第33話 停電の中でも輝く世界

何と停電した。

とんでもない話であるがまだこれだけじゃない。

停電したのと親が帰って来ない事になった。

それは電車が動かないから、であるが。

俺達は停電する中で寄り添い合う。


「.....」


「.....」


心臓の高鳴りと。

俺の吐息と椋の吐息が入り混じった様なそんな空間。

あまり動かない方が良いかと思って窓際に居るが。


そんな中、椋が俺に向いてきた。

愛してるよゲーム負けちゃったね、と言いながら。

俺は見開きながら苦笑する。


「.....だから言ったろ?俺は負けないって」


「そうだね。アハハ。まさか負けるなんて思ってなかった」


「そうだな。.....椋の弱い所を知っているからな。だから絶対に負けないと思った」


「そうなんだね。.....もう十分に雪歩君に色々と伝わっているんだね」


「そうだよ。だって好きな人の事だ。当たり前だと思わないか?」


「確かにね」


すると、その。雪歩くん。実は私はあまり暗いの好きじゃないの、と椋はガタガタと震え始めた。

俺はその事に抱き締めてからそのまま頭を撫でる。

そうか、と思いながら。

椋は一人だったしな、と思いながら。


「.....椋。大丈夫。俺が居るからな」


「そうだね.....ゴメンね。苦手で」


「何を謝る必要あるんだ?.....良いじゃないのかな。また俺は君の苦手な所を知った。だから一緒に支え合えば」


「.....アハハ。雪歩君は本当に何でも勇気な感じに捉えるから凄いね」


それを凄いというのかどうかは分からないがな。

と言いながら俺は苦笑いを浮かべる。

それから満月の空を見上げる。

今は曇りであまり外が見えないが.....月の光が差し込んでいる。

一応だが。


「.....綺麗だね。真っ暗だとこんな景色が見れるんだね」


「そうだな。.....確かに」


「.....ねえ。雪歩君。私達の未来ってどうなるのかな」


「今は何も考えれないけどでも乗り越えていける未来が待っていると思う。椋も俺もね。だからそんなに心配はしてない」


「.....確かにね。.....ふふ。何だか少しだけ落ち着いたかな。明るくなった感じ」


「停電しているのにな」


全く電力も何もかもが戻らないが。

だけど俺達はポカポカと明るい感じだった。

そういえば蝋燭がどっかに.....あったな。


まあ良いか.....俺達はそれなりに心が明るいから。

思いながら俺達は笑みを浮かべ合う。

この家に2人しか居ないのは恥ずかしいが.....でも。

何だか本当に夫婦の様な感じだな。


「.....茨城ってさ」


「.....?.....茨城がどうした」


「本当に変わったよね。全てが」


「.....丸っとな。今までが嘘の様だよ」


「でも彼女には反省を抱えていてもらわないとね。だって雪歩君の心.....治ってないから」


そうだな.....。

あの頃は心療内科にも行ったしな。

茨城に心を汚されて、だ。

でも果たして.....ずっと恨む事が全てなのだろうか。

思いながら俺は椋を見る。


「俺は茨城を許すつもりだよ」


「.....え?」


「アイツは.....よくやってる。.....俺が偉そうに言っても仕方が無いけど。.....でもアイツは.....変わったからな。一応更生を始めた。もう.....彼女を恨む気は無い」


「.....それって心から許すって事なのかな」


「残念ながらそれは甘いかな。.....でも許す気だよ。半分は」


椋は真剣な顔で俺の話を聞く。

彼女から受けた傷が.....大きいからな。

考えながら俺は目の前のガラスを見つめる。

窓を鏡の様に。

そして目を閉じて開いた。


「半分許す.....はイジメにケジメをつけた訳じゃ無いんだけど.....でも。もう良いかなって思ったんだ。だけど付けた傷は重いから全部は許せないけど」


「.....うん。雪歩くんが何処まで許して何処まで許さないか。.....それは雪歩くん自身が決める事だよね。.....私は何も出来ないから」


「そんな事ない」


「.....え?」


「俺の側に椋が居たから決めたんだからな」


俺は言いながら前を見る。

雨が止んでいた。

そして曇り空の中から月光が差し込んでいる。

俺はその様子を見ながら立ち上がってから椋の手を握る。

外に出ないか、と言いながら。


「.....今だから全てを見ておきたいな。.....星が、月が綺麗に見えるだろうしね」


「そうだね。確かにね。今だったら見れるかもね」


「じゃあ靴を履いて.....そして見てみよう」


「.....うん。雪歩くん」


言いながら俺達は靴を履いてから外に出てみる。

すると満月が見えてきていた。

その光だけしか無い。


今のこの停電して電力の無い世界にはであるが。

まるで神が全てを見抜いている様なそんな感覚だ。

何がと言えば.....俺の決断のきっかけになった天気と椋の事を。


「綺麗だね」


「そうだな。.....とても綺麗だ。人間の腐った文化を排除したらこうなるんだな」


「.....そうだね。人間は頼り過ぎだよね。全てに」


「言っても頼らないと生きていけないから.....どうしようも無いけどね」


「うん。それも.....しょうがないよ」


そんな感じで会話しながら近所を見ると。

同じ様に外を見ている様な人達が沢山居る事に気が付いた。

俺はその人達の姿を見ながら空を見上げる。

そして椋を見てから手を繋ぐ。

椋は俺の手を見ながら驚きつつも笑みを浮かべた。


「.....来年は高校3年生。その次は大学生。その次は.....何だろう」


「そうだな。.....結婚じゃないか?」


「.....少しだけ早く無い?アハハ」


「案外早くないかもしれないぞ。.....ハハハ」


闇の中から満月が雲を掻っ捌く様にして遂に大きく見えてきた。

星々が輝く中.....俺は笑みを浮かべる。

俺達は寄り添う様にしながら見上げる。


そして互いに右手左手を空に手を伸ばした。

何も無い闇の世界だけど.....それでも光は必ず差し込む、だな。

思いながら俺達は手を握り合った。

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