第26話 椋の誕生日を祝えなかった分を祝う為に

『そら災難だったな。お前さんも』


「そうだろう?ハハハ」


『でも.....その中で茨城が助けに来るとはな。俺達が行けば良かったけど。.....というか不良のリーダーってマジかよ。それでかあんな陰湿なイジメをしたがそれなりに手を潔く引いたのは.....』


田中から様子見の電話が掛かってきたので応対する。

俺達は丁度、海から上がってからシャワーを浴びてからそのまま帰りの電車に乗る為に歩いていた。

結局メチャクチャな件で全く祝えなかったな。

椋の誕生日を、であるが。


『茨城の事は心底のクソッタレと思っていたがな。.....全く世の中ってのは不思議なもんだねぇ』


「お前が心底嫌っていたしね。俺の為にね」


『そうだな。マジに嫌っていたから。.....心から茨城は変わらないと思っていたしな。しかしクズの上は居るんだな.....本気で。取り敢えずは殺されなくて良かったぜ』


「.....正直本気で死ぬかと思ったが.....茨城のお陰だよ」


『.....そうか。ああそうだ。茨城の家な。取り合えず良い場所が見つかったぞ。おじさんが言ってた』


そうか。有難うな田中。

と言いながら俺は、じゃあ切るぞ、と話す。

すると田中は、おう。因みに首藤にも言っていいかこれ、と言ってくる。

俺は頷きながら、構わない、と返事をした。


「お前に任せる」


『分かった。じゃあ一応話しとくわ。.....電話掛かって来るかもだぞ。アイツはお前の母親みたいなもんだしな』


「だな。確かにな」


『おう』


そして電話は切れた。

俺は笑みを浮かべている椋に向く。

大丈夫か、と聞いてみると椋は、うん、と頷く。


それからニコニコする椋。

俺はその姿を見ながら、今日は散々だったね、と言う。

椋は、うん、と言いながら悲しげな顔をした。

そして俺を見てくる。


「ゴメンね。本当に。.....私の過去が.....」


「椋の過去は俺の過去。.....だから問題無いよ。そもそも弱くてゴメンね。茨城に頼らないといけないぐらいに弱いなんて.....鍛えよう」


「そんな事しなくて良いよ。そもそも私が悪いよ。あの場から逃げ出したのは私だから。.....過去から逃げたくて」


「.....」


誕生日を祝えなかった、と俺は呟く。

すると椋は、うん。でもそれ以上に大きなモノを貰ったよ、と俺に向いてくる。

俺は?を浮かべながら駅に到着してから切符を買う。

椋の分も、だ。

慌てる椋を静止しながら話を聞いた。


「私は.....過去に決着を半分でも4分の1でもつけれたのが最高のプレゼントかな」


「.....まだ遠山は死んだ訳じゃないけどね.....。.....でも大丈夫だろう。きっと」


「それは茨城が居るから?」


「それもそうだけど。.....君の周りを見てほしい。色々な人達が居るから」


君は.....もう一人じゃ無いだろう?

