この先の幸せという未来へ
第23話 海デート(1)
『あのね。.....貴方と一緒に海に行きたいんだ』
その椋の一言がきっかけで俺と椋は海のデートに行く事になった。
そんな肝心のデートプランだが.....綾香参上である。
何だか髪の毛をツインテの様にしている感じだ。
そして丸眼鏡を掛ける。
何時もながらの服装だな。
俺なんぞにデートプランを考えさせると全てが滅茶苦茶になってしまう、という事で.....あるが。
あのな、と思い盛大に溜息が出た。
酷いな.....綾香め。
俺を何だと思っているのだ。
「お菓子を貰ったら何でもするよ」
「.....まあ確かにね。.....綾香は本当にお菓子が好きだよね」
「お菓子=命だからねぇ」
「そうですか.....」
丁度帰って来てから。
綾香がまた家の前を彷徨いていたので声を掛けたらそんな事になった。
俺の家に転がり込んで来ての学習である。
デートについてである。
俺は、ふむ、と思いノートにメモを取る。
「先ず女の子は落胆し易いからメモメモ」
「.....そうだね。.....確かにね。落胆は.....し易いよね」
「そうそう。それから.....女の子は楽しみたいと思っているからメモメモ」
バシバシノートに太字を書いて叩く綾香。
俺はその様子を見ながら一生懸命にメモを取る。
すると綾香が俺に向いてきた。
あ。そういえばお兄は何か服買った?、と。
俺は少しだけ目を泳がせる。
ジト目になる綾香。
「.....お兄.....」
「.....いや。デートの度に服装を切り替えたらキリがないだろう.....」
「ぇえ!?.....アホなのお兄!?駄目に決まっているでしょ!普通のデートならまだしも!今回は椋さんの誕生日なんだから!特別な日なんだよ!?鈍感過ぎるでしょ!」
「で、ですね。はい」
「ほら!お兄!今から買い出しに行くよ!」
そして俺達は外に出る事になる。
夜が迫っているのでそのまま即帰るが。
取り敢えずのコーデは買えた様な気がする。
俺は心から安心しながらホッとする。
それから.....7月に突入しての.....7月5日。
学校が丁度、教職員会議で休みの日。
綾香に教えてもらった事を活かす為にノートを持ってからデートを開始した。
よし.....今回は上手くいきそうだ、と思いつつ。
☆
「.....!.....は、早いね。椋」
「うん。でもしっかり寝不足だよ。.....楽しみで.....仕方が無かったから」
集合時間の15分前。
椋が集合場所の駅に居た。
早めに出て良かったな、と思う。
これも綾香から教わった事だが、女の子は楽しみな日は早くなる、という。
その為に10分前に出たが。
間に合わなかった。
「.....」
「どうしたの?」
「.....白のワンピースに.....麦わら帽子。.....ありきたりなコーデだけど愛している椋が着るとやっぱりよく似合うね」
「え?.....あ。うん.....有難う.....恥ずかしい.....有難う」
椋は真っ赤になって麦わら帽子で顔を隠す様に赤面する。
俺も赤面しながら。
綾香の言葉を思い出す。
コーデを十分に褒めたりする事、と。
でもいかんな。
綾香に頼ってばっかだ。
良くない良くない。
考えながら俺は話を切り替える様に椋に向く。
「じゃ、じゃあ行こうか.....」
「.....そうだね。椋.....」
「あ.....腕を繋ごうよ」
「そうだね」
それから俺の腕に縋って来る椋。
だがまだ慣れてないのか。
完全に赤くなっている。
それは暑さでは無い事は一発で分かった。
何故なら.....腕も熱い。
「.....き、緊張する」
「何がだい?」
「その。今回は.....み、水着.....似合っているか分からないから」
「.....そんなの。全部.....椋の場合は全てが似合うから.....良いんだよ。椋」
「も、もう。嬉しいけど.....」
そんな事を言いながらナイスタイミングで来た電車に乗り込む。
それから笑みを浮かべ合う。
因みに海だがこの先の2駅先だ。
隣町。
そこに大きな海があるのだ。
「雪歩君」
「.....何?」
「これ。お菓子。.....食べて。作ったから。全部作った」
「クッキーとかマドレーヌ?」
「うん。楽しみで仕方が無かったからお母さんにも手伝ってもらって。お父さんにも全部手伝ってもらった。それで作ったの」
