第25話 海デート(3)と.....。
お昼時になった。
俺は体に付いている水滴を拭いながら横の椋を見る。
椋は笑みを浮かべながら濡れている髪の毛を拭っている。
その艶かしい感じに赤くなる俺。
「どうしたの?雪歩君。.....もしかして恥ずかしい?アハハ」
「そ、そうだね。.....何だか色っぽい。.....ご、ゴメン。女性にそんな事言っちゃ駄目だけど」
「色っぽさも大切だよね。.....でもそんなのは雪歩君だけで良いけど」
言いながら椋は笑みを浮かべる。
それからバサッと髪の毛を揺らがせる。
俺はその行動に赤面しながら足下にあるカゴに目線を向ける。
イカンイカン、と思いながら、であるが。
「それはそうと雪歩君。.....今日は.....サンドイッチを作ったの。お手軽な方が良いかなって思ったから」
「そうなんだね。直ぐに動ける様にする為?」
「そう。砂浜だから風で砂が舞うしね」
「.....そうだね.....確かに」
それを考えて作ったの、とニコッとする椋。
そして、サンドイッチを取り出して渡して.....くると思ったのだが。
一口齧った。
それから、ゴメン。味を感じたかったから.....、とニヤッとする椋。
ニヤニヤしながら俺を見てくる。
これは嘘だな、と思った。
敢えて間接キスを狙っている.....気がする。
俺はその事に立ち上がった。
「椋。陰に行かない?」
「.....陰の方?.....あ.....」
椋は赤面しながらも、分かった、と反応した。
何をしようかというのだが。
俺はキスをしたいのだ。
椋と、である。
こんな場所でキスは出来ないと思う。
ロマンチックな場所に行きたい。
そう考えて、そうだ、と思う。
確かこの先に岩影があるから、と思いつつ。
「.....積極的で嬉しいよ。雪歩君。リードは大切だから」
「でも根性は無いけどね。.....でも今日は誕生日だから。君の。願いは叶えてあげたいんだ」
「アハハ。これも思い出になるしね」
「そうそう。そういう事だよ。椋」
言いながら俺達は岩陰に来た。
そこは.....遊泳禁止エリアで岩陰が丁度、俺達を隠している。
砂浜は金色で.....綺麗だ。
俺達はそこで唇と唇を重ねた。
それからニコッとする。
「.....幸せだね」
「そうだね。早く戻った方が良いかな。荷物置きっぱなしだから」
「そうだね。うん.....でももう少しだけ」
言いながら座る俺達。
それから寄り添い合う。
互いに見つめ合いながら、だ。
俺は椋の手を握る。
その中で.....椋に聞いてみた。
この事を、だ。
「椋。初恋が打ち砕かれた.....のはどんな事があったの」
「雪歩君が小学校から転校した後に.....同級生を好きになったの。でもその同級生は.....付き合った後に暴力的になったの。私に対して。それで別れたいって言ったんだけど.....ダメって言ってから.....平手打ちされた」
「.....信じられないな。.....それで.....」
「.....悲しかったけど一番良かったのはこれで空手を習い始めようって思った事、それから腕を磨こうと思った事、それから強く居ようと思った事。色々あったよ。楓もそうだけどお父さんもお母さんもみんな支えてくれたから今の私があるの。.....だから後悔だけはさせないって思って.....強くなりたいって思ったの。そんな時に再会したのが貴方だった」
でも、と言いながら身体を震わせる椋。
それから、怖かった、と言う。
また昔みたいになるんじゃ無いかって思って、と言いながら、だ。
この街にはその男子から逃げる様にやって来たの、と言いつつ。
俺は見開く。
「.....私は.....あの頃に戻りたくない」
「そうならない様に俺が居るから。安心して。護るよ」
「.....有難う。雪歩君。だから君が好きだよ」
言いながら俺達は寄り添う。
それから.....煌びやかな海を見つめる。
ずっとこのままで居たいものだな、と思える感じだった。
こんなロマンチックな景色をずっと眺めていたい。
そんな感情である。
「.....雪歩君も苦しんだ。.....私も苦しんだ。.....でも雪歩君はまだ大丈夫。茨城は貴方の言葉でやり直したから。.....でも私の初恋だったあの男の子は暴力的になっているだろうね」
