第38話 日常と茨城と

「話せば分かると思うか?」


「.....さあな。.....しかし複雑なもんだなお前の家も」


「確かにな。俺の家は特殊だ」


苦笑しながらも明るく俺に話し掛けてくる幸嶋。

俺はその姿を見ながら考え込む。

何処の馬の骨にやられたか知らんが仮にも妊娠かもか.....。

幸嶋とは知り合いだからそれなりに腹立たしいな。


「.....生理が来てないそうだ。その時点でおかしいとは思うだけどな」


「そうか」


「.....ちょっと聞いても良い?幸嶋くん」


「何かな」


「.....その。もし本当に妊娠していたら.....産むの?」


「.....」


幸嶋は言葉に出来ずに答えなかった。

俺はその姿を見ながら.....また悩む。

どうしたものか、と思いながらであるが。

そうしていると幸嶋が喋った。


「.....産む.....選択肢しかないだろうな。.....彼女には負担になるかもしれないけど。.....正直言って麻里子の子宮に負担を掛けさせたくない」


「そうは言っても.....経済面とか大丈夫なのか?」


「.....俺が何とかする。俺の家は荒れているからな。.....それでちょっと親には頼れない部分もあるから」


「.....」


にしてもこの話をして気楽になったよ。

誰かに相談に乗ってもらわないと死にそうだったからな、とお気楽そうに話す幸嶋。

それから、お礼と言っちゃ何だが泊まりに行かないか、と言ってくる。

ぶっ飛んでんなオイ。

何故いきなり泊まる事になる。


「.....取り敢えずはお礼がしたいんだ。まあ福引で当たってしまったってのもあるが」


「運が良いな。お前。つうか何人分なんだ」


「このチケットは6人分らしい」


「.....なら俺の知り合い誘って良いか。田中と首藤なんだが」


「歓迎だな。.....取り敢えずはその2人を誘って行ってみるか」


福引でチケット当てるなんて凄いね、と言う椋を見ながら。

俺は顎に手を添えて考える。

でもちょっと待てよ?

6人分か.....あと1人は?

考えていると、茨城さんはどうなのかな、と聞いてくる。


「茨城は忙しいと思う」


「.....そうか。.....じゃあ誰が良いかな」


「じゃあもし埋め合わせが無かったら楓、誘っていい?」


「おー。楓さんか。良いかもね」


俺達は頷きながら泊まりの事を考える。

それから一泊二日の旅行の事をもやもやと考える。

でもいつ行くんだ?、と幸嶋に聞くと。

幸嶋は、ああ。これは春休みに入ってからの有効期間だな、と言ってくる

成程。


「.....それはそうと.....幸嶋。お前、家の事は本当に大丈夫なのか」


「.....あの腐った家の事は大丈夫。.....それに俺と麻里子は分かっていると思うが仲が良くないから.....陰ながら見守った方が良いかなって思った」


「そうなんだな」


「ああ」


それでもし仮にも行けなくなったら君らで行ってくれないか、と幸嶋は向いてくる。

俺は顔を顰めながら、まあ半分だけ聞いとく。そんな事が無いと思っているから、と答えた。

つーかあったらマズイと思うしな。

思いながら椋を見る。

椋は、楽しみだなぁ、と言っていた。


「.....久々に羽を伸ばせるかなって」


「.....そうだな。確かにな」


「よし。という事で。君らこの後どうするの?」


「ああ。俺は茨城の家に行こうと思って」


「そういえば言っていたよね。.....何しに行くの?」


「茨城の家に食料分けてやろうと思ってな。姫子ちゃんにも会いたいしね」


そっか〜。私と幸嶋くんは授業で忙しいからね、と言う椋。

代わりに茨城に宜しく言っておいて、と椋は話す。

俺はその言葉に、ああ、と回答する。

それから、じゃあ行くか、と幸嶋が立ち上がったので俺達もそのままその場で別れる事にした。

そして茨城の家に向かう。



インターフォンを押すとガラッとガラス戸が開いた。

それから姫子ちゃんが顔を見せる。

あ。お兄ちゃん、と言いながら、だ。


俺はその言葉に挨拶をする。

やあ、と言いながら、だ。

エプロン姿の茨城も顔を見せた。


「.....雪歩?何しに来たんだお前」


「お前に食料を分けに来たんだよ。多分.....悩んでいるかと思ってな」


「お前さ毎回毎回.....お金が勿体無いだろ」


「.....セール品だからな。問題は無い」


「.....ハァ.....まあ良いけど.....まあ取り敢えず上がるか?」


茨城は髪を解きながら俺を見てくる。

俺は、お邪魔じゃなかったら入ろうか、と言う。

茨城は、迷惑とかねぇよ、と言葉を発しながら家の中を歩いて行った。

その後ろ姿を追う様にして家の中に入る。

そしてリビングに通された。


「.....お婆さんは元気か」


「まあ婆ちゃんは元気だ。.....何時も有難うな。気に掛けてくれて」


「.....お前の施設に入っているんだよな?」


「そうだな。それを考えて私は施設に勤め始めたもんだしな」


「.....そうか」


姫子ちゃんに食料を渡す。

すると姫子ちゃんは目を輝かせて、お菓子も!、と言う。

俺はその姿を見ながら、ああ、と頷く。

そんな姿を茨城は見ながら.....俺に向いてくる。


「お前はNPOとかじゃ無いんだから無理はするなよ」


「NPOじゃないな。確かに。.....でも今だけやれる事はしたいしな」


「.....全くお前のお人好しには目に余るものがあるぜ」


「救ってくれた分の恩返しはしないといけないしな」


「.....」


安月給だと困る部分もあるだろ、と俺は言う。

この場所だって有るだけ有料だろうしな、とも。

すると茨城は、まあな、と苦笑いを浮かべる。

税金とか掛かるしな、とも。

本気で困ったもんだぜ、と言いながら頬を掻く。


「でもそれでも元気に告白してから.....楽しいけどな。色々と」


「お前らはお似合いだと思う。.....付き合うなら本気で応援する」


「.....雪歩。有難うな」


「.....気にすんな」


そうだ。折角だからアタシの料理を食べないか?、と茨城が言ってくる。

そういやコイツの料理とか食った事ねぇな。

俺は考えながら、じゃあ頼めるか?、と言ってみる。

すると茨城は、任せろ。アタシの愛情込めてやるよ、と、ニヒヒ、と笑みを浮かべる茨城。

俺は苦笑しながら、おう、と返事をした。


「.....んじゃまあ姫子。用意してくれ」


「あいあいさー」


「ああ。俺も手伝うよ。茨城」


「アンタは座ってな。アタシの客人だし」


「そうそう」


それから歩いて行ってガスコンロに火を点ける茨城。

俺はその姿を見ながら言葉に甘えてからそのまま椅子に座った。

そして周りをゆっくり見渡す。

そうしていると姫子ちゃんが、何か気になる?お兄ちゃん、と向いてくる。

俺は、いや。頑張っているなぁと思ってな、と答えた。


「一生懸命だから.....良いお姉ちゃんだよ!」


「.....そうだね。.....君がそう思う事が茨城の為になると思う。姫子ちゃん。茨城を支えてやってね」


「.....うん!」


そんな会話をしながら俺達は笑みを浮かべる。

そして茨城を待った。

だけど途中でアイツの手伝いもしようかな、と思いながら。

立ち上がって茨城の元に向かった。

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