第22話 海に行きたい

反省してどうにかなるものでは無い。

俺は.....コイツ。

つまり茨城を心から許している訳じゃ無い。

だが話し合いで何か分かり合える気がするのだ。

だから俺は.....話を聞いてやった。


目の前で田中と首藤が見張っていて横に茨城が座っている。

それから俺の横に椋が居る。

此処は公園であるが.....今は子供は居ない。

話し易いかな、と思った。


「アタシはアンタをイジメたクズだけど。.....でも妹達はクズじゃ無い。それだけは知っておいてほしいんだ」


「.....子供に非は無いと思うから。大丈夫だよ」


その言葉に複雑な顔を一瞬だけ目の前に上げた。

それからまた俯く。

俺はその姿を見つつ.....空を見上げる。

すると、なあ。アンタは何でそんなに優しいんだ。私に寄り添って来る様に。.....アンタみたいな人格は初めてだ、と俺を見てくる。


「俺はお前に寄り添っている訳じゃ無いよ。勘違いしないでくれ。.....俺はあくまで過去に向き合った方が良いかと思っただけだから」


「.....それでも話を聞くアンタは異常者だ。.....でも.....アタシはアンタの事。見直した気がする。ただのイジメられっ子じゃ無いって事に」


「そうか」


俺は苦笑しながら茨城を見る。

茨城は真剣な顔で俺を見つめてくる。

その顔を見ながら、それで相談って何なんだ、と切り出してみる。

今の今はずっと話を誤魔化している感じだが。

思いつつ.....話を聞くと。


「アタシは母親と妹と一緒に隣の隣町から逃げて家を出ようと思う」


「.....それは.....また凄い話だな。.....家を出るのか」


「要は実家を切り捨てて夜逃げするみたいな。.....相談ってのは良い住処を知らないか、って事だよ」


「何でそんな話を俺に?」


「.....アンタは他の奴とは違う。信頼出来る奴だと思うから」


衝撃的な一言だった。

俺は茨城を見る。

茨城は髪をかき上げて俺を見る。

田中も首藤も顔を見合わせている。

驚きの表情で、だ。


「じゃあ.....茨城。.....貴方は逃げ場所を田中君に聞きたいの?」


「.....そうだね。.....この街は良い場所だと思うから」


「俺に聞いても役に立たないと思うよ。.....何で俺なのか」


「アンタは何でも知ってそうだからね」


そして笑みを浮かべる茨城。

それから少しだけ複雑な顔で前を見た。

前のブランコが風で揺れる。

それを見る様に、である。

俺はその姿に釣られて見る。


「.....椋」


「.....何?田中君」


「コイツの為に何かやって良いか」


「.....それは田中君が決める事だよ。.....私じゃ無い」


すると、正気かお前は、と田中が切り出してくる。

コイツはお前を散々イジメた馬鹿にしたクズだぞ、とも。

首藤も、それは賛成出来ない、と頷く。

俺はその言葉に、だよなぁ、と言う。

だけど.....賭けてみたいんだろうな俺.....。


「.....田中。首藤。.....お前らも協力してくれないか」


「コイツの為に?.....全くお前はお人好し過ぎるだろ.....」


「仕方が無いな。相棒が言うなら」


茨城は驚きながら俺達を見る。

そして、正気かアンタら、という感じで、だ。

何言ってんだコイツは。

コイツがそもそも切り出したんだぞ。

思いながら茨城を見る。


「.....お前が切り出したんだよ。全ては」


「アタシが.....出会った奴らがアンタらだったら良かったのにな。.....小学校からずっと。.....そうしたら.....変わったかもしれない。今のアタシは」


そして苦笑する茨城。

俯きながら涙を隠している様だ。

俺はその姿を見ながら.....息を吐く。


その息は空に包まれる様に飛んでいく。

俺もお人好しの馬鹿野郎だな、と思いつつ、だ。

すると田中がこんな事を言い出した。


「俺の知り合いが不動産屋だ。.....という事で何とかしてやるよ。茨城」


「.....え。田中の?」


「そうだよ。.....ったくお人好しの大馬鹿野郎に頼まれちゃ断れんわ。クソッタレが」


「.....田中.....有難う」


言いながら茨城は笑みを浮かべる。

涙を拭いながら、だ。

そんな茨城の姿を見て.....何だか安心した。


というか安心する方がおかしいのだが。

結局分かり合う事が正しかったんだな、と。

そんな事を思ったのだ。


「田中君」


「.....何?椋」


「良かったね」


「.....そうだね。.....心臓のドキドキもそこそこ治った」


そんな感じで言いながら。

俺達は笑い言い合う。

まだ過去と向き合う事が全て出来て無いが。

それでも何か歩み出せる気がした。

今からこの境界線を越えて、だ。


「.....困ったもんだな。お前さんも」


「全くその通りだな。田中」


「.....有難うね。お前らも」


いや。お前が良いなら良いけど。

と言いながら田中と首藤は盛大に溜息を吐く。

そして取り敢えずは.....当面は。

茨城の家を探す事になった。



「雪歩君」


「.....何だい?」


「.....海に行かない?海デート。7月になったら.....行きたい。誕生日も祝ってほしいから」


「.....そうだね。行こうか。一緒に」


帰り道の事。

う。うん、と言いながら赤くなって頷く椋。

俺は夕焼けの日も相まって赤くなっている椋に俺も笑みを浮かべる。

プレゼントをあげるべき時が近付いて来ているな。

でも.....そうだな。


「椋」


「.....何?雪歩君」


渡そうと思った。

何をと言えば綾香と一緒に買ったプレゼント。

丁度.....ウサギのあの店で買ったカチューシャだ。


何故これを先にプレゼントするかといえば。

簡単だ。

着けてほしい。


「椋。これは誕生日プレゼント。.....あげる」


「.....え.....本当に!!!!?」


「うん。身に付けてほしくて」


「うん。分かった。じゃあ身に着ける」


そして髪留めを結ぶ為に上げた腕から脇が見える。

少しだけ赤くなりながらそっぽを見ていると。

出来たよ、と椋が笑みを浮かべて俺を見てくる。

俺はその椋を見る.....うわ。


「すっごく可愛い.....ね」


「.....有難う。とっても嬉しくて涙が出そう」


「アハハ。有難う。そんなに喜んでくれて俺も光栄だね」


「うん。本当に有難う。雪歩君」


俺達は手を繋ぐ。

すると椋がこう言った。

みんなも誘っていつか何処かに行きたいね、とも。

俺は、そうだね、と言いながら椋を見た。

それから俺達は前を見る。


「愛してるよ。椋」


「.....うん。私も大好き。雪歩君の事が」


そして俺達は笑み合ってから手を繋いでいたのだが。

椋が俺の腕を取った。

それから絡ませてくる。

所謂、恋人繋ぎになっている.....!?


「ちょ。む、椋。恥ずかしい.....」


「えへへ。優しい雪歩君が大好きだよ」


「.....も、もう.....」


それから俺達は赤くなりながら帰宅した。

明日はどんな日になるか。

そんな事を考えても幸せだ。

こんな日常が.....である。

考えながら俺は.....夕焼け空を見上げた。

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