「.....親御さんの許可は取れた?」
全然、余裕だったよ。
と満面の笑顔でクッキーを手にする椋。
俺はその姿に、そうか、と納得しながらマドレーヌを手に取る。
そして食べると.....ホロホロしていてすぐ崩れた。
歯で噛み砕く必要すら無い。
美味すぎる。
その様子に、これも、と何か出してきた。
それは.....紅茶ポット。
俺は、!?、と思いながら見開いて椋を見る。
お紅茶しか無いけど作ったから、と笑顔を浮かべる。
「.....十分だよ。有難うね。椋」
「この前はコーヒーだったから今回は紅茶にしたの。飲んで飲んで」
「.....有難うね」
「うん。雪歩君の為に作るの楽しい」
「俺も用意したよ。椋の為にね」
「え?何を?」
俺はそれを出す。
それは.....部屋で撮ったぬいぐるみの写真だ。
流石にあのデカいウサギのぬいぐるみは持って来れなかったので後で渡す為の大きなウサギのぬいぐるみの写真を見せたのである。
すると椋は目をパチクリして目を丸くした。
そしてゆっくり俺に向いてくる。
「これ私に?」
「そう。誕生日おめでとう。椋」
「もう。こんな大きなもの.....こんなにお金使わないで良いのに.....でも嬉しくて仕方が無い.....私」
「椋の為に用意したから。.....だから構わない。それに日頃のお礼もあるから」
「.....だから好きだよ。雪歩君の事」
「俺も愛してるよ」
そんな事を言いながら2人で外を見る。
もう直ぐしたら到着しそうな感じだった。
煌びやかな海が見えて来たからである。
俺はその光景に笑みを浮かべてクッキーを食べる。
そして淹れられた紅茶を飲んだ。
「その紅茶は私が.....淹れたの。どうかな.....」
「これは俺に合わせたの?.....何だか随分と好みの味なんだけど.....」
「うん。苦そうなのが好きみたいだから」
「.....恥ずかしいね。.....そんな事が分かっちゃうなんて」
「2週間近く一緒なんだから。当たり前だよ。でも雪歩君の事なんて知ってばかり」
「.....そうなんだね」
うん、と言いながら、エヘヘ、と歯に噛む椋。
それから俺に笑みを浮かべた。
この笑顔は本当にこの世の全てのダイヤモンドとかよりも輝いて見える。
俺は.....笑みが止まらなかった。
すると少しだけ切り替わって真剣な顔になる。
「何というか.....茨城の件.....雪歩君はこれで良かったの?」
「茨城か。.....良かったんだ。これで。許しては無いけど.....許したい気持ちで接する.....これで良かったんだ」
「.....本当に優しいね。雪歩君。.....私が惚れるワケだ」
「優しいんじゃないよ。.....アイツが可哀想だから救ってやっただけだよ。.....やさしい気持ちで接している訳じゃ無いから。そんなつもりは微塵も無いから」
「.....それでも雪歩君の周りに人が寄って来るのは全て.....雪歩君の優しさだと思うよ。雪歩君」
俺は微笑むその言葉に赤面する。
そして電車は.....駅に着いた。
俺達は慌てながら荷物を持ってから外に出る。
それから電車が去って背後を見ると丘の下に.....海が見えた。
白い建物達の奥の方に、だ。
此処は海原駅というのだが.....その通りだな本当に。
「.....綺麗だね。此処ね.....いつか恋人と一緒に来たいって思った場所なの」
「俺もかも。.....同じだよ」
「そうなんだ。.....同じだね。.....嬉しいよ」
「俺も椋と来られて.....幸せだ」
そうして見つめ合っていると。
メッセージが入って来た。
ビクッとする俺達。
何事かと思って開くとそこにはこう書かれていた。
まず綾香から。
(お兄頑張れ。昨日の件で大丈夫だからね)
そして田中と首藤。
(クソ羨ま死ねよお前)(おう。祝ってやるぜ?心から楽しんで死ねよ)
全くコイツらというヤツは.....。
思いながら俺は額に手を添えて苦笑してスマホを閉じる。
そして俺はスマホを仕舞ってから手を差し出した。
椋は柔和な笑みで手を差し伸ばしその手を握ってくる。
俺はシャルウィダンス?的な感じでその手を引く。
それから.....海へと歩き出した。
大きな海にである。
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