第39話 茨城と田中と.....。
「すまないが話の目的を言い忘れていた。お前は妊娠したかもしれない事を知っているのか。茨城」
「.....知っているっちゃ知ってるよ。.....それはとてもアタシらにとっても有名な話だ。アタシらのチーム抜けてからまさかと思ったけどな.....」
「.....」
茨城の手によって親子丼が作られた。
半熟の黄身が美味いそれをご馳走になってから俺はお茶を飲みながら茨城を見る。
茨城はかなり悩んでいる様だった。
それは麻里子の妊娠かもしれない事に関して、だ。
言葉の端々に重みがある。
「.....俺としては子供をおろさずに産む事が大切だとは思う。子宮に負担が掛かると思うし。.....だけど俺がとやかく言える立場じゃないからな」
「.....アタシもとやかく言える立場じゃない。.....だから何も言うつもりはないけど。でもこれだけは言いたい。父親が蒸発したんだ。会ったら殴り殺したい気分だ」
「そうなんだな.....。でも止めとけ。お前がせっかく今まで頑張った分がオジャンになるから」
「.....相変わらずなこったなアンタも。.....だけど分かってる。.....気分だけ恨むのは別だろ?恨んでも良いよな」
「そうだな。それは別だ。恨んでも良いと思う。.....だけどリアルで殴るなよ」
そうだな。アタシには.....幸せが待っていると思うから、と笑みを浮かべる茨城。
俺はその姿を見ながら、おう、と返事をする。
それから俺は柔和になった。
アタシは.....アンタらに出会ったからもう暴力は振るわないよ、と言う茨城。
俺はその言葉に、今まではそうじゃなかったんだな、と言う。
「.....今までは喧嘩ばかりだったから。.....それなりの番長だったんだ」
「そうか.....。成程な。.....お前はそんな感じだったしな。昔は」
「.....アンタも虐めてたしな。.....反省してる。.....心から反省してる。でもその中でもアンタらはそんな私だけどずっと手を差し伸べてくれた。.....その思いを胸に私は生きていくつもりだよ」
「.....お前も本当に変わったよな。茨城」
将来も全てが定まったしな。
お陰様でな、と言いながら茨城は涙を浮かべる。
俺は涙を浮かべたその姿に笑みを浮かべながら見つめる。
茨城は、こんなゴミクズに手を差し伸べてくれたのが嬉しくて仕方がない、と言いながら泣き始める。
「.....お前はゴミクズじゃない。.....全てを変える事が出来た。それだけで凄いと思うから。.....お前に手を差し伸べて正解だった」
「それにしても気付くのが遅かったけどな」
するとトイレに行っていた姫子ちゃんと。
茨城のお婆ちゃんのカヨさんがそのまま戻って来た。
カヨさんは俺を見ながら、何時も有難うねぇ、と言ってくる。
杖をつきながら姫子ちゃんと茨城に支えてもらいながら歩く90歳の女性。
俺は首を振りながら、大丈夫です、と答える。
「.....貴方が何時も来てくれるからこの家も明るいよ。.....有難うねぇ。仏様の様だよ」
「茨城家が心配になっているだけです。.....それで来ているんです。仏様は言い過ぎですよ。カヨさん」
「貴方は泉ちゃんと結婚はしないのかい?」
「.....俺よりも良い奴に恋をしてます。茨城さんは」
「そうなのかい?」
カヨさんは茨城を見る。
茨城は、う。うん、と言い出しそうな感じで赤くなる。
俺はその姿に苦笑する。
姫子ちゃんが、お婆ちゃん。大丈夫!将来は安泰だよ!、と言った。
茨城が、ちょっと!姫子!、と真っ赤に赤面する。
「若いって良いねぇ。.....私も若い頃は武蔵さんと恋をしたからねぇ。.....太平洋戦争で死んじゃったけど.....でも彼に出会えて良かった。.....泉ちゃん。一緒に居る人は生涯、大切にしなさい。絆もそうだけどねぇ」
「.....うん。分かってる。お婆ちゃん。最近.....その事を強く理解しだしたから」
「.....偉いねぇ。.....じゃあ雪歩くん。.....私は少しだけ眠るねぇ。気を付けて帰ってね」
「.....はい」
カヨさんは持病を患っている。
その為によく寝ているのだ。
そんな事を考えていると.....カヨさんが襖を閉めてからインターフォンが鳴った。
茨城が?を浮かべて玄関先に行く。
俺も追ってみると。
「よ、よお」
「.....た、な、か!?!?!」
「お前.....どうした?田中」
「.....いや。どうせこの場所に来ているだろうと思ってな。それで来てみた」
少しだけ恥じらいながら頬を掻く田中。
朝の件があったから、だろう。
俺は茨城を見る。
茨城は目を回していた。
これは.....まあ恋する乙女だな。
「タナー!こんにちは!」
「おー。姫子ちゃん」
タナーというのは田中の愛称。
あまりに茨城が田中、田中言うものであるから姫子ちゃんがタナーで覚えてしまったのである。
俺は苦笑しながら田中を見る。
田中はお土産だぞー、と色々と出す。
「お菓子!わーい!」
「有難うな。田中」
「気にする事はない.....ってかお前がよく頑張っているじゃないか」
「.....俺はまあついでだよ。.....本望はお前だ。な?茨城」
「ウェ!?.....い、いや.....」
赤くなる田中と茨城。
俺はニヤニヤしながら見つつ。
んじゃ俺は帰ろうかな、と言った。
えぇ!?、と驚愕する田中。
だって俺がいる意味ないじゃないか。
「後はニヤニヤな2人でやってくれたまへ」
「この野郎.....覚えておけよ.....」
「はっはっは。覚えておくさ。有難うな」
そして茨城を見る。
本音のぶつかり合いが出来て良かった、と言いながら。
茨城はハッとしながら俺に向く。
確かにな、と言いながら。
「.....サンキューな。雪歩」
「.....気にすんな。.....んじゃ姫子ちゃんも。帰るからな」
「あーい!」
そして俺は田中を置いてそのまま荷物を持って去った。
すると目の前の門辺りに.....椋が立っている。
待っていたのだろうか。
俺を柔和に見ていた。
そんな姿に?を浮かべて、どうした?椋、と聞いた。
「うん。.....田中くんと一緒に来たんだ。.....ふふっ。幸せになってほしいね」
「.....そうだな。.....ついでだからお茶でもして帰るか?」
「うん。君と一緒なら何処でも」
俺はその言葉に頷きながら。
そのまま後ろを見てから歩き出す。
このままデートでもしようかな、と思ったが。
ひだまりにシフト入れよう、と思った。
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