第三話 これからは


 元通り、なんて都合の良い事、考えなければよかった。寝ても相変わらず外は凍りついたままで、時間も空間も凍ったまま止まってしまっていた。


 ここまで来るともう冷静になる。ああ、自分は取り残されたのか。これからどうすればいいのか。冷静になると、少し行動する気力が湧いてくる。


 国だ。こういう時は、国に頼るに限る。私は少しの情報も逃さない為、ラジオをつけっぱなしにする事にした。幸い、電池式ではなく太陽光パネルで発電しているラジオだったから、電力の心配は無かっ


 どんな家具が使えるか確認する。パソコンは、駄目。テレビは、つくけどどのテレビ放送もやっていなかった。洗濯機は水が流れないから、電気屋に置いている見本状態になってしまっていた。冷蔵庫は必要がないぐらいには冷えていたが、まあ作動はしていた。エアコンはまだ使えるが、いつ電気が止まるか分からない。換気扇は怖いので起動していない。


 その時。砂嵐ばかり流れていたラジオから、人の声が聞こえてきた。


 『…あー、聞こえるか?こっちからはあんたの声が聞こえないから一方的に言うぞ。』


 頭が真っ白になる感覚。再び寝る前の思考に陥りそうで、駄目だ駄目だと頭を振って落ち

着き、次の言葉を待った。


 『正直、これが誰に聞こえているか、又は誰に聞こえてないかはわからない。誰にも聞こえてないかもしれないし、予想外の人数が聞いているかもしれない。それを踏まえた上で、アンタに呼びかける。』


 ごくり。自分の喉が鳴ったのがわかる。この非日常の中で、相手が日本語を喋っていることを、今更ながら天に感謝した。


 『アンタも知っているだろうが、この国はーーーー滅んでしまった。俺の知りうる限り、生きている人、日本人は片手で数えられるほどしかいない。

 だが、絶望しないでほしい。少なくとも、俺たちはまだ、生きている。それって重要なことだろ?…まぁ、前置きはここまでにするか。

 アンタが生きているなら、まず生身で外には絶対、出るな。アンタが相当な自殺志願者だったら話は別だが、特段死にたい訳じゃないんなら、ガウン程度で出ようとするなよ。残念だがこっちにはそうやって死んだ馬鹿が一人いてな。あんなのは一人で十分だ。この世界は凍りついたんだ。アンタがいくら寒さに慣れていても、死には抗えないだろう。

 でも、一人では不安だろ?だから、アンタから俺らに連絡手段を用意する。どうやら幸運な事に、この世界では音までは凍りつかないみたいだ。明日の正午、太陽が一番高く登ったタイミングで、このラジオから爆音で騒音を流す。ああ、言わんでもいいことかとは思うが、絶対にそのタイミングでラジオに近づくなよ。耳が吹っ飛ぶぞ。

 その音を聞いて、近くにいる俺の知り合いが動く。ああ、聞こえるほどの爆音なんだ。だからどこかに隠れておけよ。

 この放送はもう終わりだ。また会えることを楽しみにしているぜ。』


 音は途切れる。たった三分間ほどの、わずかな邂逅なのに、三分前より安心していた。自分以外の人が居たのか、と言う安心感が、私を支配していた。でも、それで言われたことを忘れるほど馬鹿ではなかった。明日の、正午。そのタイミングで、誰か人に会える可能性がある。聞こえるのかと言う不安と、聞こえると保証された心強さでいっぱいだった。


 その安心感や不安感でいっぱいになっている中、漠然と冷蔵庫を開いた。いくら世界が凍り付いていても、ご飯がなければ生きられない。


 吟味した結果、お湯で作るラーメンを食べる事にした。冷蔵庫は、結局使わなかった。あまりの出来事に忘れていたが、私は自炊ができないのだ。湯沸かし器はつかえたので、それでふやかして食べた。


 体が芯から温まると、すぐに眠くなった。相当気を張っていたのか、布団に入る気概もなくそのまま眠りに落ちた。

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