に近寄り笑いかける。その笑顔で少し安心したのか、少女も心なしか表情が明るくなった。

 「あ、あなた達は…ラジオの人ですか?」

 「そうだぞ。」

 安心させるように手を握りしめた。アカネはこう言うのがうまい。逆に俺は苦手だ。最悪の場合、顔を見ただけで泣かれてしまう。

 「あ、ありがとうございます…私、星旅フスマっていいます…」

 「名乗ってくれてありがとな、嬢ちゃん。」

 アカネはフスマの髪をわしわしと撫で、笑いかけた。そして後ろでうずくまっている男に呆れた口調で言う。

 「こんな子も名乗ったんだ、お前も名乗れよ、ドクター」

 ドクターはアカネの方をジロリと一瞥し、それからまた目線を戻す。

 「こんな妙な輩が沢山いるのに名前なんて名乗れるか、阿呆。お前の頭は空っぽなのか?」

 言っていることは少々過激だが、アカネの頭については俺も同意見だ。

 「さあ、仲間割れはもうやめだ、後はこの子が目覚めるまで待つぞ。」

 こいつらの喧嘩は始まるとなかなか終わらない。止めるのが面倒くさいので、この辺りで適当に話を逸らす。

 「あー、それは賛成だ、リーダー。ところで、部屋割りは本当に決めなくていいのか?」

 …こいつの頭はそれしか考えられないのか?

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