幕間 夢の中


 夢を見た。自分が知らないところで笑っている夢。とっても幸せな筈なのに、とっても悲しくて、哀しくて、泣きそうになっていた。


 そこは酷く曖昧だった。自分の輪郭すら溶けてなくなってしまいそうなほど、不安定な場所だった。でも、私はずっとここに居たいと思っていた。ずっと前からここにいた気も、した。


 “なんで泣いているの?”


 わからない。いつからここにいたのか、いつまでここにいられるのかも、全て輪郭が曖昧で、ぼやけていた。


 でも、不思議とそれが心地よかった。


 “なんで笑っているの?”


 わからない。ここにいたら全て許せそうで、全て許されそうで、この世界の全てが分かりそうで。もしかしたら私が世界そのものなのかもな、という考えすら頭によぎる。


 でも、それでも私はこの世界のことを知らなかった。


 “なんで大人になったの?”


 わからない。なった過程も、得た全ても、心地よく溶けていく。私は、空を飛んでいたのかも。あるいは海を泳いでいたのかも。


 でも、私はそれでもここにいた。


 “なんで…また消えちゃうの?”


 わかんない。わかんないけど、悲しかった。

 …違う。消えたのは君の方じゃないか。急に目の前の輪郭がはっきりと、くっきりとする。目の前には誰かがいた。いや、“君”がいたのかもしれない。


 「私の手を取って」


 そうすればあるいは、消えずに済むかもしれない。消えゆく君を、救えるかもしれない。ぐんぐんと、手は伸びる。でも、いくら伸びても、君には届かない。


 そうして、ぱちんと目が覚めた。

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