「.....不良って事かな?」
「うん。絶対にそうなってる。.....だからもう2度と会いたくはない。幾ら私が強くても心はか弱いから」
「そうだね。さっきの不良みたいになっているかもね。.....ゲスだね。それだったら」
「.....そうだね。暴力をする人は特に.....変われないんだろうね。.....何かきっかけがあったら変わるんだろうと思うけど」
言いながら俺達は寄り添っていると。
先程のチャラい男が岩陰から現れて来る。
あの女です、と言いながら、だ。
今度は2人組で。
その顔を見て.....椋は青ざめる。
「.....何だ。聞いた特徴だなって思ったら。.....久々だな。椋ちゃん」
「.....アンタ.....その.....遠山.....!?」
「何か俺の仲間に怪我負わせたらしいじゃん?お前最低だねぇ」
「.....」
この金髪の耳ピアス。
良い感じでは無い気がした。
俺は直ぐに、逃げて!、と椋を遠ざける。
椋は、え.....でも!、と迷っていたが。
良いから!、と逃した。
「.....誰お前?」
「俺は.....椋の彼氏だ。.....お前こそなんだ。もしかして椋の初恋相手か」
「.....あー。そんなだっけ?.....うん、まー覚えてねぇや」
言いながら耳を穿ってから俺に向いて来る男。
そして、つうかお前じゃねーよ。用が有るの、と言ってくる。
これは何だか良い気がしない。
というかコイツはガタイが良過ぎる。
流石に勝ち目が無さそうだ。
「えっと.....逃した分の責任は取れるのか?テメェ」
「.....」
「コイツも邪魔してきましたよ!」
そんな感じで言うモブのチャラ男。
俺は盛大に溜息を吐いてから。
その姿を見ていると。
何か言えやテメェ、と遠山が俺に向いてくる。
どうしたものかな.....、と思いながら汗をかく。
「正直に話あわないか。俺はお前と喧嘩とかしたく無いから」
「いや。俺としてはもうムカついてるから。.....そもそも話し合いとか無駄」
ジリジリと寄って来る相手。
それから.....手を出してきそうな感じ。
俺は胸をバクバクさせながら.....唇を噛んだ。
自律神経がおかしい。
思いながらも.....俺は立ち向かう。
「有金全部出せ。それで勘弁してやるわ」
「.....治療費って事か」
「そうだな。まあそういうこったね。うん」
「.....」
此処で出してやっても良いが.....格好悪いな。
思いながら息を吸い込む。
それから、遠山、と向いてみる。
あ?、と遠山は反応した。
「.....お前変わろうと思わないのか。その場所から」
「は?」
「.....不良から.....普通の人にならねぇのか、って聞いているんだ」
「お前馬鹿なの?本当に。無茶苦茶だわ。あー」
「.....」
お前なんぞと話しても意味無いから。
アイツ追うわ、と踵を返す。
ま。待て!、と言う俺の腹に.....足蹴りが飛んで来た。
それから唾を吐き出す俺。
「んな訳あるかクソボケ。お前にムカついてんだよ俺は。アイツは後でのお楽しみだからな」
「ぐ.....」
「コイツに手を出した分と逃がした分。ボコボコにすっからなお前」
バキバキと手を鳴らす遠山。
すると先の方から、遠山、と声がした。
椋の声が、だ。
俺はビックリしながら椋を見る。
何で逃げなかった、と思ったのだが。
よく見るとスマホを持っている。
「.....警察に電話したから。諦めてお願いだから。止めて」
「サツがどうって?俺は何度もサツに捕まってんだけど。.....今更怖くもねぇっつーの」
「アンタに初恋をしたのが.....本当に悔しい」
「初恋初恋うっせぇな.....そんな大切なのかテメェらキモい」
言いながら俺達を交互に見てくる遠山。
このクズめ.....初めて怒りが湧いた。
どれだけ初恋が大切と思っているのか。
女の子が、だ。
腹の痛みで起き上がれない。
「お願いだから。手を出さないで。その人に」
「.....あー。まあ良いけど。なら脱げやお前」
「.....え.....」
「脱げっつーの。ビキニ。.....嫌ならコイツをボコボコにする」
このゲス野郎が!