そう言いながら俺は椋の手を優しく握る。

椋は見開いていたが.....その言葉に強く頷いた。

そうだね、と言いながら、だ。

あの頃とは違う、か。


ピコン


「.....あれ。メッセージだ」


「誰から?」


「.....楓からだね」


「楓さん?心配したのかな」


思いながら俺達は顔を見合わせていると。

椋が文章を読んでくれた。

駅のホームで待ち合わせしながら、だが。

こんな文章が送られて来ていた。


「『お姉ちゃん。今日は災難だったね。その。その代わりのお祝いと言っちゃなんだけど家でホームパーティーをしようと思うんだけど。みんなを呼びませんか』だって」


「.....それは良いかもな。ホームパーティーとかやったらさぞ楽しいだろうな」


「じゃあこれは.....その。パーティーだから茨城も呼ぼうよ」


「.....正気か?お前の誕生日会なんだぞ」


「でも助けられた恩返しはしないと。本当に命掛かっていたかも知れないから」


言いながら俺を真剣な顔で見てくる椋。

俺は顎に手を添えて考えてみる。

それから、分かった。椋が言うなら、と笑みを浮かべた。


正直、今回の件で茨城とはかなり近付いたとは言えるが。

椋からそんな言葉が出て来るとは思わず。

結構衝撃的だった。


思いながら.....俺は笑みを浮かべる。

麦わら帽子を脱ぎながら俺に柔和に笑みを浮かべる椋。

そして電車が来た。


「何時やろうか。ホームパーティー」


「そりゃまあ全員の都合が良い時かな」


「じゃあ茨城に聞いてみないといけないね。連絡先交換しないと」


「.....正気か?茨城の?」


「うん本気だよ。彼女は.....命の恩人だから」


どれだけあっても助けられたら感謝の気持ちを忘れず。

それがお父さんの信念だから、と柔和に俺を見てくる椋。

俺は、やれやれ、と思いながら田中に電話した。

アイツが連絡先知らないかな、と思いつつ。

そして電話が掛かる。


『おう。どうした。さっきぶりだな』


「お前さ。茨城の連絡先知らないか?」


『うん?.....いや。お前正気か。.....知っているっちゃ知っているが.....。一応、連絡するのに交換したしな』


「そうか。じゃあ今直ぐに教えてくれ」


『おう。お前が言うなら教えるけど。ったく。今回は特別だぞお前。.....えっとな.....』



そしてその後、駅を降りての駅前広場。

俺達の町に帰って来てからの事だ。

田中の電話を切ってから教えてもらった番号に掛けてみる。


するとそのまま電話が繋がり女児の声がした。

もしもし?、的な感じで、である。

俺は見開く。


「もしもし。この電話.....はその。.....茨城さんの携帯電話かな」


『はい。いばらきのでんわです』


「.....そうなんだね。.....じゃあその。変わってくれるかな。お姉さんに」


『はい。わかりましたぁ』


すると、コラ姫子。勝手に弄るなってあれ程。つーか姫子?誰だよ?、という声と共に電話が代わる。

そのまま茨城にであるが。

はい?もしもし、と声がする。

俺は、田中だけど、と答えると。

茨城はかなり驚いた声を発してくる。


『お前。.....何処でこの電話番号を知ったんだよ』


「まあツテでな。田中から教えてもらった。個人情報だから教えてもらうのも癪だと思ったが」


『ああ、不動産の田中の方ね。.....ならまあ良いけど。.....んで何の用事』


「お前は暇か。今じゃなくて今度」


『暇とか暇じゃ無いとかそんなの無いけど。それがどうした。.....暇だと何かあるのかよ』


「お前、パーティーとか来るかな。恩返しの意味で呼びたいと思っているんだが」


は?パーティーだ?、と訝しげな声が茨城からした。

俺は、お前に助けてもらったからな。その恩返しだよ、と内容を話す。

すると、いや。お前。アタシは気に食わないから偶然に見つけて対峙しただけだぞ、と話す。

お前気付いてないのか?、と言葉を発した。


「お前がやっている事で人は救われる時もあるんだよ」


『.....!』


「.....椋が呼んでるから。来てくれないか」


『.....どいつもコイツも.....本気でボケナスばっかだな。.....全く。.....そのパーティーは姫子も行って良いか』


「姫子ってのはお前の妹かな」


『ああ。アタシが世話しているから』


まあそれは任せる、と言いながら俺は椋を見る。

椋は笑みを浮かべて頷いていた。

俺はその姿を見ながら駅前広場を見て話す。

お前がやった事は本気で誇れる事だと思う。俺も見返した。お前の事。だからその分のお礼はつきものだと思う、と。


『本当に.....アンタは本当に変人だな。.....アタシは.....アンタをイジメていたんだぞ』


「.....ああ」


『.....それなのにアンタはアタシをパーティーに呼んだ。行って良いのかアタシは』


「お前は今日対峙したクソバカとは違うよ。だからお前を呼んでいるんだ」


もう変わってるよお前は。

と言いながら俺達は笑みを浮かべ合う。

段々と涙声になっていく茨城の声を聞いた。

意味がわからねぇよアンタは、とそんな声を。


『.....じゃあ行くよ。アンタがそう言うなら』


「.....そうだね」


『.....田中』


「何だい」


『.....サンキューな』


そして、アタシ忙しいから電話切るからな、と涙声で言ってくる。

俺はその言葉に、ああ、と返事してそのまま切る。

それから椋を苦笑して見た。

椋は、良かった、と満面の笑顔を浮かべる。

その言葉に、そうだな、と返事をした。


「随分と椋も変わったね」


「.....私は変わった訳じゃ無いよ。.....茨城が変わったんだと思うから」


「.....まあそうだな」


それから俺達は駅前の出来たばかりのカフェに行った。

一旦、休憩という形で、だ。

そしてパーティーの出席者をそのカフェで考える。

誰を出席させるか、という感じで、であるが。


取り敢えず決まった。

田中、俺、首藤、綾香、楓さん、椋、姫子ちゃん、茨城などなど。

そんな感じで、だ。

何だか楽しみだな、と思える。

そしてその日は椋と別れてから家に帰った。

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