第21話 茨城と雪歩と.....過去のケリと

茨城と前から向き合う事。

その事を.....椋のご両親が教えてくれた。

それからひだまりで少しだけ時間を過ごしてからの次の日。


俺は考えながら.....日差しがジリジリと俺を照らす中。

椋と一緒に登校して教室にやって来ると。

茨城が俺の席に座っていた。

椋がピクッと反応する。


「.....ハハッ。アンタ来たんだ」


教室が離れてのザワザワとなっている。

田中と首藤もかなり睨みを効かせている。

何時になったら殴ろうか、という感じで、である。

俺はそんな田中と首藤を落ち着かせながら.....心臓の鼓動を抑えつつ茨城に向いた。

茨城、と声を掛けながら、だ。


「何?腹立つの?そうだよねぇ」


「違う。.....話があるんだよ。.....サシで屋上に行かないか」


俺はその様に告げる。

鞄を置いてから震える手を抑えながら。

すると茨城は、何言ってんの?、的な感じで不愉快な目になる。

それから机から降りて俺に向いてくる。


「は?アンタ何様?私に指示するとか」


「.....茨城。俺はな。.....お前と一対一で話をしようと思う。過去に.....少しだけでも決着をつけたい」


「今更、過去なんか変えれないって。.....醜いねぇ。アタシがぶっ壊す」


テメェ!!!!!コラァ!!!!!、と田中が言うのを手で阻止しながら。

俺は、茨城。俺はな。実はお前の事をずっと考えていたんだ。それで昨日だけどとある場所からの偶然帰り道で子供と一緒のお前を見掛けたから内緒で付いて行ったんだよ、と告げる。


すると真顔で俺を、は?、と静かに怒る様見てきた。

それから、あーあ。そんなくだらねぇ事するんだ、と溜息を吐く。

その茨城に告げる。


「お前さ。.....子供を大切に。親切心沢山がお前の心にあるんじゃないかって思うんだ。俺は」


「.....は?」


「.....お前ずっと妹?か弟の世話をしていたじゃないか。道に迷っているお婆さんを助けたよな?暫く観察させてもらったけど。子供の世話をずっとしていたじゃないか」


「何.....何処まで見てんだよお前!!!!!」


ガンッと机を蹴っ飛ばす茨城。

威嚇する様に、だ。

俺はその事にチクリと胸が痛んだがまだ話を続けた。

茨城。俺は知っている。お前の親の事も。思い出したんだ。過去に全ての記憶を葬っていたんだが.....お前は昔、虐待を受けていたよね、と言いながら。

俺を睨んでくる茨城。


「.....お前さ。俺達にずっと救済を求めていたんじゃ無いのか。それがイジメに具現化したんじゃ無いのか。今の状態に」


「あー!!!!!もう良い!アンタと話していると気が狂いそうになる」


「それは気が狂うに決まっているだろ。茨城。.....俺はお前の事は嫌いだ。.....だけど何時までも嫌う事を駄目だと言ってくれた人達が居た。お前には日が差し込まなかったんだ」


そして俺の胸ぐらを掴んでくる茨城。

それに田中と首藤が本気で殴り掛かろうとする。

俺を殴ってくるか、と思って片目を閉じたが。

だが次の瞬間だった。

茨城が涙目になっている事に気が付く。


「.....アンタに.....何が分かるんだよ.....」


「.....正直俺は何も分からない。.....だけどお前とは同級生だった。だから何か出来る事があったんじゃ無いかって。.....悲鳴をあげている事に気が付かなかったのは.....考えるものがある。俺はお前にやられていたから何も言えないけど」


「クソッタレ!ムカつく!アンタがムカつく!アンタが!!!!!アンタが死ぬほどムカつく!!!!!」


「.....茨城。俺はお前の悲鳴に全部は応えれないと思う。.....だけどな。今からならお前の悲鳴に手を差し伸べる事が出来ると思うんだ。きっと。だから俺にイジメをするんじゃなくて改心してくれないか」


茨城は俺に向きながら。

涙を流して.....そのまま泣き始める。

田中と首藤は意表な感じに顔を見合わせる。

それから茨城を見た。

茨城に俺はハンカチを渡す。


「.....茨城。俺は専門家じゃ無いよ。.....だからお前の気持ちは全部は分からない。.....だけどお前は.....きっと救われる人なんだ。俺が椋に救われた様に」


「アンタに相当酷い事をしたんだ。今更.....」


「まだ変われるさ。犯罪を起こしてないしな。身内で済んでいるから。お前が変わるなら俺は心の底から応援したいと思うよ。.....どうするかはお前に任せるけど」


「.....助けてとか言わないぞ。アタシは。そんな人間じゃ無い。弱くない」


「そうか。.....俺達は何時もこの場所に居るから。助けが要るなら言ってくれ」


俺は言いながら膝を曲げる。

椋が、それは言い過ぎじゃないの?田中君、と言ってくる。

確かに言い過ぎも優し過ぎかもしれないな。

だけど.....コイツに今必要なのは反省じゃない。

助け、だと思う。


「.....馬鹿なんじゃないの.....アンタ。アンタみたいな.....馬鹿は.....嫌いだ」


「嫌いでも良いよ。そう思われるのも光栄だ」


「.....」


茨城は立ち上がった。

それからヨロヨロと去って行く。

そして振り返ってから俺を見てくる。


少しだけ見てからそのまま去って行った。

俺はその姿を見ながら居ると。

田中が頭をスパーンと叩いてきた。


「優し過ぎだ!心配したぞ!このハゲ!」


「その通りだぞ!この阿呆!」


「.....すまない。でも丁度良かったよ。アイツと話が出来て」


「心配した.....本当に。優し過ぎるよ。田中君」


「音無。御免な」


そしてその日の事だが。

アイツは全然、教室とかに現れなくなった。

イジメを、妨害をして来なくなったのだが。

放課後の事である。

俯いた感じで茨城がぬらりと校門の辺りから現れた。


「.....田中雪歩。.....生意気すぎるけど.....その。アタシの相談に乗ってくれるか」


そう言いながらであるが。

俺と、警戒する田中と首藤。

警戒している椋が顔を見合わせた。

その様子は複雑な顔で屍人の様である。

何だ?、と思いながら.....俺は茨城を訝しげに見た。

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