思いながら俺はジンジンと痛む腹を抑えながら起き上がる。
それから椋を見る。
椋は赤面して悲しげな顔をしていたが頷こうとしていた。
分かった、と。
「.....脱いだら見逃してくれる」
「.....そうだな。まあ.....うん」
「じゃ、じゃあ脱ぐ.....」
俺はそんな椋に、駄目だ、と言いながら上着を被せた。
それから俺は、椋。それは絶対にやっちゃ駄目だ、と言い聞かせる。
そして俺は腹を抑えながら遠山を見る。
遠山は、ぶっ潰し確定な?、と言ってきた。
此処までか.....警察はまだか。
思っていると。
「あれ?何してんの田中」
と崖の上から声がした。
よく見ると茨城が立っている。
手を繋いでいて子供も一緒である。
どっかからの帰り道、みたいな感じだ。
俺は青ざめる。
「茨城。今はそれどころじゃ.....」
「何?不良に絡まれてんの?」
「.....いや。そんなんじゃ無いけど」
「そっか。なら気を付けてな.....なんて言うと思うか?アタシが」
茨城は崖から飛び降りた。
それから俺達の前にやって来る。
子供はそれを見守る様にジッとしていた。
俺は、オイオイ!馬鹿か!何しているんだ茨城!、と声を上げる。
すると茨城は、なあ。田中、と言ってくる。
「アタシさ。ようやっとアンタに恩返し出来そうだね」
「馬鹿野郎.....!」
「.....いや。ゴメン。誰?お前」
不愉快そうに眉を顰める遠山。
その言葉に、そっくりそのまま返すけどお前誰?、的な感じで言う茨城。
それから、アンタ情けないと思わないの?こんな単なる奴らに絡んでも仕方が無いって、と言った。
いや.....お前なんぞに言われなくても分かってるけど、と目を細める遠山。
「俺の邪魔するって事はお前も殴られたい訳?」
「あー。それは無いよ。アタシ結構、喧嘩に強いから」
「.....は?」
「お兄さん。ちょっと聞いた覚えない?レッドピースっていう不良集団」
「.....思い出した!こ、コイツ.....遠山さん!コイツ.....不良集団のレッドピースのリーダーだった奴ですよ!」
モブは黙れと言いたい所だが。
レッドピースってこの町で確か一番の不良集団だったよな?
俺は見開きながら茨城を見る。
茨城は、まあそんなもんもあったね、と言いながら笑みを浮かべる。
今は解散したから何も言えないけどね、とも。
そして怒る顔で遠山を見た。
「.....お家に帰りな。.....アタシがコイツらに付いているから勝ち目無いよ」
「あー。もう良いや。面倒臭ぁ。一発は殴れたしまあ良いや」
言いながら俺達に踵を返して遠山と男は去って行く。
俺はホッとしながら.....腹を抑えたまま茨城を見る。
まさかコイツに助けられるとは、と思いながら。
茨城は、スーパーからの帰り道だったんだが、と笑みを浮かべる。
「まあ丁度良かった」
「.....助かった。本気で。有難う」
「そうだね.....雪歩君」
「それはそうと腹大丈夫か」
「.....警察は呼んだんだけどな」
そして間も無くサイレンの音がした。
俺達は顔を見合わせながら.....そのサイレンを待つ。
それから俺は救護所に行った。
腹に関してだが.....内臓破裂とかはしてない様だ。
軽傷であって.....の感じだった。
☆
「ねえ。茨城」
「何」
「貴方は何で.....その。私達を助けたの」
「それは気まぐれ.....っていう訳じゃ無いけど.....」
警察と話してからの救護所。
その様な会話が聞こえる。
そんな声を聞きながら俺は救護所にて包帯を巻かれていた。
本気で.....良かったと思う。
全てが、だ。
「災難だったねぇ。坊主。.....まあ.....気を付けてな」
中年の医者はそう言いながらニカッと笑顔を浮かべた。
それから背中をバシンと叩く。
巻き終わってから、だ。
俺は苦笑い。
この辺はマジに変な奴らばっかだから、と言いながら。
「.....気を付けな」
「.....はい」
それから俺は頭を下げて救護所を後にした。
そして外に出ると.....腕組みをしていた子連れの茨城と。
待っていた様な椋がやって来る。
そうしてから聞いてきた。
「大丈夫?」
「.....まあ.....痛みはあるけど大丈夫だ」
「災難だったな」
「お前が来てくれてマジに助かった。有難う。茨城」
そうか、と言いながら茨城は子供を背負う。
それから、じゃあアタシ行くから、と言ってくる。
俺達は顔を見合わせて、ああ、と言いながら見送った。
そして椋を見る。
「.....ゴメンね。色々な人に迷惑掛けて」
「何も気にする事はないよ。正直アイツの過去も知れて面白い」
「.....ゴメン.....本当に.....」
涙を浮かべた椋を俺は抱き締める。
そして頭を撫でた。
もう大丈夫だから、と言い聞かせる様に、だ。
椋は、あんな奴.....死んでほしい、と言っていた。
「.....ああいう奴は直ぐ死ぬさ。.....大丈夫。心配無いよ」
「止めれなかった。.....私。雪歩君に蹴りが入るの」
「仕方ないよ。犠牲は必要だったから」
でもこれ以上に被害が及ばなかったのは本気で茨城のお陰だ。
アイツには.....マジに感謝しかない。
思いながら俺は茨城の去った方角を見ながらそう思った。
変わる奴らも居れば。
変わらない奴らも居る。
アイロニーだなこの世の中は.....。
そう考えながらである。
椋に危害が及ばなくて良かった.....とにかく。
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